古くならない、ヒケツがここに!

 すでに発売されて3ヶ月、アジア・ツアーも終了。ブルーノート東京にエレクトリック・バンドで来演済み。というなんとも時期を逸してしまったアルバムレヴューではあるが、晩年を迎え、キャリアを総括しにかかった巨匠のボックス・セットを紹介しないわけにはいかない。このセットは、『Now he sings, now he sobs』、『Three Quartets』、『Crystal Silence』、『Light as a feather』といった名盤や、さらに『Children Song』というありがたい曲集を作曲家・教育者として書き下ろした、このスーパーなジャズ・アーティスト、チック・コリアについて知る絶好の機会であると同時に、これまでの印象を更新するいい企画なのだから。

CHICK COREA The Musician: Live at the Blue Note Jazz Club, New York, NY October-November 2011 Concord(2017)

 The Musicianとタイトルが付けられたボックス・セットは、これまで共演歴のあるアーティストと、チックのレパートリーを演奏したブルー・ノートNYでのライブを収録したCD3枚と、公演の様子を挟みながら彼の生涯をドキュメントした映像を納めたブルーレイ1枚で構成されている。いろんな面においてとてもオーガナイズされた人である、チックらしい行き届いた内容になっている。

 さらに、こんな特別な機会だから可能な普段あまり思いつかないミュージシャンの組み合わせもあったりする。今回のジャズならではのセッションといえば、おそらくゲイリー・ピーコック、ブライアン・ブレイドとのピアノ・トリオではないだろうか。ボックスには《I hear a rhapsody》の一曲のみの収録である。ライヴではどんな曲をどのくらい演奏したのだろうか、チックらしいタッチのイントロからテーマを経て、一転、何やらスタンダーズを思わせるうっとりしたチックらしからぬ空間が現れる。いつの日かトリオの完全ライヴ盤が出ないだろうか、チックのピアノの意外な一面を垣間聴いてしまった。

 一枚一枚聴きながら、チック、ジョー・ザヴィヌル、ジョージ・デューク、そしてこのアルバムではデュオで出演しているハービ・ハンコックの、あの頃のエレピのサウンドやアプローチを比較しては、あーでもない、こーでなくてはと悶々としていた若き頃を思い出した。