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ジャズ・ヴォーカルの新しい逸材、ローレン・デスバーグ来日迫る! グレッチェン・パーラトに師事した先鋭的なキャリアを解説

ジャズ・ヴォーカルの新しい逸材、ローレン・デスバーグ来日迫る! グレッチェン・パーラトに師事した先鋭的なキャリアを解説

女性ジャズ・ヴォーカリストの新星、ローレン・デスバーグの初来日公演が1月25日(月)にブルーノート東京で開催される。新世代ジャズを代表する歌い手であるグレッチェン・パーラトに師事し、2012年にEP『Sideways』を発表。昨年リリースされたアルバム『Twenty-First Century Problems』では、今日のジャズ・シーンを牽引するプレイヤーたちに支えられながら、オリジナルからカヴァーまでしなやかに歌いこなしてみせた。優しく温かい歌声と先鋭的なアプローチを併せ持つ才色兼備の逸材だけに、待望の初ステージは心地良くも刺激的な夜になるに違いない。そこで今回は、音楽評論家の渡辺亨氏に、グレッチェンのファミリー・ツリーに連なる彼女のキャリアと、アーティストとしての魅力について紹介してもらった。 *Mikiki編集部

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グレッチェン・パーラトとの音楽的な絆

ローレン・デスバーグのことを語る前に、昨年11月にリリースされた『The Gretchen Parlato Supreme Collection』について触れよう。

GRETCHEN PARLATO The Gretchen Parlato Supreme Collection CORE PORT(2015)

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同作は、グレッチェン・パーラトがゲスト・ヴォーカリストとして参加した音源を主体にして、彼女の多角的な魅力を伝えるべく、僕が選曲したコンピレーション。グレッチェンと繋がっているミュージシャンの音源をひとつに集めることによって、現代のジャズ・シーンの人脈図を浮かび上がらせ、彼女が押しも押されもせぬキーパーソンの一人であることを示す、ということを意図して編んだ一枚でもある。 

グレッチェンはLA出身だが、2005年のデビュー以来、NYを拠点に活動している。これまでに彼女がリリースした4枚のアルバム(3枚のスタジオ録音盤と1枚のライヴ盤)を聴けば、ごく自然に最先端のジャズに触れることができる。なにしろ彼女が自身のアルバムで共演してきたミュージシャンは、ロバート・グラスパーマーク・ジュリアナリオーネル・ルエケデリック・ホッジケンドリック・スコットアーロン・パークステイラー・アイグスティダイナ・ステファンズアラン・ハンプトンバーニス・アール・トラヴィス2世……さながら〈21世紀のジャズ・ミュージシャン名鑑〉のような顔ぶれが並ぶ。と同時にグレッチェンは、テレンス・ブランチャードマーカス・ミラーテリ・リン・キャリントンアンディ・ミルン&グレゴア・マレエスペランサ・スポルディングジェシ・フィッシャー&ソウル・サイクルなど幅広い世代のジャズ・ミュージシャンのアルバムに客演してきた。これらのなかには、マーク・ジュリアナケンドリック・スコットリオーネル・ルエケダイナ・ステファンズといった、彼女を支えてきたバンドのメンバーのアルバムも含まれている。さらにグレッチェンは、シンガー・ソングライターのベッカ・スティーヴンスレベッカ・マーティンの3人で〈ティラリー〉というトリオを組んで活動もしている。

テイラー・アイグスティが参加した、グレッチェン・パーラトの2013年作『Live In NYC』収録曲“Butterfly”

 

ローレン・デスバーグとダイナ・ステファンスをフィーチャーした、ジェシ・フィッシャーのライヴ動画

 

こんなグレッチェンと音楽的な絆で結ばれているファミリーの末妹的存在が、ローレン・デスバーグ。1月25日にブルーノート東京で初来日公演を行う91年生まれのジャズ・シンガーだ。

彼女はグレッチェンと同じくLA出身で、現在はNYを拠点に活動している。母親がシンガー、父親がギタリストという音楽一家に生まれ、ロサンゼルス・カウンティ・ハイ・スクール・フォー・ジ・アーツ(LACHSA)時代からジャズ・シンガーの道を志し、同校卒業後の2009年にボストンのバークリー音楽大学に入学。ここでグレッチェンからヴォーカル・レッスンを受ける。やがてグレッチェンに本格的に師事し、プロになるための基礎をしっかり学んだ。

バークリー卒業直後の2012年、ローレンは計4曲入りのEP『Sideways』をBandcampで発表する。この『Sideways』は、2014年にカナダのドゥ・ライト!(Do Right!)から1曲を追加して正式にリリースされた。

『Sideways』は、グレッチェン・パーラトのプロデュース。しかもグレッチェンは、冒頭を飾るスタンダードの“You Go To My Head”をローレンと一緒に歌っている。同作では、先に挙げたテイラー・アイグスティ(ピアノ)とダイナ・ステファンス(テナー・サックス)に加えて、クリス・スミス(ベース)、ジョシュ・クランブリー(ベース)、コーリー・フォンヴィル(ドラムス)が演奏を務めている。2人のベーシストのうち、ジョシュはテレンス・ブランチャードの『Magnetic』(2013年)でケンドリック・スコットやリオーネル・ルエケと共演している。コーリーは、ニコラス・ペイトンクリスチャン・スコットなどのアルバムにも貢献しているドラマーだ。

コーリー・フォンヴィルが参加した、クリスチャン・スコットのライヴ動画

 

