ジャンルを横断しながらアップデートし続ける、21世紀以降のクラシック音楽をフィーチャーした連載〈Next For Classic〉。この第5回では、連載の監修を務める音楽ライターの八木皓平が、昨年後半から2017年の春にかけてリリースされたインディー・クラシック/ポスト・クラシカルの注目作を一挙紹介。この新潮流が生み出すサウンドに、ぜひとも耳を傾けてみてほしい。 *Mikiki編集部

 

yMusic
 

お茶の間からダーティ・プロジェクターズまで躍動するyMusic

Apple Pay(JCB)のCMで、ベン・フォールズがyMusicとコラボレーションした楽曲“Capable Of Anything”が使われたことには驚きました。これは以前、僕がMikikiのブログで紹介した2015年の年間ベスト・アルバムで1位にセレクトしている『So There』の収録曲ですが、この華やかなチェンバー・ポップがお茶の間に鳴り響いたという事実は、ベン・フォールスの優れたポップ・センスを再認識すると共に、インディー・クラシックがポップ・ミュージックとしても機能しうることを証明しているような気がします。

 

yMusic First Communal Table(2017)

インディー・クラシックを牽引するコレクティヴであるyMusicは、先月、通算3枚目となるニュー・アルバム『First』をリリースしたばかり。〈ロック・レコードのフロウや構造と重なり合う室内楽アルバム〉というコンセプトに基づく本作の作曲は、こちらもブログで以前紹介したサン・ラックスが担当。3~4分台の楽曲がメインになっているほか、2日間のリハーサル、2日間の録音と1日のミックスを経て完成させたという話からも推察できるように、あえて作りこまないことから得られたダイナミックなアンサンブルが魅力的な一枚です。その新作に加えて、2011年のデビュー作『Beautiful Mechanical』と2014年の2作目『Balance Problems』の流通が日本でもスタートしたため、彼らの音源と非常にアクセスしやすくなりました。

yMusicのニュー・アルバム『First』収録曲“Sunset Boulevard”
 

そんなyMusicは、他ジャンルとのコラボレーションを活発に行っていることでも有名で、ここ最近ではダーティ・プロジェクターズの新作『Dirty Projectors』でも大活躍を見せていました。“Little Bubble”など4曲に参加しており、彼らの奏でるストリングスが音響的な魅力を支えています。さらに最近では、映画「ラ・ラ・ランド」への出演でも話題を集めたジョン・レジェンドが、シンシア・エリヴォと共に第59回グラミー賞授賞式で披露したビーチ・ボーイズの大名曲“God Only Knows”のカヴァーにもyMusicは参加。彼らの活動範囲はR&Bのシーンにまで広がっているようです。

 

ビョークも愛する鬼才、ニコ・ミューリーの最新モード 

この流れで改めて紹介したいのがニコ・ミューリー。ビョークやシガー・ロスなど著名な音楽家/バンドのストリングス・アレンジを担当する傍ら、オペラの総監督も務めるなど幅広い活動を展開している彼が、yMusicの一員であるヴィオリストのナディア・シロタとの共作『Keep In Touch』をベッドルーム・コミュニティから2016年に発表しています。映画音楽の巨匠であるジョン・ウィリアムズにも匹敵しそうな、ハリウッド映画のサウンドトラックを思わせる重厚なオーケストレーションと、ミニマル・ミュージックを通過した色彩豊かなでポップなサウンドが見事に同居した、ニコ・ミューリーの真骨頂ともいえる珠玉の楽曲群が並んでいます。

NICO MUHLY,NADIA SIROTA Keep In Touch Bedroom Community(2016)

 

ノンサッチから昨年リリースされた、ニコ・ミューリー&ティトゥールの『Confessions』も素晴らしい一枚。ここでニコは、フェロー諸島のシンガー・ソングライターであるティトゥールとタッグを組み、バロック音楽をポップ・ミュージックの文脈で再解釈。オーウェン・パレットやスフィアン・スティーヴンスを想起させる、最新鋭のチェンバー・ポップを奏でています。収録曲の“Describe You”を聴けば、ティトゥールの卓越した作曲能力が、バロック音楽を徹底的にモダナイズしたニコ・ミューリーの音響デザインと強烈にマッチしていることが掴めるでしょう。

NICO MUHLY&TEITUR Confessions Nonesuch(2016)