Love City 2015
[ 特集 ]都市インディーの源流

音楽の聴かれ方、表現の仕方が大きく変化した90年代。その幸福な時代を起点に、多様化する〈街の音楽〉など現在の日本のインディー界隈の源流を紐解いてみよう

 


 

吉田ヨウヘイgroup
モダン・ポップとしてのブラックネス

 

 

ギター熱が高まって

 「僕はメンバーのなかにプレイヤーとして光っている人がいると、その人の演奏を特に取り込んでいこうとするところがあるんです。で、この1年間を見てみると、西田(修大、ギター)くんが一番伸びた。となると、その西田くんを前に出した時に曲がカタチになっていくのは自然なことだったと思うんです」(吉田ヨウヘイ、ヴォーカル/ギター/アルト・サックス)。

 ジャズやR&Bというアングルからダイナミックにロック~ポップ・ミュージックへと還元していくような演奏/楽曲で、一躍〈東京の新しい顔〉となった吉田ヨウヘイgroupが、早くも新たなステージへと進みはじめている。昨年発表された2作目『Smart Citizen』の制作時にはメンバーだったファゴット担当の内藤彩、テナー・サックス担当の榎庸介が相次いで脱退。バンドは否応なしに転機を強いられることになったが、リーダーの吉田は、バンドのイメージを象徴する管楽器を中心としたアンサンブルに引っ張られすぎない柔軟な発想で、ピンチをチャンスへと変えていった。その結果、誕生したのが新作『paradise lost, it begins』である。今回取材に応じてくれたのは、吉田と西田。ステージの隅で奇妙なリフやフレーズを次々と繰り出す長身のギタリストの成長が、次章へ舵を切るきっかけとなったようだ。 

吉田ヨウヘイgroup paradise lost, it begins P-VINE(2015)

 「曲のメインになるところは僕が作るんですけど、自分と同じ感覚で何かプラスが欲しいなって時にスタジオで西田くんに投げたら、満足のいくものが返ってくるようになって。前のアルバムの頃までは、まだ人を遠ざけてしまうような硬質なギターが多かったんですけど、いまはもっと愛嬌があるというか……任せていても安心できるようになりましたね」(吉田)。

 「吉田さんと感覚を共有できるようになってきたっていうのが大きいですね。実は『Smart Citizen』の時より吉田さんがギターを弾いている分量って多いんです。それで二人してギター熱が高まったっていうか、いろいろなエフェクターを買ってみたりブリッジを変えてみたりってこともやったりして」(西田)。

 実際にアルバムのほぼすべての曲でギターが中心となっている。スウィープ、速弾きなどさまざまな奏法を駆使したり、あるいはエフェクトを多用したり……そうやって西田と吉田が同時にギターを弾いている曲は実に11曲中7曲もあるという。けれど、いわゆるギター・バトルのようなパターンではなく、互いの細かなフレーズが絡むのでもなく、異なる打点によってそれぞれ自在に鳴らされるから、池田若菜のフルートが速いパッセージを乗せてきたり、reddamがアタック強く鍵盤を叩いても、高橋恭平のドラム、星力斗のベースが支えるビートが崩れる心配もない。その結果、メロディーだけではなく、2本のギターを中心とする各パートの多様なリフが飛び散るように構成された曲が増えた。

 「でも最初からギターを中心にしようって決めたわけじゃなくて。ミックスの段階でようやくそういう作品なんだなって気付いたくらいなんです。ただ、ハイの音をクリーンに出したいってところだけは最初に決めていて。TVオン・ザ・レディオとかマイ・ブライテスト・ダイアモンドとかセイント・ヴィンセントとか、〈良いな〉と思える作品は高音が綺麗に出ているものばかりなんですね。そこに現代的な感覚の音にするカギがあるのかなって思ったんで、じゃあ、ギターの音も高音をキンキンに出してみようって、ミックスでやってみたんです」(吉田)。

 

これがすべてではない

 ロウよりハイ。ザラついた音よりクリーン・トーン。吉田ヨウヘイgroupが、モダンな音であることを前提にして今作でめざしたそうした音質への圧倒的なこだわりは、もしかすると今日のシンセ・ポップや再評価されるシティー・ポップに起点があるように思われるかもしれない。だが、彼らがリファレンスとしていたのは、例えば男女ヴォーカルが交錯する曲の一つ“キャプテン・プロヴァーブ”にとりわけ表出しているようなフュージョン、AORジャズ・ファンク。つまり、吉田たちにとって結成来のルーツである、〈ポップ・ミュージックとしてのブラック・ミュージック〉に他ならない。

 「“キャプテン・プロヴァーブ”はウェルドン・アーヴィンの“I Love You”がきっかけだったんです。あれ、耳でコピーをしようとしてもなかなか上手くコードが取れなかったので、若菜ちゃんに譜面に起こしてもらって、コードの構造を分析して。そうしたらいろいろと閃くことが出てきたんですね。いままで僕は転調させることでポップネスを出すようなコンポーズをあまりしてこなかったんですけど、ウェルドン・アーヴィンのその曲は割とちゃんと転調もしている。じゃあ一度やってみようかなって試してみたら、Aメロのなかに転調を持たせることができた。これならラリー・カールトンみたいなギターが入ってきてもいいかなって。そんな感じで出来た曲。でも、それだけだったら絶対にモダンにはならないから、ミックスでハイを思い切って出したんです」(吉田)。

 一言で言ってしまうとメカニカルな構造ありき、あちこちに散らばる音の点を一つ一つ追いかけて聴いていってこそスピード感が実感できる、そんなアルバムだと言っていい。当然、彼らの武器の一つである女性コーラスの役割も大きく変化した。ここ最近はサポート・メンバーとしてライヴにも登場するTAMTAMKuroがreddamと共にコーラスを受け持つ曲も多いが、例えば“ユー・エフ・オー”などはまるで女性ロボットの歌声のように平板で無感情だ。

 「そう、まさにあれは意図的に感情を抑えてもらった結果なんですよ。女性陣のヴォーカルは僕がディレクションしたんですけど、今回は特に演奏と照合させた時に平面的な歌にしたほうがいいと判断したんです」(西田)。

 「西田くんに〈吉田さんは最近コーラスを書かなくなった〉って言われてて(笑)。で、Kuroちゃんだったら高音のコーラスを上手く歌ってくれると思って参加をお願いしてから、どんどんコーラスを作れるようになりました。ソロの歌に関しては、kuroちゃんにもreddamちゃんにもいろいろ試してもらったんですけど、今回の作品ではそれほど感情を出してもらわないほうが上手くいくことが多くて」(吉田)。

 「でも、その感覚が今後逆転することは大いにあり得るんです。いま、僕らがやりたいことの最高の状態がこのアルバムに出ていますけど、これがすべてではないんで」(西田)。 

 

※【特集:都市インディーの源流】記事一覧はこちら