自分のなかにある根本的なことを歌いたい
――今回のアルバム『あたえられたもの』は録音方法にもこだわって作られていて、アナログ・テープを使用しているだけでなく、楽器の倍音が綺麗に出るように、チューニングを通常の440(khz)ではなく、432に下げて録音したそうですね。そのアイデアはどこから出てきたのでしょうか?
タイチ「432と440の違いについてYouTubeにあった動画で観たんです。実際にギターとかで432のチューニングにしてGを弾くと、淀みが全然なくて。そこからもう一度440で弾いたら、ちょっとつっかえる感じがあったんですよね」
YTAMO「440や442が世界基準で、iPhoneを充電したときのポン!っていうあの音もそうなんです。でも、440とか442やとテンションが張るので、聴く人のテンションも張るんですよね。その一方で、432だとテンションが緩むので、倍音が深くなる。特にピアノは全然違うんですよ。自分で弾いていてびっくりするくらい、鍵盤の触り方がわからなくなるくらい違う」
――そうやってあえて下げたりするのは、クラシックの世界での考え方なんですか?
YTAMO「古楽器ですね。グランド・ピアノ以前」
タイチ「昔は432とかが基準やったみたいですね」
YTAMO「いまの世の中は忙しく働かなきゃならなくなって、基準が変わったと聞いたことがあります。ただ、『あたえられたもの』がタワーレコードで流れているのを聴いたらすごかったです、不協和音で(笑)」
タイチ「(店頭では)ほかの音楽も鳴ってるじゃないですか?」
――そうか。単体で聴くといいけど、ほかと一緒にしちゃうと基準が違うから。
YTAMO「たまたま同じコードが鳴ったときに全然違うので、わー!って思いました」
――ゆうきを聴くときはゆうきだけに集中してもらいましょう(笑)。具体的な曲についても訊かせてもらうと、“plant”と“あたえられたもの”というラストの2曲が特に印象的でした。“plant”はオオルタイチ+ウタモの『ihati EP』(2011年)にも入っていて、あの頃はまだ電子音の割合が強かったですよね。あそこから、どのように変化していったのでしょうか?
タイチ「“plant”は僕のボサノヴァ・バンドのときに絶対やっていた曲なので、そのイメージが強かったですかね」
YTAMO「サビのヴァイオリンのメロディーとかはなかったんですけど……あれは作った?」
タイチ「うん、波多野(敦子)さんに弾いてもらいました。いま『ihati EP』の“plant”を聴いたら、すごいハイテンションやなって思うやろうな(笑)」
――“plant”もメロディーに沿った素直なアレンジでありつつ、とはいえ展開にはハッとする要素もある。それに比べると、“あたえられたもの”に関しては本当にアレンジがシンプルで、メロディーの良さが際立っているなと。
タイチ「“あたえられたもの”はホンマにすぐ出来たので、そこからまた組み上げることはしないほうがいい気がして、こういう感じになりました。もっといろんなアレンジもできたと思うんですけど、構成はすごくシンプルやし、それをただ何回も聴くという(笑)、それだけで十分かなというのがありましたね」
YTAMO「この曲は歌詞に対してのテンションが難しかったです。内容が重いし、時代にマッチしすぎてるから、アレンジの落としどころが難しくて。(タイチの書く歌詞は)放っておいたらどんどん宗教臭くなるから(笑)」
――歌詞はもちろん一曲一曲に色がありつつ、どの曲にもどこか心細さや不安、悲しみが滲んでいて、でもそのうえでの強さだったり、それこそ〈勇気〉のような感覚も感じられます。そのテイストが一番わかりやすく表れているのが“あたえられたもの”だと思うんですが、そもそもタイチさんは歌詞を書くにあたって、どんなことを考えていたのでしょうか?
タイチ「歌詞も自然発生的に出てきたイメージというか言葉というか……まあ、全部自分のことやと思うんですけど。自分のなかの根本的なことというか、そういうことを歌いたいなというのが今回はすごくあったかもしれないです」
――つまり、自分の想いや感情を素直に出そうと。
YTAMO「でも、歌い出しの〈この魂 どこの道へ迷い 朽ちるかもしれない〉というところが難しくて。そんなこと言われてもっていう気もするし(笑)、それを嫌味なく聴かせるのがすごく難しいんですよ。〈声は張らないように〉とオーダーをしたと思うんですけど。〈ウォー〉みたいにならないように(笑)」
――〈この魂〉という言葉で〈ウォー〉と歌い上げちゃうと、それこそ長渕剛のような男臭い世界観になってしまうと(笑)。
YTAMO「ルーツが出すぎてしまうので、そこだけは気を付けました(笑)」
自分の意識を介していないような気持ち良さが好き
――“あたえられたもの”という曲名は、そのままアルバム・タイトルにもなっていますね。
タイチ「途中でも言ったように、この曲が出てくるときの感じが自然な流れだったというか、ポロっと出てきたので、これを今回のアルバムのタイトルにしようというのは結構最初の段階から言っていました。歌詞の内容はまたちょっと違うと思うんですけど」
――では、歌詞に関しては何かモチーフやイメージがあったのでしょうか?
