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言いたいことがあるっぽい

――何と言っても、メロディーが抜群にいいと思うんですよ。すごくキャッチーで、でもよく聴くとコード進行が凝っていたりとか。メロディー作りに、何かこだわりはありますか。

「あります。すごく局地的な話で言うと、コードが半音ずつ下がっていくクリシェ進行はベタに好きですね。〈クーッ!〉ってなる。半音系が好きですね。一瞬セブンスを挿んでそこだけマイナー・コードになるとか、そういうのも好きです。ポップスでよく使われる手法ですよね。それをいかにこっそり入れるか。toldでもそうですけど」

toldの2014年作『Early Morning』収録曲“Imaginary Line”

 

――音はバンド・サウンドでロックだけど、メロディーやコードはポップス系と。

「それを表立ってやると、toldでは反対されることが多いんですよ。俺がベースでこっそりやってるぶんにはバレないんですけど、ギターでこれをやって……と言うと、〈うーん、それはオシャレすぎる〉みたいな空気になる(笑)。toldは、オシャレなことをするのが恥ずかしい男子たちなので」

――硬派でいたい、みたいな?

「そうですね」

――逆にarko lemmingは思いきりポップでいいと。

「ポップだと思ってます。今回、バンド・サウンドに振ってるために音のラウドさでそれが薄れてますけど、コードで言ったら結構ポップスな気がするな。でも〈みんなポップス好きでしょ?〉という気持ちもあるし。そういうところが、俺はこのアルバムを友達は誰も好きじゃないんじゃないかと思ってる理由なんですよね。硬派な人が多い気がするんですよ、友達に。〈ポップスとかダセェ〉みたいな。それもあって、あんまり聴かれたくないんですよね」

――1曲目(“街”)からグロッケンシュピールなんて入れちゃって、みたいな(笑)。

「そうそう。でもその人たちも、本当はポップスが好きなのを俺は知っている」

――ハハハ(笑)。そんなポップス的な曲作りを踏まえたうえで、arko lemmingはどんなことをやりたいのか。

「今回に限って言うと、僕が青春時代に聴いていた邦楽ロックみたいなものが、たぶん理想としてある気がする。2000年代初頭ぐらいの」

――ほおー。例えば?

GRAPEVINEとかTRICERATOPSSyrup16gあたりの。なんて言うか、あんな感じですね。邦楽ロック、ギター・ロックみたいなものが盛り上がっていた時代にやっていたバンドのイメージ。2000年代のイメージなのかな。もうちょっと前でもいいんですけどね、MOONCHILDとか」

GRAPEVINEの99年のシングル“光について”

 

――それはまた、違うイメージが出ましたね。

「ちょっと歌謡曲のテイストが混ざるぐらいのサウンド。あの人たちがやっている曲のコード進行は、めちゃ凝ってるんですよ。邦楽ギター・ロックだけど、ワン・コードじゃなくて、間に絶妙なコードを挿んでくるのがすげぇオシャレで好きなんですよね。弾き語りをすると、それがめちゃ出てくるんですよ。解析するとそうなってる、みたいな、〈うわ、ここすげぇオシャレ〉みたいなのが好きなんです。弾き語りにした時に、すごくいいというのは大事です」

――今回のアルバムで言えば、“稀(すく)ないもの”ですかね。アコースティックな曲調で。

「そうですね、あれはコード推しですから。王道ですね」

――歌詞はどうですか。抽象的な言い回しも多いけど、何か言いたいことがあるっぽいような。

「言いたいことがあるっぽいですね、どうやら。今回は全体的に、なんかイライラしてるんでしょうね、という感じがします。なんでですかね? 普段からイライラしてるんでしょうね、きっと」

――イライラって、何に対して?

「いやもう、ちっちゃいことですよ。電車に乗ってても、いろんなことにイライラしてるんです。〈なんでドアの前に固まるんだよ〉とか、〈なんで券売機の前に立ってから料金を見るんだよ〉とか(笑)」

――アハハ(笑)。ちっちゃい。

「そういうことでイライラしてるんですよ、毎日」

――そういう人なんですか。

「そういう人です(笑)。吉祥寺駅とか、大学生みたいな奴がいっぱいいて、エスカレーターの前で輪になって、〈次どこ行く?〉みたいな話をしてるのが邪魔くさいんですよ。そういう思いが多少……入ってないけど(笑)。鬱憤を違う方向に八つ当たりしてるのかな。なんかちょっと、歌詞には諦め感がありますよね」

――ありますね。イライラと諦め感と、何もない感と、あとエンドロール感とか。

「イライラしてるけど、どうにもならなかったなという感じがありますね。何なんですかね? 諦めてるんですかね」

――でも、そういう小さな鬱憤や諦めを、とても詩的に表現していますよね。

「ありがとうございます。はっきりした対象がいなくて、モヤモヤして、嫌だなーというところですかね。ぼんやりとした不安、苛立ちがあるというか」

――なんか太宰っぽい(笑)。それを、メッセージとして伝えたい?

