オーストラリアのレジェンドらも客演した、心地よい連帯感
〈初めはそれぞれ1曲ずつ持ち寄って7インチ盤を作ろうという感じだったんだけど、やがて世間で埋もれないようにするためには、12インチ盤の方がいいと思ってさ〉とカートが語るように、この度届けられたアルバム『Lotta Sea Lice』には全9曲を収録。カートがコートニーのために書き下ろしたという“Over Everything”(「君の名は。」ばりに2人の歌声が入れ替わるミュージック・ビデオも必見!)を皮切りに、コートニーが四苦八苦しながらペンを執ったという“Let It Go”などのオリジナル・ソングも聴き応え充分だが、本作の核となっているのは4つのカヴァー曲にあると筆者は考える。
まずは、3曲目の “Fear Is Like a Forest”。これはコートニーの恋人としても知られるジェン・クロアーが2009年に発表した2作目『Hidden Hands』に収録されたナンバー。ブルージーなギターと哀愁漂うコーラスが印象的なフォーク・ロックだが、長らく自分を支え続けてくれたパートナーに対する、コートニーからの恩返しと受け取れるかもしれない。“Outta The Woodwork”と“Peepin’ Tom”の2曲はお互いの持ち歌のカヴァーとなり、メイン・ヴォーカルを入れ替えてリワークする遊び心を発揮しているが、もはやどっちが本家かわからなくなるほどハマっていることに驚くはず。
そしてラストを飾る“Untogether”は、昨年再結成した4ADのドリーム・ポップ・バンド、ベリーが93年にリリースしたデビュー作『Star』に収録されたセンチメンタルなフォーク・バラード。この曲は、ベリーのヴォーカル=タニヤ・ドネリーが、当時一緒にツアーを回っていたレディオヘッドのトム・ヨークとデュエットを披露したというエピソードがあり、コアなレディオヘッド・ファンにとっては馴染み深いナンバーでもある。これらのカヴァー曲のチョイスからも、カート&コートニーの相思相愛っぷりとお互いへの理解度が計り知れる。
また、両者のパートナーや家族も顔を出す“Continental Breakfast”のMVが象徴する通り、気の置けない仲間たちと集まる時にも似た心地よい連帯感もこのコラボのミソだろう。それを裏付けるように、『Lotta Sea Lice』にはカートの呼びかけで多数の実力派ミュージシャンが客演。ダーティ・スリーのジム・ホワイト(ドラムス)とミック・ターナー(ギター)を筆頭に、近年はPJハーヴェイのツアーにも帯同するミック・ハーヴェイ(ベース)、ウォーペイントのステラ・モズガワ(ドラムス)といったオーストラリア出身のヴェテランのみならず、カート&コートニーのバンド・メンバーや、コーラスで参加のジェイド・イマジン&ジェス・リベイロら若き才媛たちも華を添えているのだ。ダーティ・スリーやミック・ハーヴェイはあのニック・ケイヴとも親交が深いわけで、彼がボーイズ・ネクスト・ドア時代に残した“Shivers”をカヴァーしたことがあるコートニーにとっては、まさに夢のようなレコーディングだったことは想像に難くない。
ちなみに、タイトルに選ばれた〈Sea Lice〉とはウオジラミのことで、〈ステラの海辺でのストーリーを聞いて思いついたの〉とコートニーは明かしている。現在、彼らはジャネット・ワイス(スリーター・キニー)、ステラ、ロブ・ラークソ(ヴァイオレーターズ)、さらにケイティ・ハーキン(スカイ・ラーキン)からなるスーパー・バンド、その名も〈シー・ライス〉と共に全米ツアーの真っ最中。
ここで先日Pitchforkが公開したマリブの海岸でのライヴ映像をご覧いただきたいが、レイドバックしつつも骨太なバンド・アンサンブルは音源以上にエモーショナルだし、ボブ・ディランの遺伝子を受け継ぐ2人の気だるい節回しはもちろん、ギタリストとしてのプレイヤビリティーにも舌を巻くばかりだ(ステラはウォーペイントのツアーが終了しだい合流するものと思われる)。
永遠に聴いていられるほど息ぴったりな『Lotta Sea Lice』だが、セカンド・アルバムが待たれるコートニーにとっても大きな刺激になったようだ。実はこのコラボに着手する前、曲作りにマンネリを感じていたという彼女は、〈偽りのソングライターになってしまうことが本気で恐ろしかった〉と述懐している。ところが、馬鹿みたいにポジティヴなカートのお陰で、〈失っていた自信にもう一度火を点けることができたのよ!〉と笑うコートニーの表情は、憑き物が落ちたように晴れやかである。
カート・コバーン&コートニー・ラヴ、シド&ナンシー、あるいはボニー&クライドのように刹那的/退廃的なスリルが感じられるわけではないし(そもそも両者にはパートナーが存在するわけで……)、音楽的に目新しいチャレンジやギミックがあるわけでもない。しかし、いつか両者のキャリアを振り返る時が来た場合、このアルバムは間違いなくターニング・ポイントとして語り継がれるだろう。2人の天才的なシンガー・ソングライターが、大陸を越えて邂逅を果たした奇跡のコラボレーション。リアルタイムで楽しまなきゃ大損だ。