BRIAN SHINSEKAIが『Entrée』でメジャーデビューする。彼は2009年の『閃光ライオット』で存在感を示し、昨年までロックバンド・Bryan Associates Clubを率いたが、今作は打って変わりダンスミュージックが鮮やかな内容となっている。そんな彼にこの見事な変身の真意を訊いた。

 

――『Entrée』でメジャーデビューされる今の心境はいかがですか?

「今までよりもごく自然に生まれた音楽を1枚の作品にしました。〈作ってやろう〉という気概があったというよりは溢れてきた物が、現在の音楽シーンとシンクロできる物だったという確信があります。自然体ではあるかもしれません」

――以前からご自身が生まれる前の70、80年代音楽からの影響を公言されていますね。

「琴線に触れたのがその頃のヨーロッパのポップスだったり、ロックだったんです。あとはグラムロックやAOR、ブルー・アイド・ソウル。それが何故かというのはあまり考えなかったですね。同世代の友人とは全然違う物を聴いていたので、変な感じだったとは思います。高校生の頃からライブ活動もしていたんですが、学生服を着てテクノとかじゃなくて、ロックの音源をCDで流しながら歌っていました。下北沢のGARAGEとかでやっていましたよ。

BRIANという名前も昔から使っています。ストイックで職人気質な人が〈ブライアン〉という名前に結集しているイメージがあるので。(ブライアン)メイ、ウィルソン、セッツァー、アダムス、イーノ、全員どこかしらの分野でそれを極めていて、ポップスも実験的な事も出来る。そこがしっくりきたんです」

――2013年から2016年まで活動したバンド・Bryan Associates Clubはまた全然違う音楽性でしたよね。

「デヴィッド・ボウイのグラムロック時代の様な音楽を体現したくて、そのためにはバンドというスタイルをとるべきだと思ったんです。音楽シーン全体を見渡した時に、男性でロックスター的な存在がほとんどいない事に気付いたので、自分がそうなりたいと思い結成しました。

その精神は今もありますよ。日常そのままというよりか、アーティストのスイッチをがっつり入れている人の音楽に自分は感動してきました。サウンドとヴィジュアルとヴァーバルが3角形になって届いてくるアーティストが好きなんです」

――生まれる前の音楽を愛しながらも、最近はカルヴィン・ハリスなどのDJにも言及されていますね。

「以前からDJ文化やEDMは大好きで、カルヴィン・ハリスにはロックっぽい要素をかなり感じるんです。最新型のクラブミュージックだけど、ハードロックのリフをちょっとだけ入れてみたり、俗っぽいイメージだけど音楽IQは凄い高い。

10代の頃から〈自分はロック人間だ〉と決め込んでいた部分があったんですよ。〈曲を書いて、ロック的な爆発力で世に問いたい〉という事もありました。でももっと深いところで自分の好きな音楽はエヴァーグリーンなポップスだったりして。それから〈ロックじゃなくても自分が楽しみながら作品を出したい〉と思えて、今の新たなプロジェクト〈BRIAN SHINSEKAI〉をスタートさせました。

ニューアルバム『Entrée』では、ダンスミュージックでポップスな物を作りたいと思って制作しました。〈踊る〉というのは陽の行動。どんなに陰な事をやっていても、アウトプットは陽になって最終的に前に進めるんです。あとは歌謡曲にも影響を受けてきたので、日本語で歌うという事も大事にしてます。歌詞に普遍性があれば、本質的には古くならない。だからローリング・ストーンズの“悪魔を憐れむ歌”は今聴いても良い曲だと思うんです。

今は技術が進化して、過去の音楽の良い所を簡単にPCで再現出来てしまう分、それをどうパッケージ化するのか、というセンスを問われる時代になっているんじゃないかと思うんです。AIが台頭しても、それに左右されない自分の心の根幹を研磨して、それを俯瞰して見れる様になりたい。2045年は技術的特異点(AIが人間の知能を越える)と言われていますが、音楽の昔から変わらない芯の部分を大事に作っていけば、それを憂う事はないと考えています」

――そういった想いが、“2045(Theme of SHINSEKAI)”という楽曲にも繋がるんですね。最後に、今後の展望などあればお願いします。

「これからも僕の音楽性は変貌はしていくと思いますが、今まで鍵をかけていたポップスという引き出しが開いたという事は変わらない気がします。それに音楽性がガラッと変わった様に聴こえるかもしれませんが、『Entrée』では僕のこれまでの10年間を詰め込んでいるつもりなんです。ずっとやってきた音楽性の断片が少しずつですが、全てこのアルバムに入っているので、あらゆる音楽性の片鱗を感じて頂けたらと思います」