

今年6月3日に新作『paradise lost, it begins』を発表した吉田ヨウヘイgroup(以下YYG)による新連載がスタート! リーダーの吉田ヨウヘイとバンドの仲間たちが、毎回異なるゲストにインタヴューを敢行。YYGの豊かな音楽性を支える〈Music, you all〉なリスナー気質を活かし、その人や音楽の魅力をディープに掘り下げていきます。記念すべき第1回は、YYG一同が憧れる大物ギタリストのネルス・クラインが登場。自身のバンドであるネルス・クライン・シンガーズ(以下シンガーズ)を率いて来日を果たした彼に、吉田ヨウヘイと西田修大(ギター)の2人で話を聞いてきました。

〈話を聞くまえに〉
ネルス・クラインと吉田ヨウヘイgroupの関係をおさらい
ネルス・クラインといえば近年はウィルコの一員として有名ですが、もともとは即興音楽の世界で名を馳せたギタリスト。「シンガーズ、ウィルコ、ジュリアン・レイジとのデュオなど、ネルスがやっている活動はどれも好きです。ギタリストとして、〈世界一かっこいいよね〉という話を西田ともよくしています」と吉田が語るように、ジャズにロック、カントリーからアヴァンギャルドまで、様々なフィールドで活躍するこの鬼才はYYGに多大な影響を与えています。憧れが高じたあまり、西田はネルスと同じジャズマスターを最近愛用するばかりでなく、ブリッジというパーツも同じメーカーのものに交換、ピックまで同じものを使用しているんだとか。
尊敬のまなざしはテクニカルで音楽的な部分はもちろん、音楽家としてのスタンスにも向けられているようです。「例えばネルスがウィルコに加入した際には、前衛的なことをやっていたトップ・プレイヤーが、そのスタイルを生かして世界的なロック・バンドに加入する、ということ自体にすごく感動しました」とも吉田は語っていますが、先鋭的なアプローチをポップなフォーマットに落とし込む、というのはYYGの作風にも通じるところでしょう。吉田は昨年、新世代のジャズを取り上げた音楽ムック「Jazz The New Chapter 2(以下JTNC2)」でネルスにメール・インタヴューをしており、そのなかでネルスが「私にとって〈研究する〉とは、彼らの演奏をコピーすることではなく、ただ何回も何回も聴き込む、ということ」だと答えていたのも印象的でした。こちらのインタヴューも参照のとおり、幅広いリスニングからヒントを得て、多種多様な音楽家のアプローチを自分たちの音楽に取り入れているYYGですが、それらをただマネ(サンプリング)するのではなく、自分たちの文法にトレースして血肉化し、生身の演奏でアウトプットする彼らのスタイルは、先ほどのネルスの回答とも重なる部分がありそうです。
そして、シンガーズの来日公演が6月初頭にブルーノート東京にて開催された折り、今回の対面取材も実現。その前日にライヴを観て大興奮の吉田&西田は、ドキドキしながら2人でたくさん質問を考えて取材に臨みました。その真っ直ぐな姿勢に心打たれたのか、ネルスも親切丁寧に回答してくれたばかりでなく、嬉しいサプライズも実現しましたよ!
