INTERVIEW

カジヒデキのGOTHでROMANCEな生き様

青春を描き続けた52歳が想う、いつか訪れる終わり

カジヒデキのGOTHでROMANCEな生き様

〈フランス映画にしようよ/二人の距離縮めるには/オシャレでロマンチックなラブが必要〉という、あまりにも軽快な歌で幕を開けるカジヒデキの18枚目のオリジナル・フル・アルバム『GOTH ROMANCE』。プロデュースを盟友・堀江博久が手掛け、小山田圭吾、野宮真貴、おとぎ話、The Wisely Brothers、のん、栗原類など、若手からヴェテランに至るまで錚々たるミュージシャンや俳優が参加した本作(参加した面々のすべてはここでは書き切れないが少し検索すればすぐに出てくるのでぜひチェックしてみてほしい。豪華すぎるので!)。ここにはデビュー時から変わらぬ瑞々しい魅力に溢れ、それと同時に、ただ軽やかなだけではなく、ふとした瞬間に軽やかであり続けることにすごみを感じさせる、じつに奥行きが深く噛み応えのあるポップスが広がっている。今回のインタヴューでは本作のプロデュースを堀江に託した背景、制作方法の変化とその手応え、絶え間ない創作の源泉に迫った。

カジヒデキ GOTH ROMANCE BLUE BOYS CLUB/AWDR/LR2(2019)

――いきなり雑談になってしまいますが、カジさんの最近の楽曲提供仕事だと、あっとせぶんてぃーんの一連の曲がすごく好きなんです。

※現役メイドからなるポップ・ユニット。
 

「ありがとうございます。あっとせぶんてぃーんは結構力入れて作ってます。セルフ・カヴァーしたいと思っているくらいで」

――アイドル・ソングだからこそストレートなオマージュも入れやすいのかなと。ストロベリー・スウィッチブレイドとか。

「シングル用の曲を、という話だったのでストレートにいったほうがいいかなと。いわゆるアイドル・ソングらしい、BPMが速くてドンドンドンドンっていう4つ打ちみたいな曲じゃなくて、80年代の洋楽っぽい感じでやってほしいと依頼されたこともあり、本当に好きにやれてます」

あっとせぶんてぃーんの2017年のシングル“セブンティーンパフェ”。カジヒデキが作曲とプロデュースを担当し、ストロベリー・スウィッチブレイド“Since Yeasterday”のオマージュも挿入されている
 

――以前、イヴェントに出てもらう機会もあったんですけど、やっぱりドンドンしてないと不安なところもあるみたいで。カジさんの曲を歌うのが個性になっていると思うんですけど。

「彼女たちのワンマン・ライヴなどに足を運ぶと、やっぱりBPMが速くて、オイ!オイ!ってできる曲の方が圧倒的に人気なんですよね(苦笑)。そう考えると僕がこういう曲を作っても彼女たちは本当に嬉しいのかな?と(笑)。別の見方をすれば、こだわったいい曲をやってると思ってもらえたらいいんですけどね」

 

ポップやロックを熟知した堀江博久が全編プロデュース

――ここからはカジさんのニュー・アルバム『GOTH ROMANCE』のことを伺っていきたいと思います。まず、堀江博久さんをプロデューサーに迎えた点が大きな特徴で。全編プロデュースという形になった経緯を教えてください。

「3年くらい前に堀江くんと話す機会があって、次のアルバムは一緒にやろうよって言ってくれていたんですよね。僕も堀江くんに全部をやってほしいとは思っていたんですけど、アルバムをトータルでプロデュースしていただくことは結構大変なことなんです。いままでも(予算を)やりくりしながら何枚も作ってきていて、例えば半分くらいはこの人にやってもらって半分くらいは自分でやろうとか。

