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Photo by Ben Anaman
 

インディー・クラシックの極北、ダーシー・ジェイムズ・アーギュー

インディー・クラシックを代表するレーベルといえば、過去にも紹介したようにニュー・アムステルダムは外せません。この度、ジャズ評論家の柳樂光隆氏が主宰するJazz The New Chapterレーベルによって、ニュー・アムステルダムを代表する5タイトルの日本盤化が実現。以前にも記事で取り上げたフィネガン・シャナハン『The Two Halves』やダニエル・ウォール『Holographic』といった人気作も見逃せませんが、ここで特に注目したいのがダーシー・ジェイムズ・アーギュー・シークレット・ソサエティーです。

DARCY JAMES ARGUE'S SECRET SOCIETY Real Enemies New Amsterdam/Jazz The New Chapter(2016)

その名の通り、作曲家のダーシー・ジェイムズ・アーギューが率いるこのラージ・アンサンブルは、マリア・シュナイダーや挾間美帆と同じように、クラシック~現代音楽とジャズのハイブリッドといえるコンポジションを志す音楽家の流れにいます。特に2016年の最新作『Real Enemies』では、シェーンベルクが確立したとされている十二音技法を研究し、それを大々的に採り入れています。それもあって、上述した作曲家たちの流れにおいてもハードコアな部類に属する作品だといえるでしょう。

まずは、“The Enemy Within”のタイトなビートと、不協和音も交えたシンフォニックなホーン・セクションとの組み合わせに驚かされるはず。ここでは、新世代ジャズ勢のサウンドを現代音楽のメソッドのなかに持ち込んでおり、最新鋭のビート・ミュージックとしても成立させています。

ほかにも、昨今のディスコ~ブギー・リヴァイヴァルと共振しつつラテンの要素を採り入れた“Dark Alliance”など聴きどころは盛りだくさんですが、そのなかでも白眉が“Best Friends Forever”。ラヴェルの〈ボレロ〉的なリズムと、反復するピアノの旋律、空間を自在に飛び交うホーン・セクションに彩られたこの楽曲で特に素晴らしいのは、再生して3分過ぎからの展開です。全体をまとめていた〈ボレロ〉的なリズムが一気に崩れだすと共に、ハイハットの音色が空間にばら撒かれ、それに伴ってピアノやホーンも暴れ出す――このフリーキーな展開がもたらすカタルシスは、緊張と緩和、サウンドの情報量のバランスを完璧にコントロールすることで初めて得られるものでしょう。

 

10周年を迎えたイレースド・テープス、注目作を一挙リリース 

ここからは、ポスト・クラシカルの最近の動きを紹介していきます。まず取り上げるのは、今年で設立10周年を迎えたポスト・クラシカルの中心的レーベル、イレースト・テープスに所属するダグラス・デアー。

DOUGLAS DARE Aforger Erased Tapes(2016)

ジェイムズ・ブレイクに象徴されるポスト・ダブステップの方法論を、ポスト・クラシカル的サウンドに導入した初作『Whelm』を2014年にリリースし、オーラヴル・アルナルズやニルス・フラームのサポート・アクトとしても知名度を上げた彼が、2016年に発表した2作目『Aforger』は〈レディオヘッド『A Moon Shaped Pool』に対するポスト・クラシカル側からの返答〉と評したら言い過ぎでしょうか。フォーキーな演奏にエレクトロニック・ミュージックの要素を肉付けしていったかのようなサウンド・デザインは、弾き語りという表現スタイルの現代的な在り方を提示しているように思えます。

 

また、ミニマル・ミュージックをネクスト・レヴェルに推し進めたプロジェクト、ブラント・バウアー・フリックの創始者であるダニエル・ブラントのソロ作『Eternal Something』も、イレースト・テープスから先日リリースされたばかり。もともとは〈シンバルでアルバムを作ろう〉と考えて作曲を始めたそうですが、最終的にはピアノ、トロンボーン、チェロ、ドラム、アナログ・シンセなどを採り入れて完成。ブラント・バウアー・フリックのサウンドをさらに前進させた、画期的すぎるビート/リズムが展開されており、早くも2017年のベスト・アルバム候補に挙げたくなるほどの恐るべき傑作です。

DANIEL BRANDT Eternal Something Erased Tapes(2017)

 

イレースト・テープスはさらに、昨年来日したピーター・ブロデリックがデヴィッド・オールレッドとコラボした、アーサー・ラッセルを思わせるチェンバー・フォーク作品『Find The Ways』を4月に控えているほか、アーサー・ジェフス率いるペンギン・カフェの新作『The Imperfect Sea』も5月に発表するとのこと。先代のペンギン・カフェ・オーケストラは〈ポスト・クラシカルの祖〉と言っても過言ではない存在だけに、これは意義深いリリースとなりそうです。

オールレッド&ブロデリックが4月7日にリリースするニュー・アルバム『Find The Ways』収録曲“The Ways”
 
ペンギン・カフェが5月にリリースするニュー・アルバム『The Imperfect Sea』収録曲“Cantorum”