吉田ヨウヘイが見たシンガーズの魅力、ネルスが語るギターとサウンドの美学
「音のなかに消えて、誰にも見えないような存在でいるほうがベターなんだ」
――(吉田と西田の)2人はライヴを観て、とても感激したそうです。
ネルス「どうもありがとう。なるべくそう感じてもらえるように頑張ったよ」
吉田「ネルスさんのギター・プレイはもちろん、バックを務める3人の演奏にも感動しました。ベース、ドラム、パーカッションのいずれも素晴らしくて、バンドのまとまりもすごい。ご自身ではいまのバンド(シンガーズ)の状態をどのように捉えていますか?」
ネルス「そうだね、幸運なことにコンディションは最高だと思うよ。スコット・アメンドラ(ドラムス)とはシンガーズで15年間一緒にやっているけど、その前からもインプロヴィゼーション(即興)のグループでお互いに参加し合っているし、繋がりも深い。シンガーズとしての活動をはじめたとき、ドラムにエレクトロニクスの要素を持ち込みたいのに、誰もライヴでそういうことをさせてくれないんだってスコットがこぼしてたから、〈ぜひそれをやろう!〉って誘ったのさ(笑)。以前やってたネルス・クライン・トリオ※に代わる新しいトリオでは、エレクトロニクスを取り入れるとは思っていなかったけど、ずいぶんとプラスに働いているし、彼も年月を経てますます磨きをかけているね」
※ネルス・クライン・トリオ
ネルスが90年代に率いたフリー・ジャズ・トリオ。2000年代以降はスコット・アメンドラとデヴィン・ハフ(ベース)の新編成で、~シンガーズと名義を改めて活動中。

(Photo by Tsuneo Koga)
ネルス「トレヴァー・ダン(ベース)とは、(前任ベーシストの)デヴィン・ハフと代わってから3年間一緒にやっている。彼とは数年前に、毎週月曜日の夜に僕がフィリップ・グリーンリフというサックス奏者と一緒にやっているコンサートのシリーズで出会って、そこではじめてスコットと3人一緒に演奏したんだ。長い時間を共有してきたことで、いまではとても良好な繋がりを築けている。トレヴァーとシロ・バティスタ(パーカッション)はジョン・ゾーンのエレクトリック・マサダで一緒にプレイしていた仲でね。シロは非常に有名なプレイヤーで、こうしてシンガーズで一緒に演奏しているのもとてもラッキーだと思っている。あまりにも有名すぎるので、僕が一緒にやりたいと誘っても無理なんじゃないかという不安もあった。ライヴでも演奏にたくさんのカラーを足してくれるし、こちらの要望に順応したプレイもしてくれる。一緒にプレイすることが出来て本当に嬉しく思うよ」
トレヴァー・ダンとシロ・バティスタが参加している

吉田「去年させていただいたインタヴューのなかで、(シンガーズの2014年作)『Macroscope』について伺ったときに〈自分のアルバムの主体が僕自身のギター・ソロである、という形を変えたくなってきている〉と仰ってましたよね。それもあって〈今回のライヴではギターはそれほど弾かないのかな?〉と思っていたんですけど、実際にはずっとギターを弾き続けていて、それにも関わらずギターが中心というよりは、バンド全体として聴いたことのない音楽が構築されている印象でした。『Macroscope』を制作していた頃と比べて、ネルスさんが描きたいサウンドスケープはまた変わってきているのでしょうか?」
ネルス「ギター・ソロに対するアプローチや感覚は常に変化し続けていて、いまはもっと押し出してもいいのかなと考えるようになった。〈ソロを打ち出してもいいんだ〉と自分に言い聞かせている部分もあるし、その一方で内心どこかで不安に思ったり、〈これでいいのか?〉と葛藤しながら取り組んでいたりもする。今年のはじめに3週間ほどヨーロッパでツアーをやったんだけど、そこで自分が前に出ていっていい、ソロを弾くことに対してそんな神経質になる必要はないって気持ちになれたんだ。もっとも、明日起きたらどうなっているかわからないけどね(笑)」
マーク・アイシャム〈The Silent Way Project〉コンサートでのパフォーマンス動画
吉田「ギター・ソロ主体になっているのは、バランスとして本当にいいですよね。何よりメンバーがその音楽性を理解していて、ギターに劣らない演奏をしていたというか、4人で1つの演奏をしていたので、ギターが目立ちすぎている印象も一切なかったですし」
