©Pamela Springsteen

BIG WILLIE STYLE
特別な出来事が重なる2023年……90歳になったレジェンド、ウィリー・ネルソンが今年2枚目のアルバムを元気にリリース! こよなく愛される自身の古典をブルーグラス作法で再解釈した、その名も『Bluegrass』の快さにただ酔いしれて……

 2023年はウィリー・ネルソンにとって近年稀に見るビッグ・イヤーになるだろう。というか、もうなっている。1月のサンダンス映画祭で5部構成のドキュメンタリー・フィルム「ウィリー・ネルソン&ファミリー」が出品されたのを皮切りに、2月に開催の第65回グラミー賞では最優秀カントリー・パフォーマンス部門と(意外にも初の)最優秀カントリー・アルバム部門の2冠を獲得。3月にはアルバム『I Don’t Know A Thing About Love』をリリースして、90歳の誕生日を迎えた4月29日と翌30日にはLAのハリウッド・ボウルにてバースデイ公演〈Long Story Short: Willie Nelson 90〉を開催している。夏から秋にかけては家族や友人たちと回る恒例のツアー〈Outlaw Music Festival Tour〉を過去最大規模で開催。そのうえ今年は〈ロックの殿堂〉入りも叶え、11月の受賞セレモニーが輝かしい一年を締め括ることになるだろう。

WILLIE NELSON 『Bluegrass』 Legacy/ソニー(2023)

 そんなノリノリの90歳が多彩な催しの合間を縫ってリリースした今年2枚目のアルバムが『Bluegrass』である。2013年にレガシーと契約して以降のウィリーはリリース面でも異様に精力的で、パンデミックに見舞われた2020年代に入ってからも年に数枚ずつアルバムを発表する様子はまるで50年代の若手アーティストのようなペースだ。また、作品ごとにコンセプトやテーマを設けて飽きさせない振り幅を用意してくるのも凄い。2021年にはフランク・シナトラのトリビュート盤『That’s Life』と妹や子供たちとの家族アルバム『The Willie Nelson Family』、2022年にはクリス・ステイプルトンの曲提供も受けた先述のグラミー受賞作『A Beautiful Time』、そして今年3月の前作『I Don’t Know A Thing About Love』はハーラン・ハワードへのトリビュート盤、とさまざまな方向性の作品が続いた後となるが、このたび登場した通算151作目(!)のアルバム『Bluegrass』は文字通りブルーグラスに特化した作品となる。ウィリーにとって丸ごとブルーグラスのスタイルで固めたアルバムはこれが初めてになるそうだ。

 プロデュースを手掛けたのはいつもと同じバディ・キャノン。ナッシュヴィルで固定のバンド・メンバーによって2日間かけてライヴ録音されたという全12曲が収録されている。レパートリーはいずれもウィリーが歌ってきた人気の自作曲(“Good Hearted Woman”はウェイロン・ジェニングスとの共作)となり、それらが明朗なブルーグラスのアプローチによって爽やかに再解釈。なかでもリード曲“You Left Me A Long, Long Time Ago”や人気の“On The Road Again”などなどのフレッシュな仕上がりは過去の録音と聴き比べてみてもいいかもしれない。つまり、今回は特定の古典などをカヴァーするのではなく、演奏やアレンジによってブルーグラスというジャンルそのものに敬意を捧げたトリビュート盤になっているわけだ。そうした意味合いとは関係なく、余計な力を入れないウィリー自身のパフォーマンスもどことなく飄々と響いてくる。

 なお、息子のルーカス・ネルソンが自身のバンド=プロミス・オブ・ザ・リアルで新作を発表したり、一方で妹のボビーによる遺作も届くなど、ネルソン・ファミリーはいまなお家族ぐるみで着実に勢力を拡大している模様。その原動力となる主役が90歳だというのもなかなか凄まじい事実だが、前作とは異なるフィーリングに溢れたシンプルな演奏と歌声の軽やかなコンビネーションを気軽に楽しんでほしい。

ウィリー・ネルソンの近作と関連盤。
左から、2021年作『That’s Life』『The Willie Nelson Family』、2022年作『A Beautiful Time』、2023年作『I Don’t Know A Thing About Love』(すべてLegacy)、ボビー・ネルソン&アマンダ・シャイアスの2023年作『Loving You』(ATO)、ルーカス・ネルソン&プロミス・オブ・ザ・リアルの2023年作『Sticks And Stones』(6 Ace/Thirty Tigers)