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トム・ヨーク史上屈指のポップソングや、カート・ヴァイル×ドリーム・ポップ女神のサイケ・ナンバーなどインディー〈知られざる〉名デュエット10選

マーヴィン・ゲイ&タミー・テレルやデヴィッド・ボウイとミック・ジャガー、近年ではデヴィッド・バーン&セイント・ヴィンセントなど、ポップ音楽の歴史は、数々の名デュエットによって彩られてきた。コートニー・バーネット&カート・ヴァイルの『Lotta Sea Lice』も2010年代の象徴的なコラボとして語り継がれることになるだろうが、この稿では、90年代以降のインディー・ロックのなかから、やや歴史に置き去りにされたかのように思える、あるいは最近の作品ながら見すごされている印象の、〈知られざる〉名デュエット10曲をチョイス。新たな発見や再確認を促すことができれば幸いだ。

 

ドラッグストア feat. トム・ヨーク “El Presidente”『White Magic For Lovers』(98)

トム・ヨークのデュエット参加では、ビョークやPJハーヴェイの楽曲が周知されているが、若かりし頃の〈忘れられた〉好演として、紹介したいのがこれ。ブラジル人の女性シンガー、イザベル・モンティロを擁するロンドン発バンドのトップ20ヒットであり、タンゴ調のリズムと流麗なストリングに乗って飛翔するトムの歌声は、レディヘ含めてキャリア屈指と言うべき曇りのなさ。『OK Computer』の翌年に彼が見せてくれた、ちょっと意外、でも愛すべき横顔。 *田中

 

ホープ・サンドヴァル&ウォーム・インヴェンションズ feat. カート・ヴァイル “Let Me Get There”『Until The Hunter』(2016)

ジザメリを狂わせた魔性の女としても知られるマジー・スターの歌姫と、マイブラのドラマーでもあるコルムが結成したユニットの3作目に収録されたリード曲。ズブズブと沈んでいく耽美でデカダンなヴォーカルは、カート&コートニーがカヴァーしたベリーの世界観とも通じるかも。どうやらカートはギターを弾いてないっぽいが、ウィルコが“Marquee Moon”を演奏しているかのような浮遊感たっぷりのリフが個人的にツボです。 *上野

 

ムーンランディングズ feat. レベッカ・ルーシー・テイラー “The Strange Of Anna”『Interplanetary Class Classics』(2017)

英国で今もっともおもしろいバンドとインディー・ファンが口を揃える、ファット・ホワイト・ファミリーのメンバーが中心のムーンランディングズと、同郷シェフィールドで彼らと共にアンダーグランド・シーンの旗振り役となっているスロウ・クラブのレベッカ・テイラーによる共演曲。まるで〈89年のヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコが“Just Like Honey”を演奏している〉って雰囲気だけれど、まぎれもなく2017年の空気を感じる。 *天野

 

ライアン・アダムス&ノラ・ジョーンズ “Dear John”『Jacksonville City Nights』(2010)

ライアン・アダムスのキャリアは常にこんがらがっているわけだが、2000年代の彼はオルタナティヴ・カントリーの旗手として確かに充実期を迎えていた。そんな勢いある時期の中間点にあたる2005年にリリースした3作(!)のアルバムの内の1作が『Jacksonville City Nights』。ノラ・ジョーンズが参加したこの曲は、カーディナルズの朴訥な演奏とアメリカーナ的な感性を持ったノラの歌声との相性がばっちりで、アルバムのハイライトとして印象深い。ライアンの歌唱は完全にニール・ヤングのモノマネで、ちょっと笑える。 *天野

 

フィービー・ブリッジャーズ feat. コナー・オバースト “Would You Rather”『Stranger In The Alps 』(2017)

ジュリアン・ベイカーの盟友で、iPhoneのCMにてピクシーズの“Gigantic”をカヴァーしたこともある新世代フォークの才媛が、ブライト・アイズことコナー・オバーストをゲストに迎えたナンバー。これまで何度も共演を重ねてきた2人だけに、アコギとピアノという最小限の楽器だけで、ぴたりと息の合ったハーモニーを聴かせてくれる。彼女のデビューEPはライアン・アダムスが手掛けていたが、いつかコナーがプロデュースしたら……と妄想するのも楽しい。 *上野

 

Turntable Films feat. Predawn “Animal’s Olives”『Yellow Yesterday』(2012)

国内インディーにおいては、ホムカミ&平賀さち枝の“白い光の朝に”は言わずもがなとして、今コラボも忘れるなかれ。京都発オルタナ・カントリー3人組が、当時〈和製ノラ・ジョーンズ〉と形容されていたシンガー・ソングライターを迎えてのヒプノティックなナンバー。7分近くにわたって刻まれるハンマー・ビートとイントロの超絶ギターもサイケきわまりないが、感情を爆発させることなくユニゾンを重ねていく2人の歌声が、聴き手を平熱のトリップへと運ぶ。 *田中

 

ベン・フォールズ feat. レジーナ・スペクター “You Don't Know Me”『Way To Normal』(2008)

ぶっきらぼうなビートと、フレーズのように挿入されるレジーナ・スペクターのキュートな歌唱が、ベン・フォールズの手になる純然たるパワー・ポップのメロディーに寄り添う。NYの〈アンタイ・フォーク〉シーンを下支えしたスペクターは『Begin To Hope』(2006年)の成功後でノリに乗っていた時期で、なんとなく後のデヴィッド・バーン&セイント・ヴィンセントの原型になったかのようにも想像できる画期的な共演だ。コメディー・ドラマを模したビデオも楽しい。 *天野

 

モリッシー&スージー“Interlude”(1994)

モリッシーとスージー&ザ・バンシーズのスージー・スーによるデュエット、という80年代UKロックのヒーロー&ヒロインが共演した知られざる1曲がこの“Interlude”。アートワークは写真家ロジャー・メインの57年の作品、原曲はティミ・ユーロが歌った68年の同名映画の主題歌というのだから、モリッシーの美学が炸裂している。悲壮でムーディーなデュエットは見事だが、MV撮影のアイディアを巡ってモリッシーとスージーは仲違いし、振り返られることのなくなってしまった楽曲。 *天野

 

トゥーシェ・アモーレ feat. ジュリアン・ベイカー “Skyscraper”『Stage Four』(2016)

LAの激情系ポスト・ハードコア・バンドによる名曲。意外に思うかもしれないが、ジュリアン・ベイカーの出自がパンクやエモにあることを鑑みれば、至極納得のいく組み合わせだろう。この曲を収録した4作目『Stage Four』は、フロントマンであるジェレミー・ボムの、2014年に癌でこの世を去った母親に捧げられており、生前の彼女が息子たちと最後に過ごした場所がマンハッタン。無人の車椅子を押しながらNYを歩くビデオが切なすぎる。 *上野

 

マニック・ストリート・プリーチャーズ feat. ニーナ・パーション “Your Love Alone Is Not Enough”『Send Away The Tigers』(2007)

ウェールズの誇る、状況主義を実践してきたパンク・バンドが、トレーシー・ローズと絡んだ初期の名曲“Little Baby Nothing”の00年代バージョンを作るべく招いたのはカーディガンズのニーナ・パーション! 〈愛の不全〉をテーマに質疑応答形式でヴォーカルを掛け合うデュエット王道をいくナンバーであり、フーやピンク・フロイドを参照した歌詞の遊び心も微笑ましい。ベーシストのニッキー・ワイアーもヴォーカルをとる大サビがまた胸熱。 *田中