ネルス「僕のほうでも、メンバーにスペースというか余裕を与えるように意識している。自分ばっかりが目立ってとか、みんなの声(演奏)が一斉に同じ大きさになるとかではなくて、それぞれがどこかで見せ場をもてるように、自分ばっかりの演奏が聴こえないように気をつけているよ」
吉田「サウンド面で特に感動したのが、ドラムとパーカッションの絡み方で。普通ドラムとパーカッションがあると、それぞれの音が独立して聴こえる演奏が多いというか、それしか聴いたことがなかったんですけど、昨日は2つの演奏がピッタリ合っていましたよね。実際のステージを観ずに、音だけを聴いたらドラマーがひとりでやっているんじゃないかと錯覚しそうなくらいに感じました。パーカッションの役割が、ギターでいったらリバーブみたいというか、ドラムに陰影をつけるような繊細な役割をしていたように感じて。それがすごく新しいと思ったんですけど、あれはネルスさんがディレクションされたんですか? それとも、演奏していくうちに自然にそうなった?」
ネルス「僕がシロに出した指示があったとしたら〈好きなようにやってくれ〉、これだけだ。僕のほうから何か特別に指示したことはなくて、逆に〈自分のしたいように演奏してほしい〉と伝えたら、向こうが本当に好きなように作ってきて、〈気に入った?〉と訊いてきて。それを僕は大体気に入るってかんじ。スコットとシロの組み合わせは今年の初めくらいからなのに、友情も芽生えているし、もうバッチリ息が合っているよね。彼のブラジリアン・パーカッションは信じられない旋律を生み出して、音楽に色付けをしてくれる。初期のウェザー・リポートやマイルス・デイヴィス、マッコイ・タイナー、ギュメ・フランコ等を聴いて僕は育ってきたんだけど、シロはそのレベルに加わるべきアーティストだと思うんだ」
吉田「本当にそのとおりだと思います」

ウィントン・マルサリスやスティング、デヴィッド・バーンや
アート・リンゼイら錚々たる共演歴を誇る(Photo by Tsuneo Koga)
ネルス「シロは僕に〈声を使ってみないか?〉とアドバイスをくれた。僕はそんなに優れたシンガーではないし、音の高低差をつけるのも難しい。(歌ったとしても)静かに歌う傾向があるので、難しいと思っていた。一度YouTubeで自分が歌っているクリップを観たときも、モニターの音がうまく聴こえていなくて、音を外しまくりでそれ以来絶対に(歌うのは)嫌だと言っていたんだよ。けれど、シロが〈絶対に歌わなきゃダメだ〉って。〈ブラジリアン・パーカッションが入っている曲で自分が気に入っているものがあるから、そこで絶対に歌ってほしい〉と。〈そんなに嫌なら一緒に歌おうか〉とまで言われたから、いまはステージで一緒に歌っている。それがもう本当に上手くハマっていて、自分でも気に入ってるんだ」
吉田「昨日のライヴでは“Cause For Concern”もプレイしてましたよね。(シンガーズの2002年作)『Instrumentals』に収録されている、個人的にすごく好きな曲ですけど、そのアルバムの録音と昨日の演奏は、同じ曲なのに印象はかなり違いました。アルバムだとネルスさんが前のめりにギターを弾くような感じで、それにドラムのスコットさんもついていくような演奏でしたが、ライヴではネルスさんは割と同じように前のめりになりつつ、一方でスコットさんはがっちり真ん中にいてリズムを支えるような印象でした。僕は昨日の演奏により感銘を受けましたが、同じ曲に対してもアプローチがどんどん変わってきているのは意識的に取り組んでいるのでしょうか?」
ネルス「あの曲に関しては、まだシロと一緒にやったことがなかったんだよね。元々ライヴでどう演奏しようか決めかねていて、ちょっとフラストレーションを感じていたところもあって。でも昨日はやってみることにした。スコットがラテン系の要素を入れた時にどういう演奏が出来るのか見てみたかったし、シロがそれを気に入るかも気になっていたからね。それで出演の間際に〈じゃあやるか〉って決まったんだ。僕としては体力的に少ししんどかったし、テクニック的にもいまいち納得はいっていないけれど、新しいグルーヴが生まれたんじゃないかとは思っている」
――西田くんはギタリストとして、ネルスのどういう部分が好きなんですか?
