ユーモラスかつウィットに飛んだ歌詞と、左利きのギターから掻き鳴らされる表情豊かなサウンドで、世界中のリスナーを虜にしているメルボルンのシンガー・ソングライター、コートニー・バーネット。ごく一般的な家庭で育った彼女がロックを聴くようになったきっかけは、歳の離れた兄の影響だという。

 「初めて自分で買ったアルバムは、ニルヴァーナの『Nevermind』。ありきたりでしょ!?　そこからジミ・ヘンドリックスが好きになって、PJ・ハーヴェイやトーキング・ヘッズなんかを好んで聴いていたわ。ギタリストとしてはウィルコのジェフ・トゥイーディと、ペイヴメントのスティーヴン・マルクマスが好きね」。

COURTNEY BARNETT 『Sometimes I Sit And Think, And Sometimes I Just Sit』 Milk!／TRAFFIC（2015）

POP / ROCK Rock

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　本人の発言を裏付けるように、このたびリリースされたファースト・フル・アルバム『Sometimes I Sit And Think, And Sometimes I Just Sit』は、90年代のUSオルタナ・ロックへの憧憬を感じさせるメロディーやリフが、これでもかと飛び込んでくる。とりわけ衝撃的なのが、先行シングル“Pedestrian At Best”だ。ニルヴァーナ譲りの歪んだギターと、支離滅裂ながら切れ味鋭い言葉のマシンガンは、まるでグランジに目覚めたストリーツといった感じ。

 「ストリーツは大好きよ!　“Pedestrian At Best”はアルバムのなかでも最後に出来た曲で、リフのアイデアは前からあったんだけど、歌詞が思いつかなくて……。とりあえずヴォーカル以外のパートを録ったのよ。それを家に持ち帰って、歌詞を付けて、次の日に改めてレコーディングした。1週間ずっとスタジオでの作業が続いて疲れていたし、精神的にも少し参っていて弱気だったから、自分のなかに抱えていた思いを全部吐き出したって感じかな」。

　そう、コートニーの最大の魅力はそんな飾らない歌詞にある。20歳の友人をモデルにしたという“Elevator Operator”や、パートナーとの何気ない会話から発展した“Dead Fox”など、リアリティーに溢れた言葉の数々は、ぜひ日本語の対訳と合わせてチェックしてほしい。個人的にも気になったので、“Depreston”の〈週に23ドル貯金してる〉というフレーズが生まれた背景を訊いてみた。

 「不動産価格について歌っている曲ね。トレンディーなカフェの近くに住みたいと思っても、大抵は高級住宅地にしかないから、仕方なく郊外に引っ越すでしょ?　するとコーヒーは家で飲むことになる。で、毎日3ドル80セントのコーヒー代を貯めて、代わりに1パック10ドルのコーヒー豆を買ったら、それで1か月くらいは持つわね……ってジョークのつもりで書いたの」。

　レコーディングはメルボルンのヘッド・ギャップ・スタジオで行われ、ウルフ&カブやPVTといったオーストラリア産のバンドを数多く手掛けるバーク・リードが、エンジニアリングと共同プロデュースを担当。不定期のツアー・メンバーであるドローンズのギタリスト＝ダン・ラスコムも参加したことで、バンド・アンサンブルはこれまでのEPと比べてグッと骨太になった印象だ。

 「バークとの仕事は素晴らしかったわ。一緒にいるとハッピーな気持ちになれるし、最善の結果を出すことに凄く協力的だった。新しい楽器や機材を試したりね。私は普段2つのエフェクターしか使わないんだけど、ダンが〈これも試してみれば?〉といろいろな提案をしてくれたのよ。例えばそれがアナログ・ディレイだったりするんだけど、私にとっては未知の領域で、とても刺激的だったわ」。

　さて、ライヴ活動にも精力的な彼女は、すでに〈コーチェラ〉や〈グラストンベリー〉を含む巨大フェスも経験し、スタジオ音源以上にラウドかつエモーショナルなパフォーマンスで喝采を浴びている。曲はツアーを経て日々進化する……というのがモットーなのだろうか?

 「その通りよ。どの曲も時間と共に変化し、成長していくわ。だからおもしろいの。最高よ!」。