東京インディー・ロック・シーンで注目のtoldを筆頭に、スズメーズ、BOYLY Entertainmentなどの活動に加え、サポートとしては0.8秒と衝撃。、ドレスコーズなどに参加。ベースとドラムを主に担当するマルチ・プレイヤーで、おまけにファッション・モデルとしてもお呼びがかかるほどのイケメン。憎らしいほどの才能に祝福された男、有島コレスケが新たに始動させたのが、自称〈一人バンド〉のarko lemming(アルコ・レミング)だ。
ファースト・アルバム『PLANKTON』は、全楽器をみずから手掛けたバンド・サウンドで、ローファイなガレージ・ロック的昂揚感と、ふわりとしたフェミニンなヴォーカルとの組み合わせが、なんとも言えず魅力的。ポップの定石を踏まえて伸びやかに展開する、メロディーメイカーとしての品格の高さも素晴らしい。隠していた才能を一気に開花させた自信作について、その胸の内をじっくりと訊いてみた。
arko lemmingの一員みたいな感じでいたら、多少気が楽になれる
――有島さんはいまバンドをいくつやってます?
「何個やってるんですかね。数えるのも面倒臭いぐらいやってますね(笑)。7~8個じゃないですか」
――そもそも、最初はtoldですか。
「いや、時系列で言うと、スズメーズのほうが先だったりするんですよ。もともといたギターが中学の同級生で、軽音部に一緒に入った仲で。その延長がスズメーズです。で、toldは、高校の軽音部で組んだグループ。スズメーズはポップ、歌もの寄りで、toldはオルタナ・ロック寄りで、BOYLY Entertainmentはスズメーズのヴォーカルと2人でやってるユニットなんですけど、これはもっとポップで、バンドの音じゃない方向も採り入れるという感じです」
――なるほど。上手く分かれてる。
「分かれてます。被ってたら一緒にしちゃうと思うんで」
――サポートもので言うと、0.8秒と衝撃。は?
「もともと、0.8秒と衝撃。のメインの2人がtoldのギター(山崎裕太)が働いていたレストランの常連で、そこで仲良くなったのが縁ですね。何回かtoldのライヴに来てくれて、僕がベースを弾いているのを観て、〈こいつは良いミュージシャンだ〉と思ってくれて、〈ドラム叩けません?〉って訊かれたのがきっかけです。2人は、僕がドラムを叩いてるところは観たことなかったんですけどね」
――何かピンときたんでしょうか。
「ピンときたんじゃないですかね」
――いまや、バンド・メンバーと言ってもいい感じですよね。“ARISHIMA MACHINE GUN”なんて曲があるくらいで。
「あれは盛り上がります。イントロ、完全にガバ・キックですから。普段からそういう音楽も聴くので、楽しいです」
――ドレスコーズは?
「ドレスコーズも意外と付き合いが古くて、toldの前進バンドの頃から志磨(遼平)くんとは知り合いです。ライヴを観に来てくれて、友達を通して知り合いました。毛皮のマリーズが解散する前ですね」
――みんな昔から繋がってる。
「そうですね。意外と付き合いは古いんです、みんな」
――いまはやりたいことがたくさんあって、バンドがいくつあっても足りないという感じですか。
「でも、いままでやっていたのって、僕主体のものがそんなにないんですよね。曲を作る時に僕がコードと歌を持って行くというのがないんですよ。スズメーズも、僕以外の2人が作ったものに、いかに自分のやりたいことを入れるか、それが楽しかったんですよね。toldもそう。完全に自分主体のものはarko lemmingが初めてです」
――曲が作れることは隠していたんですか。
「いや、別に。曲自体は前から作っていて、パソコンに入っているのをたまに自分で聴きながら〈いい曲だな~〉とか言って、気持ち良く寝る、みたいな(笑)。そういう期間が3~4年ぐらいあったんですけど、別に出したいという気もなくて。自分を楽しませる用で完結していたから」
――バンドに提供は?
