多忙な耳にも福来る、の名作/名人厳選盤。

 鼠先輩の“六本木~GIROPPON~”を英語カヴァーしたアンドリューW.K.の存在は、武田砂鉄のラジオ番組で知った。映画化もされた平野啓一郎の第70回読売文学賞受賞作「ある男」も読破ではなく、Audible版で聴破(完聴!?)した。四月になれば古希だというのに、終の棲家の引っ越し荷物が一年半を過ぎても一向に片付かず〈耳〉しか空いてないからだ。そしたら粋な計らいか、空き耳にはお誂え向きの落語音源、『笑う門には福来る』シリーズのレビュー依頼が舞い込んできた。試聴用wavを味わいながら新刊書店の棚に向かうと、これも何かの縁か「東京人」最新号の特集が〈どっぷり、落語!〉、付された副題で今年が〈落語協会創立100年〉と知る。パラパラ捲るのも擬しくレジに走ると、耳では金比羅舟々の出囃子が流れ、柳家権太楼の「歳を経てくるたんびにどんどんどん一年が短くなりますねえ。光陰矢の如しと申しますが、月日の経つというのは速いじゃございませんか。考えてみればねえ、ついこの間マッカーサーが来たかと思ったら、もう……(場内大爆笑)」云々の件で思わず吹き出しそうになる。『続・名作篇』DISC 2収録の「うどん屋」のマクラだが、素材は2013年(朝日名人会)の脂の乗ったライヴ音源のようだ。それから優に10年が流れ、かの連合国軍最高司令官の名は若い聴き手の耳にどう木霊するのだろうか……〈戦後生まれ〉の老婆心を抱きつつ吉祥寺MojoCafeの奥席で「東京人」を開いたら、昨夏〈人間国宝〉に認定された(六代目)五街道雲助師匠がこう話していた。つい最近、若手から稽古を頼まれたが、20年程やっていないネタなので「若いあなたは私の『大工調べ』を知らないでしょ?」と尋ねると「ネットに出てました」との返し。自ら忘却気味の師匠は「ネットで覚えて、わからないところがあったら聴きに来なさい」と応じたそうな。成程ね。その雲助師匠の「夜鷹そば屋」も『続・愛篇』で愉しめる。そんな時代に敢えて、耳(だけ)から入る魅力満載の好選盤。散歩や快眠のお供にも最適な耳友、老いも若きも笑み浸る。

 


INFORMATION
『笑う門には福来る』シリーズ特設サイト
https://www.110107.com/s/oto/page/waraukadoniwa_fukukitaru?ima=1000