INTERVIEW

大西順子『Glamorous Life』『Very Special』 バラード集とトリオ作、デビュー25周年の節目を刻んだ2枚のアルバムを語る

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  • 2017.11.29
大西順子『Glamorous Life』『Very Special』 バラード集とトリオ作、デビュー25周年の節目を刻んだ2枚のアルバムを語る

復活から2年、デビュー25周年を迎えたピアニストが、その技術と創造力を芳醇に香らせるトリオ作とバラード集!

 小股の切れ上がった、とはこのことだろう。〈完全復活〉〈デビュー25周年〉という文字が各方面で躍る、同時リリースの『Glamorous Life』と『Very Special』。大西順子らしい気っ風の良さこそここでの値打ちだ。トリオによる録音『Glamorous Life』の最後“7/29/04 The Day Of”(映画「オーシャンズ 12」より)がとにかくかっこいい。

大西順子トリオ Glamorous Life SOMETHIN' COOL(2017)

 「簡単なリフ、単純なんだけどかっこいい! JBもエリントンもそう。前作『Tea Times』のなかでは“Chromatic Universe”、あれもリフがかっこいい。私にとってアメリカン・ミュージックのツボはそこなんです」。

 ジョージ・ラッセルが原曲の“Chromatic Universe”。つまり、その曲が収録されていた前作『Tea Times』の監修が菊地成孔だったことと比例するように、深入りすればするだけいくらでも複雑に解釈できる。ところが大西はシンプルに構造を読みとり、創造の大地をガバッと広げる。そしてそのかっこよさは、圧倒的な演奏力、アンサンブルによる冒頭のオリジナル2曲“Essential”“Golden Boys”にも凝縮されている。とくに“Golden Boys”では、後半から3人が挑発しあう緊張感がハンパない。

 ともすればジャズの基本編成に安住しかねないピアノ・トリオ。それでも大西が、この黄金のトライアングルを捨てることはないだろう。衝撃のデビュー作『WOW』(93年)以来、血肉化してきたトリオは彼女にとって命そのもの。奇しくも本作は『WOW』と同じスタジオ、同じ季節(9月)に録音された。その、運命といってもいい不思議なチカラを、中間に導入されるカヴァー2曲“Tiger Rag”“Almost Like Me”の並びから読んでみる。ディキシー系の古典の前者と、マックス・ローチの隠れた名演で知られる後者。ジャズの古層を下から順になでるような流れに何かを感じさせるものがある。

 「“Almost Like Me”はドラマーのカリーム・リギンスが教えてくれて、〈これ知ってる?〉と。聴いてみたらかっこいい。ライヴでやりたくなって、実際やってみたらお客さんの反応もすごく良かった」。

 この続きにセシル・テイラーの曲が来たりすればジャズ・ピアノの歴史が浮かんできそうだが、大西は自作“Hot Ginger Apple Pie”をもって、その回廊を断ち切るように入り込む。“Almost Like Me”の作者は伝説のピアニスト、ハサーン・イブン・アリ。一部に〈元祖テイラー〉との呼び声もあるからだが、大西の“Almost Like Me”はすでに自己流を獲得し、新たな血脈を刻みながら“Hot Ginger Apple Pie”へと結ぶ。

大西順子 Very Special SOMETHIN' COOL(2017)

 そしてもう一枚、初のバラード集となった『Very Special』。

 「ずいぶん前からアイデアはあって、まず会社に相談したんです。25周年というのは偶然だったけど、それなら2枚出しましょうかと」。

 『Glamorous Life』との対比を鮮明にするが、一音一音にこめられた意志に相違はない。大西をはじめ各自、楽曲の本質を肌で感じとることに専念している。なかでも“柳の歌”が白眉。本作の契機となったオペラだが、出典元「オテロ」では男女のすれ違いの場面にもの悲しく挿入されることで知られる。つまり、そうした背景に寄り添いながらもピアノ曲として成立させるにはどうすればいいのか、大西なりに思惟する絵が音のなかから見えてくるようで、その表情がいい。

 「たとえばビル・エヴァンスがピアノ一台で“ポギーとベス”を表現し得たことをこの曲でやってみたかったんです」。

 そしてアレンジを担当した挾間美帆(&ぱんだウインドオーケストラのメンバーも一部参加)の存在も大きい――「彼女が意欲を駆り立ててくれたから実現できた」。

 紅涙をしぼれば悲しい曲調になるものでもない。表現をするとはそういうことで、そのおもしろさを味到したとき、バラードの女神はニコッと演奏者に微笑む。アルバムではやや浮いているように見えるアース・ウィンド&ファイアの名曲“After The Love Has Gone”にしても、バラードの真髄とはこういうもの、といわんばかりの演奏力だ。

 「ジャズを学んだのは渡米後でしたが、それ以前はスティーヴィー・ワンダー、チャカ・カーンなどを聴いて十代を過ごした。私にとってこれも大事なスタンダード」。

 それを、若手注目株のギタリスト、馬場孝喜との〈対話〉でしっぽりと綴る。

 「こういう曲を選ぶのは今後の課題かもしれません。古くからの流行り曲は優れたミュージシャンの名演によって語り継がれてきた。私たちの世代の名曲もさまざまな色合いで残すことができたら……」。

関連盤を紹介。

 


【VERY GLAMOROUS TOUR 2018】
1/25(木)大阪・Billboard Live OSAKA
2/7(水)、8(木)、9(金)東京・Blue Note Tokyo
2/23(金)愛知・NAGOYA Blue Note
詳しくはオフィシャルサイトまで〈http://junkoonishi.runinc.jp/

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