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アラバマ・シェイクスも絶賛! ハレイ・フォー・ザ・リフ・ラフがトランプ時代に問う、アメリカーナ再定義と抵抗のメッセージ

ハレイ・フォー・ザ・リフ・ラフ『The Navigator』

アラバマ・シェイクスも絶賛! ハレイ・フォー・ザ・リフ・ラフがトランプ時代に問う、アメリカーナ再定義と抵抗のメッセージ

プエルトリカンの血を引くフロントウーマン、アリンダ・リー・セガーラ率いるハレイ・フォー・ザ・リフ・ラフが新作『The Navigator』をリリースした。ニューオーリンズを拠点にする彼らは、フォークやブルーグラスといったアメリカン・トラディショナル・ミュージックを軸に、アリンダのルーツであるラテンを採り入れた、現代的な〈アメリカーナ〉サウンドが高い評価を受けている。2013年にはアラバマ・シェイクスのオープニング・アクトを務め、ブリタニー・ハワードから〈最高のライヴ・バンドの1つ〉と絶賛されたことで、名前を上げた。

マイケル・キワヌーカ諸作で知られるポール・バトラーをプロデューサーに招いた『The Navigator』は、パーカッショ二ストのフアン・カルロス・チャウランドら数多くの打楽器奏者たちが参加し、艶やかなリズムで貢献。Pitchforkが収録曲“Pa'lante”を〈Best New Track〉に選出し、UKのガーディアン誌のレヴューでは5つ星を獲得するなど海外メディアから絶賛の声がやまない同作は、ここ日本でもTHE YELLOW MONKEYの吉井和哉がブログで〈最近よく聴いている〉と紹介したことで注目を集めている。アリンダが自身のアイデンティティーを探究すべく行った旅にインスパイアされたという本作。その背景とストーリーを、音楽/映画を筆頭に多様なアメリカン・カルチャーに精通している文筆家の長谷川町蔵に紐解いてもらった。 *Mikiki編集部

HURRAY FOR THE RIFF RAFF The Navigator ATO/HOSTESS(2017)

戦前のブルースに傾倒した少女時代とニューオーリンズへの移住

レトロなファッションに身を包んだ女子が、街角に立ち、こちらを見つめている。ストリート・スナップではない。背後のビルはセットっぽいし、照明は人工的。そう、何だかブロードウェイ・ミュージカルの舞台っぽいのだ。

そんなジャケ写が印象的なハレイ・フォー・ザ・リフ・ラフの最新アルバム『The Navigator』を聴きはじめると、その第一印象が間違っていなかったことがわかる。男性コーラス陣が、〈ナヴィゲーター(案内人)として誰かひとり主を呼ぼう〉とジャマイカ民謡の〈バナナ・ボート・ソング〉を思わせるメロディーで歌いかけると、今度は1人の女性が同じメロディーを歌い出す。バンドの中心人物であるアリンダ・セガーラだ。

 『The Navigator』の1曲目を飾る“Entrance”
 

これ以降、アリンダが扮するナヴィゲーターは、リスナーを架空の街に案内していく。そして“Living In The City”では街で暮らすことの困難さを、“Hungry Ghost”では孤独でいることの大切さを、“Nothing's Gonna Change That Girl”では愛の不毛を歌うのだ。

サウンドの基調はヴィンテージなロックンロール。だがそのグルーヴは決して縦ノリの早急なものではなく、ポリリズミックで柔らかい。以前の彼女たちの作品を聴いたことがある音楽ファンなら、このサウンドには驚いてしまうかもしれない。というのも、今作の彼女たちはまるで別バンドのようだからだ。

アリンダ・セガーラは87年生まれ。プエルトリコ系の彼女が生まれ育ったのは、NYのブロンクスだ。ブロンクスといえばヒップホップ発祥の地であり、彼女と同じプエルトリコ系からもファット・ジョーやビートナッツ、ジェニファー・ロペスといったヒップホップ~R&B界のスターが生まれている。

ところが、そんな環境で育ちながら、少女時代のアリンダはドゥーワップやモータウンを愛聴していたらしい。しかもヴィンテージ趣味はどんどんエスカレートしていき、17歳のときにはベッシー・スミスやマ・レイニーといった女性ブルース・シンガーに憧れるあまり家出。ヒッチハイクと貨物列車で全米各地を放浪し、バスキングで日銭を稼ぐ日々を送るようになったのだ(念のため書いておくけど、ゼロ年代の話である!)。

ベッシ―・スミスの1929年の楽曲“Nobody Knows You When You're Down And Out”
 

放浪の果てに彼女が辿り着いたのは、深南部ルイジアナ州の街ニューオーリンズだった。彼女はここで同じ志を持つ仲間と出会い、ハレイ・フォー・ザ・リフ・ラフを結成。2007年にEP『Crossing The Rubicon』でデビューを果たした。注目を浴びだしたのは、Kickstarterで製作資金を調達した2012年作『Look Out Mama』の頃あたり。カントリー、ブルース、フォークを折衷したその音楽性と、アリンダのスモーキーな歌声によって、彼女たちはアメリカーナの要注目バンドとされるようになったのだ。

