前回に続いてPAELLASのメンバー全員インタヴュー、後編をお届けします。バンド結成に始まり、幾度かのメンバー・チェンジや活動に対するマインドの浮き沈みもありながら、いざ心をひとつにして今年2月に東京へ拠点を移した彼ら。今回は上京から現在に至るPAELLASを紐解いてみました。ただ、メンバーいわくバンドの状況は日々変化し続けているそうなので、ここで語られているのはあくまでも〈ある段階での話〉。いまはまた別のフェイズに入っているかもしれません――さて、明日はどうなる!?


 

 

(前編はこちら)

――東京に来てからの活動は順調だったんですか?

Tatsuya Matsumoto(ヴォーカル)「とりあえず東京に伝手はほぼないから、ライヴハウスに音源を送ったり渡したりしにいかなあかんわ……というなか、少ないながら知り合いの人がイヴェントに誘ってくれたりして、月4~5本くらい出させてもらうようになったんです。大阪にいたときのことがあったから、こっちに来たら誘われたものは全部出ようと思って。いまもそうですけど、わりと何でも出てました」

Takahiro Komatsu(ドラムス)「4月、5月はようあんなにライヴ誘われたよな」

Matsumoto「なんで誘われたんだろう(笑)。多少インディー・ロック好きの人は(PAELLASを)知ってくれてたからかな。CDも出してたし」

――それにしてもその数は凄いですよね。で、曲作りも並行して……?

Matsumoto「3人(Matsumoto、Kanabishi、Anan)で作りはじめてはいたんですが、俺としては4月くらいには3曲くらい新曲が出来てて、6月くらいには7インチを出してる……はずだったんですよ。でも結局は5月くらいにやっと“Cat Out”(8月に7インチで発表)が1曲出来たくらいで、全然ペース上がらんわ……っていう感じ。ライヴは多いし、メンバー変わったばかりだから練習しなくちゃいけないし、曲も作らないといけないし……どっちつかず、みたいな」

【参考音源】PAELLASの2014年のシングル“Cat Out”

 

――新しい曲の音楽性もこれまでとは変化しましたよね。

Matsumoto「こっちに来てからシンセで曲を作っとって。音楽の趣味が変わったんですよ。ブラッド・オレンジとかを聴いてて、ああいうあえてのパチモン折衷感のR&Bみたいな……」

【参考動画】ブラッド・オレンジの2013年作『Cupid Deluxe』収録曲“You're Not Good Enough”

 

――パチモンって……(苦笑)。ああいうメロウな感じの。

Matsumoto「凄く良い意味でインディーなR&B、そういうのをやりたくて、Ananのシンセで作った音を元に曲を作ったりしてたんです。それもライヴでやるわけじゃないですか。でもシンセ弾く人いないから、ドラムのパットを買ってシンセをサンプリングして、コマっちゃんがライヴで叩いてたんですけど、めっちゃヘタクソだったんですよ(笑)、あたりまえなんですけど」

Komatsu「ハハ(ニヤリ)」

Matsumoto「ドラム叩きながらやから、そもそも難しい。グルーヴがないなと。しかも、とうとうコマっちゃんが(ライヴでパットを)叩くこともできへん曲が出来はじめてて、完全にシンセないと無理やわっていうのがあった」

 

 

――そこで、おおのゆりこさんが登場するんですね。

Matsumoto「4月にライヴした時、この人(おおの)がスタッフとして綿あめを作ってたんですよ。Slow Beachのキーボードに似てるなーって思ってて。その日ちょっとだけ喋ったよなあ?」

おおのゆりこ(シンセサイザー)「なんか、綿あめ食べに来て……グフフフ(笑)」

一同:(笑)

Matsumoto「何がおもろいねん(笑)!」

おおの「その前にAno(t)raks小笠原さんと話していて、〈PAELLASが最近こっち(東京)来てるらしいから話してみなよ〉って言われたんですけど、最初は(Matsumotoが)めっちゃ話しかけづらい雰囲気だったんですよ。で、改めてちゃんと話ができたときに、〈シンセの入る曲があるなら手伝うよ〉って伝えたんです。それはAno(t)raksでシンセ・ポップのコンピを出していたんですが、そこにPAELLASに参加してもらうのはどうかという話をしていて……でもまずPAELLASにシンセが入ってないといけないから、もし参加するんだったら私が手伝うよ、という感じ。ちょうどそんな話をしてた頃にSlow Beachが解散したんです」

