俺が15歳だった頃、そのとき俺の部屋には買ったばかりの安物のギターと、バンドのポスターが壁一面に貼ってあり、格好つけて買った安物の酒が並んでいた。
そのときキルスウィッチ・エンゲイジの『The End Of Heartache』が流れはじめ、KenやKazukiと頭を振っていたのをはっきりと憶えている。

【参考動画】キルスウィッチ・エンゲージの2004年作『The End Of Heartache』収録曲
“The End Of Heartache”

 

そしていま、俺の隣には“The End Of Heartache”をミキシングしたデヴィッド・ベンデスが俺たちの曲をミキシングしている。
いっしょに頭を振りながら〈Fantaaaaaastic!!!〉と叫んでいる。
白髪で、いつも完成したばかりの絵を親に見せる少年のような眼をしたデヴィッドとの、約1か月間に渡るレコーディングでの出来事を、Crossfaithでプログラム/ヴィジョンを担当しているTeruがお届けします。

6月から続いたUK/EUツアーが終わり、そのまま俺たちはロンドン・ヒースロー空港から、ニュージャージー州ニューアーク空港へ移動。
Crossfaithの新曲をレコーディングするために、ツアー中とは異なった種類の胸の高鳴りを感じながら、デヴィッドのスタジオ〈ハウス・オブ・ラウド〉へと向かった。

スタジオに到着して軽く雑談をした後、今回のレコーディングについての話し合いをするため、デヴィッドは自分の部屋に招待してくれた。
部屋に入って最初に目に飛び込んできたのは、パラモア『Riot!』、ブレイキング・ベンジャミン『We Are Not Alone』、ブリング・ミー・ザ・ホライゾン『Sempiternal』などのゴールド・ディスクやシルヴァー・ディスクの輝かしい額縁が所狭しと飾られていて、俺たちのテンションは一気に振りすぎたシャンパンみたいになる。

【参考動画】パラモアの2007年作『Riot!』収録曲“Misery Business”
【参考動画】ブレイキング・ベンジャミンの2004年作『We Are Not Alone』収録曲“So Cold”
【参考動画】ブリング・ミー・ザ・ホライズンの2013年作『Sempiternal』収録曲
“Can You Feel My Heart”

 

爆発寸前のままレコーディング期間中に寝泊まりするモーテルへ向かい、翌日に備える。
毎日モーテルとスタジオ間をTatsuyaが運転してくれたのだが、親父が元レーサーだけあって運転がいちばん上手なのと、みんな左ハンドルにビビって運転したがらなかった。

今回俺たちはシングル用の3曲のプロデュース、ミックス・エンジニアをデヴィッドに依頼し、さっそくプリプロダクションが行われた。
プリプロというのは、事前に用意していたデモ楽曲をデヴィッドのプロデュースで編曲し、最終的にレコーディングする楽曲に仕上げるという、とても大事な行程のことだ。
用意されたプリプロの期間は1週間、3曲行うので、1曲あたり2日間で仕上げるという計画だ。俺たちは9曲のデモ音源のなかから3曲を選び、プリプロを行う。

プロデューサーっていったいどんな仕事をする人なのか?と思う方もいると思うが、最新作『APOCALYZE』のプロデューサー、マシーンと仕事をした経験から言うと、
人によって方法は十人十色あるが、バンドが伝えたいものや信念を明確に導き出し、自身の経験も活かしつつ、アーティストといっしょに新しい扉を開くことがプロデューサーの仕事だと思う。

 

 

〈USでビッグになるためにはラジオでプレイされることが、とてもとても重要だ!〉とデヴィッドは言う。そこで現在のラジオ・チャートを見てみると、彼の手掛けた作品がいくつも並んでいて、そのどれもがビッグ・アーティストだった。そこで俺たちが挑戦したのはKenの〈歌〉。なぜなら、シャウトだけだとUSのラジオでプレイされることはゼロだからだ。

いままでの楽曲のほとんどがシャウト中心だったため、楽曲のキーや歌詞、グルーヴ、コーラスワークなど、いままでの俺たちにはなかった音楽が出来上がっていき、新しい扉をノックする音が聴こえた。

プリプロが進んでいくうち、事前に用意していたデモを編曲するだけでは限界があると感じ、プリプロ残り3日で新曲の制作に取り掛かった。この楽曲が10月8日にリリースされるシングルのリード・トラック“MADNESS”になる。

 

 

プリプロの行程が終了し、本番のレコーディングの話をする前に、ハウス・オブ・ラウドの仲間たちを紹介します。

ハウス・オブ・ラウドでいちばんお酒を呑み、バークリーを主席で卒業したスーパー・ギークなブライアン!
初対面の時はドープな雰囲気を出しまくってたけど、仲良くなったらお茶目でスーパー・ピース野郎のミッチ!
酒を呑んだら下ネタを連発するむっつりスケベの優等生、スティーヴ!
そしてこの人のおかげでスタジオがいつも綺麗な状態をキープできた、インターンのウォンくん!