でも、前EPの『秋のオリーブ』(2018年)で堀江くんに2曲やってもらって、その制作を経て、自分がある程度責任を追ったほうがいいと思ってくれたんじゃないかな(記事〈なぜカジヒデキはボーダーを着続けられるのか? 堀江博久と語る『秋のオリーブ』〉を参照)。きっと僕のアルバム用のデモもすごく気に入ってくれたんだと思う。堀江くんはディレクター的な側面もすごくあるんです。宣伝の仕方とかも考えるA&R的な部分もある。そういうところも含め、レコーディング前からいろいろな話をしてくれましたね」

『秋のオリーブ』表題曲
 

――戦略的な部分まで含めてのトータルのプロデュースなんですね。

「これまでさまざまな方にプロデュースをしてもらったんですけど、さすがにそこまでやる人はいなかった。いちばん親身になってくれました。セルフ・プロデュースはセルフ・プロデュースのおもしろさもあるんですけど、やっぱり自分で作れる領域、範囲は自分でもわかっているので、もうちょっと違ったクォリティーのものを作りたいと思っていたんです。よりポップスやロックを熟知している人に丁寧にやってもらったら、もっといい作品が出来るって。堀江くんはそういうのに長けていると思いました」

――では、自然な流れだったんですね。

「そうですね。長く付き合ってきて、各アルバムでキーボードをやってもらってきていたんですけど、それだとレコーディングで1日だけ来てもらうような感じなので、アルバム全体の口出しはできないじゃないですか」

――あくまでプレイヤーとして参加しているから、一線は越えられないというか。

「レコーディングでもある側面しか見ることができないので、堀江くんくんなりにきっともどかしかったところもあったのかなと。今回はかなり踏み込んできてくれた感じです。〈まず自分が何をしたいか〉というプランありきではあるんですけど、それを伝えたうえで、参加ミュージシャンのキャスティングとかも考えてくれて。レコーディングをしながら、〈ここをこうすればストーリーが繋がっていいんじゃないか〉ってアイデアが出てきて、そのうえで誰にコーラスを頼むか、ミックスをやっていただくかという話になったんです」

 

きちんとプリプロをして作った初のアルバム

――レーベルのサイトで見られる川崎大助さんの解説に、今回きちんとプリプロをされたということが書いてあって、驚いたんです。それまではなかったのかって。

「川崎さんのを読むと素人みたいですよね、僕(笑)。90年代は特にそうだったと思うんですけど、まだ音楽産業に力があったじゃないですか」

――潤沢な予算もあって。

「先にスタジオが押さえられていて。本来はそこに合わせて曲を用意しておかなきゃいけないんですけど、間に合わなくて、スタジオに入ってから曲を作りはじめるみたいなこともありましたね。稀にですが(笑)。しかも、そのスタジオも一日何十万円もするようなところで。それが許された時代だった。それがよくなかったのかもしれないですね(笑)。あの時代はきっとどこもそうだったと思うし、今回参加してくれた野宮(真貴)さんと話したときに、ピチカート(・ファイヴ)もそうだったっていう話を聞きました。歌詞が出来る前にスタジオに入って、その日のうちに歌詞が出来あがって、という。

自分も『ミニスカート』(97年)というアルバムのときは、曲はあってプリプロもやったんですけど、歌詞がほとんど出来てなくて。スウェーデンに行って、レコーディングの最中に歌詞を書いたんですよね。でも、そのほうが曲の感じに合わせて書けるんですよ。自分は詞先のアーティストではないので、曲の雰囲気にぴったりくる言葉を乗せたいというのがすごくあるんです」

『ミニスカート』収録曲“ラ・ブーム~だってMY BOOM IS ME~”
 

――サウンドやアレンジが固まってから歌詞を書いていた。

「ある程度固まったほうが歌詞が作りやすいんですよね。その後もずっとそういうやり方でやってきました」

――それに、そのほうが勢いが出ることもあるんじゃないですか?