【参考音源】Slow Beachの2013年作『Lover Lover』

 

Matsumoto「解散するかもしれない……という話は聞いていて」

おおの「で、フワフワ過ごしてたら、ある日〈俺らの音楽手伝ってみない?〉みたいに言われて(笑)」

――ハハハハハ(笑)。

Matsumoto「そんな言い方してないけど」

おおの「でも正直PAELLASがどういう音楽をやってるのかよくわかっていなくて、いくつか音源を送ってもらったんですけど……結構未知数で。シンセがフィーーヤン……フィーヤンって鳴ってるからすごいびっくりしたんです。〈これがシンセなの?〉って」

【参考音源】PAELLASの2014年のデモ音源“Chinese Delicatessen”

 

一同:(笑)

Masaharu Kanabishi(ベース)「〈私が弾くシンセとは違う!〉って感じ?」

おおの「これまでそういう音楽を聴いてこなかったから、シンセっていったら飾り付けみたいな……わかります?」

――んー……。

おおの「えー(笑)! シンセはあくまでも要素のひとつっていうか、そういうイメージだったんだけど、PAELLASは音楽自体を支えるものっていう感じで……」

 

 

――あ、つまりシンセが前面に押し出されているっていうことですか?

おおの「そう、だから……全然……まだわかってない(笑)。初めてPAELLASとスタジオに入った時に、何をすればいいのかまったくわからなくて」

――自分がどう活かされればいいのかがわからないと。

おおの「そうそうそう。〈(私が)いる意味ある?〉って思って。ビッシーなんて目も合わせてくれないし」

Matsumoto「それはただの人見知りやろ」

――だんだんご自身の役割みたいなのは掴めてきているんですか?

おおの「んー……PAELLASは何が正解なのか、どういうものがカッコイイとされるのかがまだわからないから、みんなが描いている理想の音を出せればいいなと思って、新しいシンセを買ったりしたんですけど、この間みんなで真剣に話し合った時に〈俺らもわかんないよー〉みたいなことを言っていたから、そうなんだー……と」

Matsumoto「俺はわかってるけど。自分らがこうしたいっていうのは言うけど、ある程度は彼女自身の引き出しに任せようと思ってる。でもいまはまだわからへんって言うから、であればこっちからこういう感じがいい、こういうのを聴いてみて、ということを言っていこうと思っているところ」

 

 

――なるほど。

おおの「最近新しい曲を作ったんですけど、それに関してはわりと自由にやれました。でもこれからどんどん変わっていくんだろうなと思いますけど、グフフ(笑)」

――そういえば、夏の終わりのレコーディングで難航していた曲はその後上手くいってますか?

Matsumoto「本当は11月くらいにCDを出そうと思って、あの“Remember”って曲を表題曲にするつもりだったんです。でも結局ボツにして、〈これヤメヤメ捨てよう!〉ってなった日に、その曲の元になったセッションの音源が発掘されて。でもまた別のパターンで録った音源も追って出てきて、それがさらに良かったから〈これええやん! この方法論でいこう!〉って復活しました」

――おー、それは良かった!

Matsumoto「それを近いうちにレコーディングしようかと。最近ライヴでもやってます。でもね、いまセットリストがバラバラすぎるのがしんどくなってきてるんですよ」

――バラバラというのは?