デヴィッドがいつも言っていたことがある。それは、スタジオではプロデューサーやアシスタント、バンドがひとつのチームにならなくてはいけない――ハウス・オブ・ラウドにいると、その意味をよく理解することができた。

 

 

レコーディング1日目、ドラム・レコーディングが始まった。
SSLコンソールの前に座っているデヴィッドは、適切な温度にするために蛇口をひねる母親みたいにアウトボードのコンプレッサーをつまんでいく。
普段は2、3テイクでOKが出るTatsuだが、デヴィッドの妥協のない耳のおかげでテイクを重ねていく。デヴィッドのアイデアを織り交ぜながら叩くドラミングは、Tatsuにとってとても新鮮なものだったらしい。

 

 

ハウス・オブ・ラウドにいると、デヴィッドと親交のあるミュージシャンが訪れてくる時がある。
俺たちが滞在していた期間中には、ジャズ・ドラマーのレニー・ホワイト、俺たちとUSツアーを回ったこともあるカリフォルニアのバンド、ハーティストが遊びにきてくれた。
レニー・ホワイトは上原ひろみの公演で来日したこともあり、彼の超越的なドラム・プレイにTatsuも興奮していた。

 

【参考動画】レニー・ホワイトにヴィクター・ベイリー、ラリー・コリエルのトリオによる
2006年のライヴ映像
 

【参考動画】ハーティストの2014年のシングル“Pressure Point”

 

ドラムのレコーディングが終わると、ベースとギターのレコーディングをミッチが担当して1日中テイクを重ねる。 
俺が部屋でシンセをつまんでいると、すぐ隣のデヴィッドの部屋からグルーヴィーなベースの音が聴こえてきた。彼の部屋に行くと、デヴィッドがHirokiに彼なりのグルーヴ論を話していて、Hirokiもその話にとても感銘を受けていた。

そこで好きなエンジニアの話になり、俺は〈アンディ・ウォレス、クリス・ロード・アルジ〉と答えると、デヴィッドが〈おもしろいものを聴かせよう〉と言ってブレイキング・ベンジャミンの“Follow”を流しはじめた。
いつも聴き慣れたデヴィッドのミックスと違うな、と思っていると、なんとアンディ・ウォレスがミキシングをしたヴァージョンの“Follow”だったのだ!
テスト・ミックスといって、アーティストが複数のミックス・エンジニアにミキシングを依頼し、もっとも気に入ったエンジニアと仕事をするのだが、ブレイキング・ベンジャミンはデヴィッドのミックスを気に入り、彼と仕事をしたようだ。なんて贅沢で貴重な経験なんだと、俺の気持ちは一気に15歳の頃のように燃え上がる。

【参考音源】ブレイキング・ベンジャミンの2004年作『We Are Not Alone』収録曲“Follow”

 

そしてヴォーカルのレコーディングが始まった。
別々に組み上げたプラモデルのパーツをひとつに合体させた時のような興奮が、Kenのパートが録り終わるごとに湧き起こっていく。
俺のいちばん好きな瞬間かもしれない。
こうしてすべてのレコーディングが終わり、いよいよミキシングの行程に移行する。

デヴィッドといっしょに仕事をしていると、彼がよく言う言葉がある。〈ダイナミクス〉と〈ビルドアップ〉、そして〈ミュージカル〉だ。
俺たちは帰国する前日にミキシングに立ち会うことができ、そして彼のミキシングの美学を学んだ。

ハウス・オブ・ラウドのリヴィング・ルームの壁には、いままで仕事をしてきたアーティストからのメッセージが書いてあるドラムヘッドがたくさん飾られている。
そのなかにはデヴィッドのことを〈親父〉と呼んでいる人もいたり、みんな感謝の言葉を書いていた。今年の12月から俺たちはもう一度ハウス・オブ・ラウドに行き、フル・アルバムを制作する。
その時に最高の音楽をいっしょに作り上げて、〈親父ありがとう〉というメッセージを、ドラムヘッドに書いてやる!と強く思いながら空港へと向かった。

いまデヴィッドはミキシングをしていて、それが終わると最終行程のマスタリングがある。
この完成を待つ時のワクワク感が大好きだ。そして何よりもみんなに早く聴いてほしいというワクワク感がたまらなく大好きだ!

【参考動画】Crossfaithの2013年作『APOCALYZE』収録曲“The Evolution”

 

PROFILE:Crossfaith


Kenta Koie(ヴォーカル)、Terufumi Tamano(プログラム/ヴィジョン)、Kazuki Takemura(ギター)、Hiroki Ikegawa(ベース)、Tatsuya Amano(ドラムス)から成る5人組。2006年に結成。2009年にファースト・アルバム『The Artificial theory for the Dramatic Beauty』を発表し、同年の〈LOUD PARK〉に初出演。翌2010年には初作がヨーロッパでリリースされ、海外デビューを果たす。2011年にヨーロッパに続きUSでも発表することになる2作目『The Dream, The Space』を完成。アジア圏を皮切りに海外でのライヴ活動も規模を拡大させ、ヨーロッパやUSなどでのツアーやフェス出演も精力的に行うようになる。そして2012年にミニ・アルバム『ZION EP』を、さらに2013年には世界デビュー盤となるフル・アルバム『APOCALYZE』をリリース。そして同作を引っ提げ、初の日本ツアーを含めた30か国以上を回るワールド・ツアーを敢行する。2014年に入り、ますます世界を股にかけて活動を展開中! 直近では8月22日、23日にUKの〈レディング/リーズ〉、8月28日にはSiMやMEANINGらと共演する東京・新木場STUDIO COASTでの〈Red Bull Live On The Road 2014 Final Stage〉、そして9月1日の福岡・BEAT STATION公演を皮切りに待望のジャパン・ツアー〈ACROSS THE FUTURE 2014〉がスタートする。さらに、10月8日にはメジャー・デビュー・シングル“MADNESS”がリリース! 詳しい情報はオフィシャルサイトで!