また、“You Go To My Head”と“Mr.Magic”(グローヴァー・ワシントンJrが75年に放ったヒット曲で、ロバータ・フラックのヴォーカル・ヴァージョンも広く知られている)のアレンジを手掛けているのは、ジャズ・キーボード奏者のクリス・バワーズ。クリスのリーダー・アルバム『Heroes + Misfits』(2014年)には、バーニス・アール・トラヴィス2世が参加している。そしてハービー・ハンコックの“Come Running To Me”(78年作『Sunlight』収録)はテイラー・アイグスティ、ロジャース&ハート作のスタンダード“Spring Is Here”はディヴォンヌ・ハリスがアレンジを手掛けている。DJハリスン名義でも活動しているディヴォンヌは、最近めきめき頭角を現わしてきたプロデューサー兼マルチ楽器奏者。ブッチャー・ブラウンというバンドのメンバーとしても活動しているが、今年1月にはキングスというデュオとしてのファースト・アルバム『Kings』をリリースしたばかりだ。このようにローレンのポートフォリオとでも言うべき『Sideways』は、グレッチェンのバンド・メンバーや彼らと接点のあるミュージシャンの協力を得て制作されている。

クリス・バワーズの2014年作『Heroes & Misfits』収録曲“Forget-Er”

 

ディヴォンヌ・ハリスとコーリー・フォンヴィルが参加した、ブッチャー・ブラウン“Sundress”のパフォーマンス映像

 

先鋭的なアレンジを歌いこなす桜色のヴォーカル

ローレンのファースト・アルバム『Twenty-First Century Problems』は、2015年にリリースされた。本作にグレッチェンは直接関わっていないが、テイラー・アイグスティとクリス・スミス、コーリー・フォンヴィルにウォルター・スミス3世(テナーサックス)を加えた4人が演奏を務めている。ウォルター・スミス3世は、テレンス・ブランチャードのグループでケンドリック・スコットやリオーネル・ルエケ、デリック・ホッジと一緒に活動した経歴を持つ。また、今回もクリス・バワーズが単独で1曲、ディヴォンヌ・ハリスがジャズ・ピアニストのマティス・ピカードと共同で1曲、マティスが単独で3曲のアレンジを手掛けている。プロデューサーは、“Come Running To Me”のヴォーカル・プロダクションを手掛けていたドリュー・オブザ・ドリュー。EDM系のエレクトロニック・ミュージックも制作している新進気鋭のプロデューサー兼マルチ楽器奏者で、バークリーの卒業生だ。よって、もしかすると彼はバークリー在学中からローレンやグレッチェンと知り合いだったのかもしれない。

このような布陣で制作された『Twenty-First Century Problems』には、『Sideways』と違って、ローレンが作曲に関わったオリジナル曲が3曲収録されている。また、“He Loves And She Loves”や“Angel Eyes”などのスタンダードに加えて、ビージーズの“How Deep Is Your Love”やウィスパーズの“Rock Steady”が取り上げられている。後者は87年にリリースされ、全米トップ10入りしたダンス・ナンバーだ。

ローレンはグレッチェンほど個性的な節回しで歌うわけではないが、スムースで洗練された歌唱や幅広いレパートリーは彼女譲り。しかもグレッチェンより一回り以上も若いだけあって、アッシャーの“U Remind Me”も自然に歌いこなす(EP/アルバムには未収録)。そしてローレンは好きなアーティストとして、フランク・オーシャンキンブラを挙げており、『Twenty-First Century Problems』には、こんな新世代であるローレンと仲間のジャズ・ミュージシャンたちの瑞々しい感覚が迸っている。テイラー・アイグスティはグレッチェンのバンドで弾くときと同じように清流の如く流麗なピアノでローレンの歌を彩っているし、コーリー・フォンヴィルはマーク・ジュリアナを意識したかのように緻密なプログラミングの如きドラムスを披露している。多重録音ヴォーカルやエフェクターが効いている“How Deep Is Your Love”は、ビージーズのオリジナルよりバード&ザ・ビーのカヴァー・ヴァージョンと並べて語った方がいいほどのモダン・ポップだ。

ローレン・デスバーグ“How Deep Is Your Love”。バード&ザ・ビーのカヴァー・ヴァージョンはこちら

 

そして、ローレンの初来日公演に同行するのは、ジョシュ・クランブリー(ベース)、マティス・ピカード(ピアノ)、ルーカス・ピノ(テナーサックス)、アマウリー・アコスタ(ドラムス)から成るクァルテット。ルーカス・ピノはベッカ・スティーヴンスもフィーチャーされているギデオン・ヴァン・ゲルダーの『Perpetual』(2010年)や『Lighthouse』(2014年)に参加している気鋭のサックス奏者だ。アマウリー・アコスタは、ディヴォンヌ・ハリスやクリス・バワーズ、ロバート・グラスパーなどとの共演歴を誇るドラマー。つまり彼らも、グレッチェンの音楽的ファミリーと繋がっている。

ローレン・デスバーグの音楽は、トラディショナルとコンテンポラリーな要素が混じり合ったパステル・カラー調のジャジー・ポップ。そしてローレンの歌声は桜色であり、曲によっては大人びた藤色にもなる。春の訪れはまだ少し先だが、中間色を好む日本人のオーディエンスはローレンのライヴを観て、ひと足早い〈春〉を感じるかもしれない。

 


 

ローレン・デスバーグ
日時/会場:1月25日(月) ブルーノート東京
・1stショウ 開場17:30/開演19:00
・2ndショウ 開場20:45/開演21:30
料金:自由席/7,800円
※指定席の料金は下記リンク先を参照
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