アメリカーナの勃興の裏には、ポップ・カントリー・シーンの隆盛がある。近年のポップ・ミュージックの主流はヒップホップ~R&Bだが、広大なアメリカの中西部や南部にはそれに馴染めない白人も多く存在していた。そんな彼らが飛びついたのが、80年代アリーナ・ロックのテイストを取り込んだポップ・カントリーだった。古き良き〈白いアメリカ〉の素晴らしさを歌う彼らは当然、政治的には保守派である。

だがカントリーはそもそもブルースやフォークとの相互影響によって形成された雑種音楽である。やがてポップ・カントリーを嫌い、ルーツ音楽全般を好む、政治的にはリベラルなミュージシャンの音楽が〈アメリカーナ〉と呼ばれるようになっていった。こうしたアメリカーナ人気は、黒人大統領オバマの誕生によって加速していく。〈大統領がヒップホップ~R&B好きなら、自分らはカントリーでも聴いてみるか〉――そんなムードが白人の若者たちの間に広がり、アメリカーナを聴くことはオシャレな行為になったのだ。

ハレイ・フォー・ザ・リフ・ラフの活動もこうした空気に乗って、活発化していく。2014年作の『Small Town Heroes』に収録された“The Body Electric”は、NPRのDJ、アン・パワーズから〈2014年を代表するプロテスト・ソング〉と絶賛され、ローリング・ストーン誌は〈知っておくべき10人のアーティスト〉の1人に彼女を挙げた。


トランプ時代に必要とされた、多様性という名の〈アメリカーナ〉再定義

しかし、アリンダは必ずしもそれに満足していなかったようだ。〈ブロンクス出身のプエルトリコ系として自分には訴えるべきことがあるのではないか〉そんな想いに決着を着けるべく、彼女は『The Navigator』で音楽的な冒険に乗り出していった。

そんな音楽面の変化と、ドナルド・トランプの大統領就任は決して無関係ではないだろう。マイノリティー全般に憎悪を撒き散らす白人男が国のトップに立つ現在、下手するとアメリカーナは古き良き〈白いアメリカ〉を肯定する音楽に受け取られかねない。アメリカーナには変化が必要とされているのだ。その必要に最初に応えたアーティストとして、リアノン・ギデンスが挙げられるだろう。彼女が今年発表した『Freedom Highway』では、趣味の良いカヴァー集だった前作『Tomorrow Is My Turn』から一転、公民権運動時代を思わせる自作のメッセージ・ソングを歌っていた。その背景には彼女が黒人と白人のミックスである事実が横たわっている。

リアノン・ギデンスの2017年作『Freedom Highway』収録曲“Freedom Highway”
 

アリンダもまた、プエルトリコ系のルーツと向き合うことによって、その必要に応えてみせたと言える。ソウル・ファンク・バンドのセント・ポール&ブロークン・ボーンズを手がけるポール・バトラーをプロデューサーに、デヴェンドラ・バンハートのドラマーを務めるグレゴリー・ロゴヴらを演奏陣に迎え、グルーヴ面を強化。ドキュメンタリー映画「シュガーマン 奇跡に愛された男」で知られるメキシコ系シンガー・ソングライターのロドリゲスや、60年代後半から70年代のブロンクスで人気を誇ったプエルトリコ系ファンク・バンド、ゲットー・ブラザーズらにインスパイアされた、パンクかつパーカッシヴなサウンドを構築してみせたのだった。

ゲットー・ブラザーズの69年作『Power-Fuerza』収録曲“Power”
 

〈今ではすべての政治家がただ不平不満をわめき立てる 彼らが言うのは『奴らを閉めだす壁を作ってやる』”〉――辛辣な歌詞が胸に突き刺さる“Rican Beach”は、明らかにトランプを批判したものだ。

では、そんな自伝的な内容を持つ『The Navigator』を、なぜアリンダはジャケ写からも推測されるように、ミュージカルというフィルターを通して表現したのだろう。まったくの推測だけど、彼女はブロードウェイ・ミュージカル「ハミルトン」からアイデアを得たのではないだろうか。「ハミルトン」のクリエイター、リン=マニュエル・ミランダは、アリンダと同じニューヨリカン(ニューヨーク出身のプエルトリコ系)。彼は、アメリカ合衆国憲法をほぼひとりで書いた政治家、アレクサンダー・ハミルトンの生涯を描いた同ミュージカルで、ハミルトンがカリブ海に浮かぶネイビス島からアメリカにやってきた貧しい移民だったことに注目。ほぼすべてのキャストをヒスパニックや黒人に演じさせることで、もともとアメリカが多様性を孕んだ国だったことを訴えたのだ。

かつてアメリカのルーツ音楽を求めて、全米を放浪したアリンダは、故郷の街角で鳴っていたサルサやパンクもまた、アメリカ音楽であることに気づいたのかもしれない。一聴すると脱アメリカーナ作であるかのように思える『The Navigator』だけど、そんなわけで〈本来はかくあるべきアメリカーナ〉を再定義してみせたアルバムなのだ。

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