「いや、メッセージ性はあるっぽいですけど、はっきり〈これ〉とは言えないので」

――例えば1曲目の“街”は? アルバムの冒頭に置いた意味というか。

「これは音優先で1曲目にしたので、歌詞的にはそんなに伝えたいというものでもないですけど、なんとなく、世相を憂えてる雰囲気がありますね。〈これでいいのかな?〉とか〈ヘラヘラしてていいのかな?〉という感じですね、歌詞の意味的には。“稀ないもの”も、だいぶポリティカルな、世を憂えてる感じがします。でも、どれも解決していないんですよね、詞のなかで。これでいいのかな?というところで止まっている。〈ダメとは言わないけど……〉って。そういうスタンスなんですかね」

――微妙なところですね。では角度を変えた質問で、有島コレスケの音楽にはどんな力があると思いますか。

「ダメな奴が多少救われたらいいかなと思ってます、歌詞の面では。同じ気持ちを持ってる人が〈わかるわー〉と思って、多少楽になれたらいいなと。世相を憂えてる歌詞で、〈わかるわー〉〈なんかイラッとくるわー〉というふうに思ってくれたらいいですね。いま、迂闊にTwitterなどにも書けないじゃないですか。何が返ってくるかわからないから。そういう鬱憤を、これを聴いて同意してくれれば多少晴らせるかなと。そのぐらいですかね」

――話を聞いていると、音楽のスタイルはかなり違うけど0.8秒と衝撃。の塔山忠臣さんやドレスコーズの志磨さんと、何となく近い匂いがある気がします、やっぱり

「確かに、今回アルバムをリリースするにあたって塔山くんや志磨くんからの精神的な影響はすごくありましたね。ただ曲を作って出して、〈買ってくださーい〉と言うんじゃないところというか、意味のあるものとして出す必要があるという、そこの影響は受けました。僕の側だけの問題ですけど」

ドレスコーズのニュー・アルバム『オーディション』収録曲“スローガン”

 

――音楽を作ることで、何か変えたいものがあるんでしょうね。音楽界なのか、世の中なのか、自分なのか。

「そうですね、それはあります。それはarko lemmingに限ったことではなくて、俺がいろんなバンドをやっているというところでも大事になってくることなんですけどね。そういうことをやっている人がいることが大事、というか。要はいまっぽいものに興味がないということなんですけどね。捻くれてるんで、いまっぽいものを避けようとするんですよ。でもそれだけだと意味がないから、いろいろやってみるという」

――ふーむ。ではズバリ、有島コレスケの表現衝動の源とは?

「捻くれた気持ち、ですかね。伝わりますかね、これ」

――とりあえず文字にしてみます(笑)。あとはリスナーに委ねます。

「〈意外と信念はあるよ〉ということだけ、書いてもらえれば。チャラっとソロ作を出したわけじゃないぞというところで、お願いします」

――正体を捕まえられたくない人なんですかね、有島さんって。

「ああ~。でも、分析されるのは好きなんですけどね。占いとかは好きですし(笑)。自分のことがわからなすぎるから、人に言われると〈へぇー〉って思います」

――最後に、アルバム・タイトルの『PLANKTON』とは、生物のプランクトンのことですか。

「そうです。単純に〈浮いてる〉という意味があるんですよ。生き物のことだけじゃなくて、浮いてること自体をプランクトンと言うらしいので、それにしました。理由は、曲のコード感と、あとは世の中にはいろんな人がいますけど、俺は浮いてる存在でいたいなということです」

――今後は定期的に、arko lemmingとして活動していくわけですね。

「もう(作品として)出しちゃいましたからね。出す前は家で聴いてるだけ、家で定期的に活動していたんですけど(笑)、こうやって公になったので定期的にリリースしたい気持ちはあります」

――では、arko lemmingとしての近未来の目標を。

「セカンド・アルバムを出すこと(笑)。今回はバンドっぽいものにしたので、次はやっとソロっぽいものが作れるなという感じがあります。宅録メインのサウンドを最初からやるのは止めようというのはあったんですよ。そういうのはありがちだから。ソロと言いつつ一人バンドで、めっちゃバンドの音でやろうと思っていたので。それを今回は達成したので、次は本当にソロっぽいものをやろうと思っております」