「何回かしたんですけど、好きじゃないんじゃないですかね、みんな。俺の曲が」
――アハハ(笑)。なんですかそれ。
「結構そんな感じになるんですよ。いつもうやむやになって、ボツになっていたので。〈俺はいいと思うけどな~〉って、家で聴いて楽しんでいたものが、ついに外に出ることになりました。こっそり出そうと思っていたものが、ありがたいことに大々的になって、こんなインタヴューを受けることになるとは思ってもいませんでした(笑)」
――わかりました。つまりこれまでの活動と、arko lemmingとは、まったく性格が違うものだと。
「全然違いますね。たぶんどこに提供しても、あんまりやられない気がする。この曲たちは」
――ちなみにarko lemmingって、もしかして名前のアナグラムか何か?
「arkoだけですね。有島コレスケだから。lemmingは関係ないです。響きです」
――そのまんま、有島コレスケじゃダメですか。
「名前で出したくなかったんですよね。なんでだろう? 恥ずかしかったんじゃないですかね。arko lemmingの一員みたいな感じでいたら、多少気が楽になれるという。わかりませんか、この気持ち」
――恥じらいがあるんですかね。
「めっちゃあります。聴かれるの、嫌ですもん。全然知らない人はいいんですけど、友達やバンド・メンバーに俺の曲を聴かれたくないんですよ。自分でもわかんないんですけど、なぜか聴かれたくないんですよね」
――arko lemmingは、すべての楽器を有島さんが弾くスタイルですよね。もともとマルチ・プレイヤーだったんですか。
「そうですね。高校の時も、ベースのバンドとドラムのバンドをやっていたし、スズメーズでも時期によってドラムだったりベースだったりしていたし。ギターもずっと家では弾いてました。全部できるのが普通なんじゃないかと思っているので、別にマルチであることは押し出さなくてもいいんですよ。楽器を弾くのが好きだから、たまたま目の前にあったものを毎回弾いてるような感じです。遊んでる感覚ですね」
――音楽は遊び?
「遊びですね。ずっと遊んでいたいです。最初からお金にしようと思って軽音部に入る人はいないじゃないですか(笑)。その延長なんですよ、僕がやってることは。だからたまたま、ありがたいことにお金がもらえることもあるけど……という感じです」
――そして今回の『PLANKTON』で出てきた音は、バンド・サウンドのロック・チューンが主体になっていて。
「今回はそういう、バンドでドカーンというものにしようと決めていたので。〈一人バンド〉をやろうと」
――それはどんなきっかけで?
「〈一人バンド〉という言葉をWikipediaで見つけてピンときたんです。コーネリアスがそれにあたるらしくて、別人格としてある、みたいな感じ。〈ソロ〉って言いたくなかったんですよ。人に言われるぶんにはいいんですけど、自分で〈ソロ・デビューしました〉と言ったり、バンドの人がソロを出しますということじゃなくて、違うバンドの作品がただリリースされた、という形にしたかったんです」
――それはなぜ?
「バンドをやっている人のソロというと、〈おまけ〉みたいな感じがしちゃうんですよね、僕は。バンドが本業でしょ?というイメージではなく、全部フラットにしてやろうと思って、arko lemmingも〈バンド〉と言い張ることにしました」
――曲は、貯めていたストックのなかから選んだんですか。
「そうですね。完成しているものから歌とコードしかないものまで、全部で50曲ぐらいあるなかから3段階ぐらいを経てだんだん絞られていったという」
――曲を絞り込む基準やテーマというと?
「何かありましたっけ?(とスタッフに尋ねる)」
――なんでスタッフに訊くんですか(笑)。
「俺は何でも良かったんですよ。だからほとんどは大人の意見を聞きながら選んでいます。あと、アルバムを出すと決まってから作った曲も3曲ぐらいあります。“空(うつ)けたもの”“Sigh”“灯台”は今回のために作りました」