BLOOD IS THICKER THAN WATER
[ 緊急ワイド ] 血は水よりも濃し
どうしてこんなに息がピッタリなのかって? それは同じ屋根の下で、同じ物を食べ、同じ音楽を聴いて育ったから。お互いを知り尽くした兄弟姉妹グループならではの、調和の取れたアンサンブルが悪いわけないよ!

★Pt.2 KITTY DAISY & LEWIS『Superscope』
★Pt.3 THE LEMON TWIGS『Do Hollywood +6』
★Pt.4 SPARKS『Hippopotamus』
★Pt.5 THE CRIBS『24-7 Rockstar Shit』
★Pt.6 いま巷を騒がせる血縁グループはこれだ!

 


IBEY
地球上に希望をもたらす2人でひとつの力強いハーモニー

 デビュー作『Ibeyi』より2年半。イベイーのセカンド・アルバム『Ash』がリリースされる。改めて書いておくと、イベイーはフランス生まれ、キューバ育ち、現在はロンドンで暮らす双子の姉妹デュオ。西アフリカ最大の民族であるヨルバ人の血を引き、〈イベイー〉とはヨルバ語でズバリ〈双子〉の意味だ。グループ名の通り、彼女たちは双子であることのアイデンティティーを前面に押し出して活動している。それは前作からカットされた“Ghosts”や“River”のMVにも表れているし(特に同じ衣装を纏い、水中から交互に、もしくは同時に顔を出す“River”のアイデアは秀逸だった)、これまでの歌詞も姉妹の関係性や自分たちの起源をテーマにしたものが多かったわけだが、今作では〈2人でひとつ〉であることの前提に立ち、よりパワフルかつポジティヴに歌声と言葉を発信。2人が合わさってひとつの顔になったアートワークからして何とも象徴的だ。

 「ファースト・アルバムでは〈リサのほうが前に出ている〉と思った人も多いんじゃないかしら。だから今回は〈もっと私も歌いたい!〉って、自分からリサに伝えたの」(ナオミ・ディアス)。

 確かに、『Ibeyi』では鍵盤も担当する妹のリサ・カインデ・ディアスがメイン・ヴォーカルを取っていたが、今作はパーカッションとビートメイクを担当する姉のナオミも凛とした歌声を聴かせている。2人のヴォーカルの相互作用は、とりわけリード曲“Away Away”で強く感じ取ることができるだろう。また、歌詞のテーマについてはリサが以下のようにコメントしている。

 「前作は私たちの過去であり、亡くなった父(イラケレで名を成し、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブでも活躍したパーカッショニストのミゲル“アンガ”ディアス)と姉への追悼を意味するアルバムだった。それに対して『Ash』は現在の自分たちであり、〈私たちが世界をどう見ているか〉を伝え、希望と恐れ、この瞬間に共有すべきものなどを表現した作品なのよ」。

 

IBEYI Ash XL/BEAT(2017)

 アルバム・タイトルにもなった“Ash”がまさにそのような曲。〈Ash(=灰、燃え殻)〉という言葉を用いて世界情勢を憂いながら、しかし彼女たちはそこから希望を手繰り寄せているのだ。

 「“Ash”はアメリカ大統領選挙の直後に書いたの。希望が失われた場所からポジティヴな力を引き寄せるためにね。そして結果的にそれがアルバム全体の根本的なテーマになったわ。今作はより直感的で、パワフルな政治的ステートメントを含んでもいるのよ。〈灰〉を使って前向きなこともできる。だって〈灰〉は肥料にもなるんだから。希望はまだあるわ」(リサ)。

 もちろん歌詞だけの話ではない。ルーツ表明に重きを置いていた初作を経て、〈外に出たいと思う気持ち〉〈リスナーといま共有したい気持ち〉を濃く表現しようという試みは、空間が活きたミニマルなビートを軸とする現代的なエレクトロニック・サウンドを、より広範に用いている点からも伝わってくる。さらに、ゲスト・アーティストも多数フィーチャーしていて、おそらくそれは〈もっと外に出たい〉という2人の思いの実りであり、前作をリリースして以降の2年間におよぶワールド・ツアーで芽生えた感情でもあるのだろう。

 「カマシ・ワシントンとは去年のいろんなフェスで同じステージに出演する機会が多くてね。彼の音楽はイベイーとリンクするところがあるんだと思う。ミシェル・ンデゲオチェロは私たちにとって神格化されたような存在よ。常に大きなインスピレーションの源であり、ベースで参加してもらえたのは本当に光栄だったわ。チリー・ゴンザレスとはラジオ番組で出会い、前回のフランス公演の時に共演したの。私たちは彼の音楽の大ファンだったから、レコーディングの時にも声をかけてみたらロンドンまで来てくれたのよ。それから、このアルバムでは誰か女性ラッパーにも参加してもらいたいと考えていてね。ナオミと一緒に10代の頃からずっと聴いていたラ・マラ・ロドリゲスにオファーするのは、とても自然な流れだったと思う。あとはブラーのデーモン・アルバーン。彼はプロデューサーのリチャード・ラッセルの友人で、スタジオに遊びに来た時にリチャードが〈よかったら演奏してみない?〉って。ピアノを弾くデーモンの姿はただただ素晴らしかったわ」(リサ)。

 客演陣についてこう語った後、「今後もたくさんのアーティスティックなコラボレーションをしたりして、いろいろなことを学んでみたい。未来は驚きに満ち溢れているわ」と続ける2人。どこまでもポジティヴな双子姉妹である。

イベイーの作品。

 

関連盤を紹介。