西田「すごく難しいな……全部好きなんですよ、音とか弾き方とか。ギターのカッコよさを打ち出すプレイヤーが最近そんなにいないイメージだけど、(ネルスは)ギターのカッコよさというのをガッと打ち出しながら、プレイが(バンド・アンサンブルのなかで)核にならないときでもそのカッコよさを発揮できるというか。〈どんな音楽にでもこのカッコよさを突っ込めるだろうな〉っていう凄さ。僕がはじめてネルスさんを好きになったのはウィルコでの演奏で、シンガーズのライヴを観ていたときも思ったけど、ギターを中心に置いた(典型的な)ロック以外でもそのカッコよさを発揮できるじゃないですか。いまの時代のギタリストにとって、それが一番憧れになるようなことだと思うので、僕は本当に一番尊敬しています」
ネルス「(日本語で)アリガトウ! ギターはもちろん大好きだ。若い頃から演奏している楽器だし、これからも愛し続けるだろうね。でも、もっと根本的には〈サウンド〉が大好きなんだ。自分がやりたいのはサウンドに敬意を払ってクリエイトして、そのパワーや美しさをシェアして共感してもらうこと。自分がギターを弾こうと思った最初のきっかけもサウンドの美しさに惹かれたからだし、そこはこれからも追求していきたい。テクニックを究めるのも楽しいしエキサイティングだけれども、それだけになってしまうとやっぱり冷淡にも思えてしまうよね。それはハーモニーとかテンションとかリリースとかリズムとか、そういった要素のコンビネーションがもたらす美しさには到底敵わないよ。僕は、ただサウンドがエキサイティングで、かつ自分にとって意味があるようなところに適応しているだけ」
ネルス、スコット、トレヴァーの3人に加え、本田ゆか(チボ・マット)も参加
1分40秒辺りから加速するネルスのギター・プレイが凄まじい
ネルス「だから、たまたま自分はギターを使ってサウンドを生み出しているというだけの話で、例えばエレクトロニックの要素を持ち込む(エフェクトをかける)ことによって新しい音を作ったり、あるいはスタジオ録音のような音にしたり、サイケデリックな影響を受けたような音にしたり、モートン・フェルドマンっぽい音にしたりと、ある特定の聴こえ方を試みたりする場合もある。そういう音を全面的に追求できるのならギターじゃなくても別にいいんだけど、一方でそれはまたギターができることのひとつでもあると僕は考えているし、だからこそ美しい楽器なんだ。あと幸いなことに、みんな(僕が弾くのを)気に入ってくれてるし(笑)。僕は(ギターは弾けるけど)フレンチ・ホルンを吹くことはできないからさ。フレンチ・ホルンの音は大好きだけど、そっちをやろうとしたら(ギターを弾いている)いまよりずっと苦しい人生になっていたよ(笑)。もちろん(演奏する姿が)カッコよく映ったりだとか、ステージで前面に立つ姿を見られるのもいいんだけど、自分としては音のなかに消えて、誰にも見えないような存在でいるほうがベターなんだ。音にかき消されるというか、その中に埋もれている。それで、みんながサウンドを共有しているというのが僕にとっての理想だ」
吉田・西田「カッコいい……! 」
〈Tiny Desk Concert〉出演時の模様。メンバー編成は一つ上の動画と同じで、
アコースティック演奏によってネルスの語るアンサンブルへの意識が一層伝わりやすくなっている

ネルスが吉田ヨウヘイgroup新作を聴き、ギターを実演!
「スティーヴ・ハウとピックの持ち方が一緒だと発見したんだ」
――実は、彼ら(YYG)の新しいアルバムも発表されたばかりなんです。ネルスさんにも一曲聴いてみてもらいたくて。どの曲にします?
吉田「(西田と話し合って)“サバービア”にしましょう!」
ネルス「これはビックリだな。誰がドラムを叩いてるの?」
吉田「豚汁です(YYGのドラム、高橋“TJ”恭平の愛称)」
西田「ピッグスープ」
ネルス「どういうこと?」
通訳「(英語で)〈豚汁〉はドラマーの名前で、ポークの入ったミソスープの呼称でもあるんです」
ネルス「あー、なるほど(笑)。実は今朝、これまでの人生で一番美味しいお味噌汁を口にしたばかりなんだよ。(宿泊していた)ホテルのなかにお寿司屋さんがあるんだけど、アサリをふんだんに使っていて、3種の味噌をブレンドしたものだった」
――それはたしかに美味しそう!