「もちろんそれもあるし、成功例もたくさん作ってきたと思います。だけどホームランもあれば三振もある訳で(笑)、雑だなと思うこともあったり、自分的にもせっかくいいアレンジで曲が出来上がったのに歌詞がイマイチだったなということもあって。とはいえ、〈歌詞を先に書いてね〉って言われても出来ない時は出来ないんですよね(笑)。ただ、今回は〈歌詞が全部揃わなければアルバムのレコーディングに入らない〉と堀江くんに言われていたので。去年の秋くらいから悩みながら作っていました」

――アレンジが固まってから歌詞を書くのとは違った作りになりますよね。

「その意味で言うと、デモ自体はある程度自分で作るんですよ。アレンジはこういう感じでイントロのメロはこうでと作ってはいるので」

――ギター1本で弾き語りみたいなものではない。

「ではないですね。だからある程度の雰囲気は出来ているんですよね」

 

齢を重ねたからこそ描ける、青春のストーリー

――歌詞を書いてプリプロを経た結果、仕上がりとしてはこれまでと違ったのでしょうか? 実際聴いてみて、これはすごい作品だと思いました。

「ありがとうございます。自分の気持ちとしてはかなり違います。納得度が全然違う。すごく納得したうえで歌に取り組めている。ギリギリで書いてしまうと、歌詞がある程度いい感じに出来ていてもちゃんと歌い込めてなかったりするし……これ、自分の過去の悪い話をしてますかね。おおいに反省します(笑)。堀江くんも歌詞のチェックをして、アドヴァイスしてくれて。『秋のオリーブ』のときは、曲によってはテーマ自体を変えたほうがいいんじゃないかっていう意見も出してくれたんですけど、アルバムでは基本的にどの歌詞も最初からすごく気に入ってくれました。そのなかで何度かやりとりしながら詰めていった歌詞が多いです」

『GOTH ROMANCE』収録曲“フランス映画にしようよ”
 

――青春時代に影響を受けたものをテーマにしていますが、その経緯は?

「とにかく〈テーマがわかりやすくないといけない〉というのがあって。テーマが漠然としたアルバムは、何がセールスポイントなのかわからなくなったりするわけで、いつも考えながら作ってはきたんですけど、最近は〈夏〉とか〈なんとなく最近はこういうのが好きだから〉って感じで作っていたかもしれないですね。

その意味で今回はそうじゃいけないなと思って。前作もそうなんですけど、90年代をテーマにしようというのはすごくありました。青春映画とか青春漫画みたいなものを書いたほうがいいんじゃないかっていうのは堀江くんのアイデアで。自分も意識はせずとも多かれ少なかれそういうことを歌ってきたと思うし。どんどん年を取ってきて、自分でも書いてて少し照れくさくなることもあったりするけど、無理はしないようにとは意識して」

――とはいえキラッキラに青春していますよね。

「そうですね(笑)。いざ歌詞を書くときに、キラキラの青春ストーリーを書くにはどうしたらいいんだっていう悩みはあったと思います。去年の秋頃はあまり進まなかったりして。ほかの仕事もあったので、そうすると自分のはもう後でいいやって(笑)。やっと12月くらいから書きはじめられました。90年前後くらいが自分の青春、10代の終わりから20代前半の部分なので、その頃っぽい雰囲気をブラッシュアップしてできたらいいかなっていうのはありました」

――青春のよさとか美しさを書けるのって大人になってからだと思うんですよ。渦中にいる人は青春が終わるものだということもわからなかったりするし。

「そうですね。でも逆に言えば、いまパッと思いついたのがSHISHAMOなんですけど、彼女たちは彼女たちの年代じゃないと書けないものを書いていたりする。自分の年齢ではそういうふうには書けないけど、年を重ねたぶんの経験や、観た映画や読んだ小説も多いですし、そこでストーリーを書くことができるのかなっていうのはあります。堀江くんには〈いまはストーリーを書ける人があんまりいないから〉と言われて。〈いいメロディーを書ける人も少ない〉とも言っていて、〈カジさんはそれができる〉と。そうやって励まされながら書いた感じですね(笑)。一曲書き終えたらわりとどんどん出来ていきました」

 

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