イタリアと日本の音楽家がコラボレーション――さりげなく穏やかに日々の空気を掬い取ったアンビエント集

 上海出身、日本育ちのシンガー・ソングライター、王舟とイタリア人ミュージシャン、マッティア・コレッティの縁は意外と長い。数度の来日で日本人ミュージシャンとのコラボレーションを多く行ってきたマッティアが、2016年に王舟との連名で発表した最初のミニ・アルバムが『6 SONGS』。同年、マッティアの招聘を受けて王舟はイタリア・ツアーを行っているし、2018年にBIOMANと王舟が行ったイタリアでの滞在制作のお膳立てにもマッティアが関わっている。その2人が、7年ぶりの新作『5 SONGS』を発表した。今回もギターとエレクトロニクスによる穏やかなアンビエント・サウンドが展開されている。

MATTIA COLETTI, 王舟 『5 SONGS』 SPACE SHOWER(2023)

 2人の関係性は、旧友であり盟友だと言ってもいいだろう。だが、お互いに明確な指示を出して、刺激的に個性を引き出し合うというような感じはあまりしない。7年前の『6 SONGS』も今回も、ベーシックにあるお互いに相手をほっといているような心地良さは変わらない。

 そもそもこの新作の制作自体はコロナ禍以前から始まっていたという。やがて外出や対人を禁じられた状況となり、不可避的にお互いに音源を送っては新たな音を重ねてゆく制作になった。〈文通〉のようだと例えることも可能だが、そんなにかしこまった空気もコロナ禍ゆえのシリアスさも、やはりここにはない。もっともっとさりげないのだ。食卓を囲んで、特に会話もなく食事をして、ときどき〈塩、取って〉くらいの言葉しか交わさない。そんな日常の近さを、僕らは窓越しに見える隣人たちの生活のように、この音楽から感じ取る。トラック・タイトルはそれぞれ”Song 1”“Song 2”と番号が振られただけの簡素なものだが、逆に特定の状況や意味を持たせないことで、〈ある日〉の日記をめくったように、2人の姿をありありと思い浮かべてしまうのだ。

 個人的には『6 SONGS』『5 SONGS』を合わせてアナログLPにしたら最高だと思う。ぜひ検討してもらいたい。

左から、マッティア・コレッティの2014年作『Moon』(Wallace)、王舟の2019年作『Big fish』(felicity)