Matsumoto「7インチで出した“Cat Out”とB面の“TAKE BABY STEPS”って、全然(タイプが)ちゃうじゃないですか。振り幅に疲れる……じゃないですけど、入り込めなくなってきているんです。俺たちのいまの軸、軸にしていくべきサウンドはなんやろうと考えた時に、俺は“Cat Out”が軸として進めるべきラインだと最近思って。なのでセットリストを変えて、いまはみんなでセッションしたりして一気に曲を作ってる感じ。ひとまずレコーディングは置いておいて」

【参考音源】PAELLASの2014年のデモ音源“ホードン”

 

――個人的にはそこまで違うようには思わなかったけど(笑)。

Matsumoto「たぶん俺しか思ってないと思う」

Kanabishi「マジでそうかもしれない。俺も全然思ってないから。そのへんはみんな違う考えを持ってると思うけど、俺はまっとんに合わせようと思ってる」

Matsumoto「やっぱり自分らの軸は必要かなと。いまいろんなタイプの音に手を付けるより、まずは自分らの軸になる音を突き詰めていきたい。同じような曲が作れるようになりたいんです。軸のブレていない曲が並んでいるなかに、違うものがポッと入ったりするほうが引き立ったりするかなとも思うし。まあでも年内には(CDを)出したいんですよ……」

 

 

――もう11月です(笑)。

Matsumoto「とはいえそんなに急がなくてもいいと思ってるんですけどね。いまは新しい曲をどんどん作ってセットリストを塗り替えたいんです。ライヴはどんどん決まってしまっているんで、早く曲を作って早く練習して、満足のいく形でライヴに臨めるようにしていきたいです」

――他の皆さんはこのペースについて行けてますか?

Kanabishi「うーん……わかんない(苦笑)。いまやってることって全部が初めてのことだから、やっぱりまだわからない。各々のパートでどうやっていこうかっていうのはそれぞれが考えているけど、まだ考えている途中。僕はいまの状況に合う、これまでとは違うやり方でやりたいと思ってるから。前はシンセなんて使ってなかったわけで、どうやって音作りするのかもまだわからないし。レコーディングの方法もいろいろ考えてるんですけど、いまはまっとんが先頭に立ってやっていこうとしてるんで、そのなかでどうやっていこうかなと」

Satoshi Anan(ギター)「もうちょいみんながやりたいことのバランスが取れればいいなと思いますね」

【参考音源】PAELLASの2014年のデモ音源“レリゴー”

 

――つい数か月前にこのメンバーで動きはじめたばっかりなわけですし、またこれまでとは違うことをやろうとしているなら、各々がまだ手探りで……というのも頷けます。

Kanabishi「僕、最近曲が作りたいと思うようになってきたから、もしかしたらちょっとは見えてきたのかもしれない。でも最終的に決めるのはまっとんだから、そこを(クリアすることを)まず考えないと……という感じになってると思います、みんな。そのなかで各々のやりたいことをやるって感じじゃないかなと」

おおの「私はもっといろいろ試してみないと見えてこないかも。そのなかでPAELLASにとってアリなことを知っていきたい。いろいろやってみたいと思います」

Anan「もっとバンドを見て意見してくれる人が欲しいよね」

 

 

――あー、メンバーだけではなく第三者的な意見を。

Matsumoto「レコーディングとかやってると、俺らだけだと煮詰まるんですよね。もちろん自分らで決められるからいい部分もありますけど。そういう第三者的な人は欲しいですね」

――とはいえ、いまはこの体制でやっていかないとって感じですもんね。皆さんまだ混迷している雰囲気はありますが……。

Matsumoto「混迷してるのかな。俺ははっきりしてるけど……」

Kanabishi「まっとん以外は(いまのバンドについて)語れない感じはあるよね。まだ会議は必要だと思いますよ」

 

PROFILE:PAELLAS


Tatsuya Matsumoto(ヴォーカル)、Satoshi Anan(ギター)、Masaharu Kanabishi(ベース)、Takahiro Komatsu(ドラムス)から成る4人組。2009年に大阪で結成した前身バンドを経て、2012年に現編成に。同年7月にネット・レーベルのAno(t)raksより初EP『Following EP』を、11月にDead Funnyよりファースト・アルバム『Long Night Is Gone』をリリース。翌2013年にはシングル“Sugar”を発表。今年に入ってユナイテッドアローズの映像企画〈NiCE UA〉に“New Balance”を提供。このたびライヴ会場限定/一部店舗限定の7インチ・シングル“Cat Out”をリリース。