ネルス「(じっくり聴き入りながら)クレイジーなフォーク・ミュージックだね。(机をトントン叩いて)このシンコペーションが好きだな。(普通の)ポップとは違うけど、爆発的なエネルギーを感じさせる。70年代のブラジリアン・ポップスみたいにカラフルでエキサイティングだね」
吉田「ありがとうございます!」
ネルス「プログレッシヴ・ロックの要素も感じさせるけど、シンフォニックというのもまた違うし。最近じゃあまり聴かないサウンドだね。トルコの70年代のバンド、セヴダ(Sevda)を思い出したよ。ドラムもオケイ・テミズのようだ。ヨーロピアンなホーン・プレイヤーとトルコ人のリズム・セクション、それを思い出したよ。リズムも素晴らしいし、声のようなホーン、まるでヴォーカルのようなホーンのメロディー表現があって。君たちのバンドは何人くらいでやってるの?」
吉田「7人です。僕はドン・チェリーやオケイ・テミズが好きで」
ネルス「そうかい! ビックリだな。君はいったい歳いくつなの(笑)。 70年代には(そういう音楽を)聴くことも難しかったのに、いまどきの子はいろんなことを知っているね。じゃあ、ベンクト・ベルガーやボボ・スタンセンも知ってる?」
吉田「好きです。アルキメデス・バドカーも」
ネルス「そっか……素晴らしいね」
トルコ人3人組のセヴダと、スウェーデン出身プレイヤーがタッグを組んだエスノ・ジャズ名作
オケイ・テミズは、セヴダやドン・チェリーのバンドにも参加したトルコ人打楽器奏者
アルバムにはスウェーデン人ドラム/パーカッション奏者でコンポーザーのベンクト・ベルガーも参加
――この曲(“サバービア”)はギターもすごいけど、西田くんはどのあたりを意識していたの?
西田「イエスですね。スティーヴ・ハウとか。ハーモニクスやダブルストップのようなフォーキーにも使える技術を、音色を硬質にしたり、疾走感を持ってプレイすることでソリッドにも聴こえるようにするやり方がこの曲にはすごく合うはずだと思ったので、頑張って取り入れたいと思いました」
ネルス「僕もスティーヴ・ハウは大好きだよ。17歳の時に思いっきりハマって、ここ数年でまた意識するようになった。このあいだ(ウィルコの)ジェフ・トゥイーディとも話していたところなんだけど、彼はとてもオリジナルなギタリストだね。ベンディングもほとんど使わなかったところとか、当時珍しかったと思う。ギターは(ギブソンのES-)175を使っていて、トレブリーな音色だとか、ブルージーなところがあって、そのプレイがそのままイエスの音楽に意味や価値を追加していたんじゃないかな。例えば彼がちょっとソロの機会があるとすると、そこでブルーグラスを思わすようなフラット・ピッキングをしたり、ラップ・スティールを使ったりナイロン弦で演奏をしたりして、ブルージーな要素を追加したりっていう。彼はグループの調和を乱すことなく、いろんな帽子を取り替えるように様々なカラーを添えることが出来た。特にウィルコでの活動においては、自分もそんなふうに色付けが出来るアーティストにすごく影響を受けているんだ」
スティーヴ・ハウの疾走感あるプレイも聴ける人気曲

イエス愛溢れる吉田ヨウヘイgroup(YYG)のグッズ用バンド・ロゴ
ネルス「あとはヴォリューム・ペダルを使うようになったのもスティーヴ・ハウと(キング・クリムゾンの)ロバート・フリップの影響でね。みんなはビル・フリゼールの影響だと思ったらしいけれど実は違うんだ。別にビル・フリゼールが最初にヴォリューム・ペダルを使った人でもないし、ここ何年も全然使ってもいないのにね。当時、自分はそういう音楽(プログレ)を聴いていなかったからというのもあり、グレッグ・ベンディアン※に朝の3時までイエスとジェネシスのビデオを無理やり見せられて。その時にスティーヴ・ハウと(自分の)ピックの持ち方が一緒だと発見したんだ。細い指でこういうふうに持ってて(実際に握ってみせる)、あと僕がよくやるクラシカルに似せた持ち方とかもやってて、ほんと信じられなかったけどすごくハッピーになったよ。それから、自分のピックの持ち方もまんざら悪くないんだなというふうに思えるようになった」