タイチ「メッセージなどではなくてやっぱり自分のことなんですが、自分で自分を道に迷わせているような感じがするというか、人間がもともと持っている〈普通にいいもの〉がもっとズルッと出たらいいな、という感じのことやと思うんです。自分で自分のいいものに蓋をしちゃいがちですけど、その無垢ないいものに意識がいったらいいんじゃないかと」
――タイチさんの作品の背景には〈フォークロア〉という言葉がずっとあって。〈個人の民族性〉という話を前にもしたかと思うんですが、その感覚は今作にも通底していると。
タイチ「めっちゃ近いですね。(音楽活動の)初期は即興音楽がすごく好きだったし、自分がやっているんだけどやってないような、何コレ?みたいなものが出来ちゃったりとか、そういう自分の意識をあまり介していないような気持ち良さがすごく好きなんですよ。今回の曲の出来方もそういうのと近いというか」
――アウトプットの形は全然違うんだけど、それが生まれる背景は近いと。
タイチ「そうですね。回路というか数値は結構近いと思います。自分ではしたことないですけど、農業とかに近いかもしれない。時が経たないと実がならないみたいな。そのときに来るものというか。そういう意識がどんどん強くなってきてますね」
――そういえば、〈ゆうき〉という名前はどのように決まったのでしょうか?
タイチ「オオルタイチ+YTAMOという名義でずっとやっていたんですが、ちょっとわかりにくい部分が多いなと思って、何となく覚えてもらいやすい名前で〈ゆうき〉にしました。〈勇気〉と捉えるとちょっと恥ずかしい感じにはなるんですけど、でもいい言葉やし、いろんな意味を兼ねてもいるから、これがいいんじゃないかなと。まあ、だいぶいろんな人に相談しましたね。〈ゆうきって付けようと思うけど、どう思う?〉って。微妙な反応が多かったですけど(笑)」
YTAMO「私もずっと微妙やなと思っていたんですが(笑)、〈いい名前やね〉と言ってくれる人も意外と多くて、恥ずかしがっているほうが逆に恥ずかしいような感じになってきましたね」
タイチ「〈幽玄〉の〈幽〉みたいに、〈ゆう〉と〈き〉って形がないものに付けられることが多いなと思って。そこがいいなと思ったのもあります」
YTAMO「〈結ぶ〉の〈結〉とかね」
――形がないものということで言うと、音楽とも結びつくし、いい名前じゃないですか(笑)。
YTAMO「良かった(笑)」
――最後に、今後のライヴはどんな感じになりそうですか? リリース・ツアーだとドラムが入るとか。
タイチ「そうですね。東京と京都は濱本くんが参加してくれます」
YTAMO「2人でやるときはアルバムのアレンジとは全然違うんですけどね。どうしても、もっとシンプルになっちゃう」
――ウリチパン郡の場合はアルバムを1枚出した後に、ライヴのためにバンドに発展したわけじゃないですか。ゆうきの場合は今後も2人で続いていくのでしょうか?
YTAMO「ドラムが入ったほうがいい曲はどうしてもあるので、そういうものは一緒にやりますけど、やっぱり音数を増やす難しさは常にあるし、バンドにしたから豪華というわけでもないと思うんですね。まだ今後どうなるかはわからないですが、よりその人が濃ゆく出ているもののほうが好きやったりするので、まずは2人でと考えています」
ゆうき『あたえられたもの』リリースツアー
1月14日(土) 京都府庁旧本館・正庁
1月20日(金) 広島・4.14
共演:嶺川貴子&ダスティン・ウォング
1月22日(日) 東京・代官山 晴れたら空に豆まいて
共演:キセル
2月18日(土) 静岡・BASHIRAZ
共演:steteko、横の田んぼに川
2月24日(金) 名古屋・鶴舞K.D Japon
共演:小鳥美術館
※京都公演と東京公演には濱本大輔(ドラムス)が参加
Mikiki Pit Vol.2
2月23日(木) 東京・恵比寿batica
共演:ジョルジオ・トゥマ、yoji & his ghost band、井手健介と母船
ラウンジDJ:谷口雄(1983、元・森は生きている)、Mikiki DJs(田中亮太&小熊俊哉)
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カツオ プレゼンツ 熱い音ライブ
ゆうき『あたえられたもの』発売記念インストア・イヴェント
2月19日(日) タワーレコード渋谷店6Fイヴェント・スペース
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