今年で生誕70年を迎えた大瀧詠一。その影響力はいまだ衰えることなく、新世代のミュージシャンたちを刺激し続けている。そんななか、いまのインディー・シーンで注目を集めるアーティストたちが、大瀧が残した名曲の数々をあの手この手でカヴァーしたアルバム『GO! GO! ARAGAIN』が完成した。大瀧のマニアックなポップ・センスと、若手達の才能を同時に楽しめる一石二鳥の本作。その内容を曲ごとに紹介していこう。

★11月4日に渋谷ストリームホールで開催されたリリパのレポートはこちら

 
参加ミュージシャンがサインを入れた『GO! GO! ARAGAIN』のアートワーク

 

1. 少林兄弟 “君は天然色”
トップバッターは小西康陽が「21世紀に入って最初に好きなバンド」と絶賛するバンド、少林兄弟で、80年代を代表するヒット曲をカヴァー。〈サビまで待ってられない!〉とばかりにアカペラのコーラスで幕を開けて、痛快なロックンロールで突っ走る。炸裂するギター、ハネまくるリズム。原曲のロックなエッセンスを抽出しつつ、昭和歌謡のいなたさも漂わせたゴキゲンな仕上がりだ。

2. キイチビール&ザ・ホーリーティッツ “指切り”
大瀧詠一と同じく岩手出身のキイチビールを中心にした5人組バンド。ピチカート・ファイヴもカヴァーしたこの曲は、アル・グリーンを意識して作られたソウルフルなナンバー。それをたたみかけるような骨太なバンド・サウンドで、豪快に聴かせる。グランジを思わせる歪んだギターの爆発や、意表を突いたサイケデリックな展開などアイデアたっぷり。

ayU tokiO
 

3. ayU tokiO “幸せな結末”
最近では、鈴木博文、やなぎさわまちこなどのプロデュースも手掛けるなど、裏方としても注目を集める猪爪東風のソロ・ユニット。オリジナルはTVドラマの主題歌に使用されて97年に大ヒットした曲で、そのゴージャスなオーケストラ・サウンドをDIY的に構築。音のピースをパズルのように組み立てた緻密なサウンドメイキングに鬼才ぶりが伝わってくる。

4. bjons “雨のウェンズデイ”
今年5月にファースト・アルバム『SILLYPOPS』をリリースした、東京を拠点に活動する3人組バンド。ゆったりとレイドバックした雰囲気のなか、ソウルフルなホーンをアクセントにしたタイトなバンド・サウンドで原曲のエッセンスを抽出していて、いつまでも聴いていられそうな心地良いグルーヴを生み出している。ナイーヴな歌声も曲にぴったり。

5. 秘密のミーニーズ “春らんまん”
ほんのりとサイケな匂いを漂わせたフォーキーなロックを聴かせる5人組バンド。彼らが今回チョイスしたのは、はっぴいえんど『風街ろまん』(71年)収録曲。バンジョーにスティール・ギター、さらにフィドルも加わったサウンドはカントリー・ロック色が強いが、ハリのある女性ヴォーカルがフロントにいることでフェアポート・コンヴェンションのような雰囲気も。

KEEPON(キーポン)
 

6. KEEPON “ロックンロールマーチ”
マルチプレイヤーで、作詞作曲をこなし、多重録音で曲を作り上げる中学生(!)。60〜70年代のロックが好きでナイアガラーでもある彼が選んだのは、ニューオーリンズ・サウンドを遊び心たっぷりに料理したナンバー。宅録感溢れるサウンドで、ドタバタしたドラムやシャウトは元気いっぱい。原曲のノベルティー感を、等身大の歌心で見事に表現している。

7. 柴田聡子 “風立ちぬ”
詩人としての顔も持つシンガー・ソングライター、柴田聡子。昨年リリースした『愛の休日』では、これまで以上にポップな曲を聴かせてくれただけに、松本隆(作詞)×大瀧詠一(作曲)の黄金コンビによる松田聖子のヒット曲はぴったりのチョイスだ。オリジナルをなぞるようなバンド・サウンドにのって、少女のイノセンスと毒気を併せ持った歌声が魅力的。

トリプルファイヤー
 

8. トリプルファイヤー “朝寝坊”
ポスト・パンク的なファンキーなサウンドと、シュールな歌詞で独自の世界を生み出す4人組バンド。彼らが選んだのは、大瀧のファースト・アルバムに収録されたジャジーなナンバー。子供合唱団みたいなコーラスを加えた脱力感漂うサウンドで、キーボードがふわふわと奏でられる長い間奏は、二度寝したような心地良いまどろみを感じさせる。

9. やなぎさわまちこ “うれしい予感”
本作に参加したayU tokiOのサポートも務める女性シンガー・ソングライター。カヴァーするのは、大瀧が作曲を手掛けて、渡辺満里奈が歌った「ちびまる子ちゃん」の主題歌だ。ayU tokiOこと猪爪東風が参加。シンセとギターを中心にしたミニマルなサウンドで、キュートな音色や澄んだ歌声は「ちびまる子ちゃん」の世界に通じるものがある。

OLD DAYS TAILOR
 

10. OLD DAYS TAILOR “Velvet Motel”
シンガー・ソングライターの笹倉慎介と、元・森は生きているのメンバー3人(岡田拓郎、谷口雄、増村和彦)らによって結成されたバンド。ファースト・アルバムでは“恋の汽車ポッポ”をカヴァーしていたが、今回は『A LONG VACATION』(81年)から選曲。オリジナルの音響を意識した、透明感があるミックスにこだわりを感じさせる一方で、裏声を駆使したヴォーカルは本家に迫る名調子。

11. Spoonful of Lovin’ “それはぼくじゃないよ”
谷口雄、ポニーのヒサミツ、渡瀬賢吾、サボテン楽団により、ラヴィン・スプーンフル再発記念イヴェントのために一夜限りで結成されたバンドが再集結。彼らが選んだのは、シングル“恋は汽車ポッポ”のB面曲で、原曲のカントリー・テイストをアコーディオンやバンジョーを加えて本格的に追求。ライヴ感溢れるオーガニックな演奏で、さらりと聴かせて爽やかな余韻を残す。

シャムキャッツ
 

12. シャムキャッツ “夢で逢えたら”
アルバムのトリを務めるのは、オルタナティヴな音楽性とポップ・センスを併せ持つ4人組バンド。カヴァーするのは、これまでさまざまなアーティストが歌ってきた名曲中の名曲だ。サイケデリックなゆらめきを感じさせるバンド・サウンドに乗って、ヴォーカルの夏目知幸は情感たっぷりに歌っている。曲の後半から広がりを見せていくギターは、まさに夢見心地。

気に入った曲があれば、オリジナル曲を聴くもよし。カヴァーしたアーティストの作品を聴くもよし。大瀧詠一というマエストロをめぐる音楽の旅へ、GO! GO!