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COBAIN モンタージュ・オブ・ヘック
多くの証言から浮かび上がるカート・コバーンの生涯と、その内面

 その死から20年が過ぎてもなお、カート・コバーンの存在感は薄れていくどころか、シンプルな神格化という意味も含めて不朽のものとなっている。そんな故人の生涯を、悲劇的なアイコンではなく、ひとりの悩める若者の姿で立体化せんとした映像作品として、本作は必見のものに違いない。

ブレット・モーゲン,KURT COBAIN COBAIN モンタージュ・オブ・ヘック NBC ユニバーサル・エンターテイメントジャパン(2015)

 今年1月のサンダンス映画祭に出品されたHBO製作のドキュメンタリー・フィルム「COBAIN モンタージュ・オブ・ヘック」が、BDとDVDの2枚組セットでソフト化された。監督のブレット・モーゲンは、ロバート・エヴァンスの半生を追った「くたばれ! ハリウッド」(2002年)やローリング・ストーンズの「クロスファイアー・ハリケーン」(2012年)などで知られる人だが、カートの遺族側から実際に製作のオファーがあったのは2007年のことだったという(未亡人コートニー・ラヴの抱える裁判などの影響から棚上げになっていたそうだ)。共同プロデューサーを務めたのは、カート逝去の際にはまだ1歳半だった娘のフランシス・ビーン・コバーン。それだけに、カートやニルヴァーナをめぐる伝記作品などのうち、遺族の承諾と協力を得た〈公式作品〉はこれが初めてのものだ。膨大なカセットテープのデモ、イラストや詩を書き付けたノート、プライヴェートな写真や映像などの遺品にアクセスし、さらにはカートの父母と継母、実の妹、昔のガールフレンド、元ニルヴァーナのクリス・ノヴォセリック、そしてコートニーらにインタヴューを行った成果は、130分という尺が短く思えるほどの興味深い内容にまとめられている。

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 作品はそれらのインタヴューをカート本人の肉声やノートなどの記述と組み合わせ、直筆のイラストを元にしたものも含むアニメやニルヴァーナのライヴ映像をモンタージュ状に繋いで構成されている。幼少期のホームビデオが微笑ましいぶん、後々の内向性に作用したと思しき離婚について当事者たちが語り、暗い青春がアニメで再現されるパートでは暗澹たる内面に引きずり込まれそうにもなるが、繊細な青年が書き殴ったイラストや詩という表現の延長線上にニルヴァーナの音もあったのだと改めて痛感させられるし、一貫して家族や〈母〉を求めた姿は痛いほど伝わってくるはず(実母がコートニーにそっくり……)。そう思うと今も昔もタバコを手放さないコートニーの姿が愛らしく見えてくるし、ハメ撮りっぽい写真やラリって裸で戯れる刺激的な映像も妙に微笑ましく映るから不思議だ。

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 そうでなくても、家族目線の編集で〈死〉よりも〈生〉を描こうとした作りが必要以上の暗さから作品を解放しているのは確かで、死を賛美する色合いも皆無。そこは流石にフランシスがOKを出しただけのことはある。同時リリースのデモ音源集と併せてファンはもちろんチェックするだろうが、それ以上に深い何かをさまざまな人に残しうる一作だ。