※グレッグ・ベンディアン
ネルスのほか、パット・メセニーやセシル・テイラーらと共演歴をもつニュージャージー州出身のドラマー。ネルスとは99年に共演作『Interstellar Space Revisited: The Music of John Coltrane』も発表している(参考音源はこちら)
西田「もう一回どうやって(ピックを)持つか、見せてもらってもいいですか?」
ネルス「もちろん。親指にも特徴があるんだ(握ってみせる)。大したことはしてないんだけどね。ピックの持ち方はちゃんと学んでなくて、あるときギターの講座を受けたら、ちゃんとした持ち方をしていないということで教師はとても嫌がってたね。いわゆる完璧な〈正しい〉のはこうらしい、3本の指でアンカーはなし(ギター壁面に何もつけない)。でも僕には全然できないね。だから僕の持ち方はこう。手をギターに乗せ、この指を使ってね。だからいつも何かに触れている。手のひらはブリッジに、だからここにタコができている。ときどきマメや水ぶくれもできるよ。こんなふうにね」
★文章に書き起こしても、ピックの持ち方がまったく伝わらないですよね! ここでネルスが直々にギターを持って実演してくれた、取材のハイライト動画をどうぞ!
ネルス「テクニックは(人から)習ったことはない。ブルースマンのクラレンス・ゲイトマウス・ブラウンは知ってる? もう亡くなってるんだけど。彼なんてこんなふうだよ(握ってみせる)。ブルース系(のミュージシャンは)よくこうやって弾いてる。彼もスティーヴ・ハウとかと似たようなピッキングなんだよ。とにかく、何が正しいとか間違っているとかないと僕は思う」
吉田「彼(西田)もネルスさんと同じジャズマスターを使っていて、同じマスタリー・ブリッジを使っているんです」
ネルス「そうなんだ。僕の(マスタリー・ブリッジ)はジョン・ウッドランド(John Woodland)がデザインしたんだよ。(西田のギターを見て)ああ、いいギターじゃないか。素敵だね。このフィニッシュはどこで?」
西田「レリックです」
ネルス「色の組み合わせもいいね。本当にクールだ」
吉田「ネルスさんのインタヴューを読んで、このブリッジを使っていることを知って(西田が)買ったんです」
ネルス「そうなんだ。さっき言ったジョン・ウッドランドが、たしか日本で(マスタリー・ブリッジが)よく売れている、なんて言ってたよ。僕は〈だって日本はジャズマスターだらけだからね〉って言っておいた。いずれにせよ、そのギターはセンスがいいね」
吉田「売れているのはネルスさんの影響ですね(笑)」
ネルス「でも、本当にいいものだよ。全然違うよね」

吉田「最後に、勝手に(YYGの音楽性と)共通点を感じているところについて質問させてください。昨年(〈JTNC2〉で)インタヴューさせていただいた際に〈ネルスさんの弾く速いパッセージがサックス奏者のアルペジオみたいだ〉と言ったら、〈ジョン・コルトレーンの影響を受けている〉という回答をいただいたんですけども、昨日のライヴを観て、あなたの演奏にはモード期のコルトレーンの影響があるんじゃないかな?というふうに感じました。個人的には“Impressions”とか“A Love Supreme”みたいな曲をジミ・ヘンドリックスが歪んだギターで演奏したらすごくカッコいいんじゃないかと昔から想像していたんですが、それとかなり近いことをネルスさんはやっている印象で。僕も自分のソングライティングにモード期コルトレーンの雰囲気を取り入れられたらと……と考えていて、〈もしかしたら(ネルスさんも)近いことを考えているんじゃないかな?〉と勝手に思ったりしたんですが」
