photo by Ryo Mitamura
 

ジャズという終わりなきイマジネイティヴな旅はつづく

 俊英ジャズ・ピアニストの佐藤浩一の新作『Melancholy of a Journey』の仕上がりが出色だ。

 それ、2011年リリースのトリオ編成による前作『ユートピア』とはかなり方向性を異にする。今作はクラリネット、ギター、コントラバス、チェロ、ドラムを擁する変則セクステットで録音にあたっている。

佐藤浩一 Melancholy of a Journey SONG X(2016)

 「4人以上の編成がいいなというのがあって、長いスパンで編成を大きくして行きました。(奏者選択の観点は)混じりの良さ。誰かが突出もせず、欠けもせずという感じですね。後はフォルテでなく、メゾ・ピアノやメゾ・フォルテぐらいで十分に表現できる人たちに声をかけています」

 また、本作について、彼はこうも説明する。

 「今回作曲にかなり重点を置いているので、特別ピアノで目立とうという気持ちはありませんでした。ただ、(メンバーであるポスト・ジャズ・バンドの)rabbitooのようにシンセとかは使わず、ピアノ1本でやろうというこだわりはありました」

 そんな発言が示唆するように、新作はアコースティックでありながら直接的なジャズの流儀から逃れつつ、ジャズでしかない広がりや洒脱を求めたアルバムだ。“風が吹いている、もう一つのジャズ”なんて説明も、ぼくはしたくなるか。

 「今作の芯になるのが、《The Railway Station》(というタイトルが付けられた4つの曲)。そして、それにプラスして少し室内楽みたいな小曲も入れたり、ジャズっぽい曲とかミニマルっぽい曲とかも用意しました」

 絶妙なアンサブルの奥からえも言われぬ清新な情緒や余韻が浮かび上がる総体は、ブラジルやアルゼンチンのオルタナティヴなインスト表現との親和性も感じさせるか。また、その表現にあるひんやりとした手触りは欧州的な洗練を聴く者に思い出させるかもしれない。聞けば、タイトル・トラック群は彼がオスロ国立美術館でたまたま出会った『The Big Station』という絵画から触発されたものであるという。

 「そのときに見たのが、ジャケットになった絵なんです。この絵から連想して曲を書いたんですけど、ジャケットに使えて本当に良かった」

 書き遅れたが、ほぼ一発録りによるレコーディングはジャズ・ピアニストでもあるピート・レンデバッド・プラスジェイムス・ファーム他の録音を手掛ける)をわざわざ東京に呼んでなされた。『Melancholy of a Journey』は見えないところまで細心の心配りがなされた、アートを求める行動力のタペストリーと言うべきものだ。

 


LIVE INFORMATION

『Melancholy of a Journey』発売記念ライブ
○7/11(月)
出演:佐藤浩一(p) 土井徳浩(cl, bcl)市野元彦(g) 伊藤ハルトシ(vc)千葉広樹(b) 則武諒(ds)
会場:新宿Pit Inn
www.songxjazz.com