ネルス「モードの影響は最近になって戻ってきているように自分では感じるね。ますますその傾向が強くなっていると思う。いまどきのシンガー・ソングライターとかって、弾き始めたらすぐにコードが変わるみたいな感じだけど、そういうのは自分としてはちょっとね。たしかにモーダルな音楽にはすごく興味を持っていて、コルトレーンに関してはどんな曲もクロマティックに吹いている感じを受けるし、曲のなかでコードチェンジはほとんどない。それは(インド伝統音楽の)ラーガにおける旋法にも通じる部分だよね。とか言っておきながら、自分も関わった今年リリース予定のアルバムのひとつは、コードチェンジがすごく多いジャズ・バラードを扱った作品なんだけどさ(笑)」
吉田「もう一つ、どうしても訊きたいことがあって。シンガーズのリズム隊も世界最高峰の演奏レベルだと昨日のライヴで思ったんですけど、ウィルコもそういうレベルのバンドですよね。もちろんメンバーが違うので多少は勝手も違うとは思うんですけれど、(それぞれのバンドで)演奏されているときに、どちらも自分の思うように演奏すれば(バンドのアンサンブルに)勝手に合うものなのか、それとも意識的に演奏の仕方を変えたりするものなのでしょうか」
ネルス「自分のバンドをやっているときは、ほとんどみんな自由にやって、それで自然と流れが出来ていくという感じ。唯一管理するとすればテンポくらいだね。それでもたまに、ミスって速すぎたり遅すぎたりなってしまうんだけど。これがロック・バンドになると、グルーヴや構成をどうするか延々話し合いすることになるわけで、僕は正直そこにはあまり参加していない。自分がやりたいように出来るときは、信頼を置いているプレイヤーと即興で演奏している。例えば自分はNYでジム・ブラックやジェラルド・クリーヴァー、チェス・スミスなどたくさんの素晴らしいドラマーと一緒に演奏しているんだけど、そこでは僕は何も言わないし、比較的自由度を持たせてセッションしている。スコットに関しても、歌が入るときは〈クロス・スティックにしてくれ〉とか〈シンバルは外して〉みたいに頼むときもあるけど、基本的には彼の好きなようにやってもらっているし。自然とグルーヴを作るやり方が自分には合っているんだと思う」
〈話を聞いてみて〉
当日、吉田&西田が用意したノートには質問がビッシリ! さらに取材中も熱心にメモを取り、緊張しながら不慣れな英語でもコミュニケーションを図ろうとするなど、ネルスへのリスペクトが伝わってくる取材でした。大ファンだからとミーハーな質問は一切せず、ひたすらギター奏法やバンド・アンサンブルの構造など、ネルスの音楽観に迫ろうとしていたのもナイスですね!

会えるはずではない人に会っている、という感覚が最後まで抜けきらなかったんですけど、どの質問にもしっかり答えてくれて、ギターの話になったらギ ターを持って実際に弾いてくれたりと、その人柄を本当に尊敬しました。今回(シンガーズの)ライヴを2回観れたんですけど、本当に素晴らしかった。インタヴューで話していることも、実際のライヴを観てみないと実感しにくい部分も多いと思います。またシンガーズで来日してくれる機会もあると思うので、その際は今回行けなかった方にもぜひ足を運んでほしいなと思いました。アルバムとも全然違う、聴いたことのない音楽が聴けるので。(吉田)
自分のヒーローが目の前にいることへの興奮で終始やられっぱなしでしたが、話す内容はもちろん、語り方自体からも音楽への真摯な姿勢が溢れ出ていて、自分もこんなふうになりたいと一層憧れが深くなりました。今回のライヴは凄すぎて、いったいどんなふうにしたらこんなことが出来るのか最初は全く想像がつかなかったのですが、実際にネルスの姿勢に触れることでその糸口が掴めた気がします。これからも憧れ、追いかけ続けたいです。(西田)
吉田ヨウヘイgroup『paradise lost, it begins』release tour
9月12日(土) 京都UrBANGUILD
共演:本日休演
9月13日(日) 福岡PEACE
共演:ネネカート and more
DJ:toya
9月20日(日) 名古屋CLUB ROCK'N'ROLL
共演:mudy on the 昨晩
10月27日(火) 東京O-EAST
(ワンマンライヴ)
http://yoshidayoheigroup.tumblr.com
