photo by Jean-Louis Neveu

 

多彩なエッセンスがエレガントに融合 現代ラテン音楽シーンの豊穣さ示す新作

 〈Jazz:The New Chapter〉シリーズなどでも大きく紹介され、近年ますます存在感を増す、同時代のさまざまな音楽ジャンルを越境/混交した新たなサウンドを生み出さんとする音楽家たち。本稿で紹介するオマール・ソーサは、キューバの伝統音楽や新旧のジャズを軸に、アフロ・ビートやファンク、フュージョン、ヒップホップなど多彩な要素を呑み込む、(広義での)現代ラテン・ジャズ・シーンの豊穣さを示す存在のひとりだとも言える。オマールの最新作『ile』は、表面的な手触りを失わせないままにさまざまな要素を融合し、“美味しいエッセンス”だらけなのにそれぞれが五月蠅く干渉し合わない。結果として野趣に溢れつつも至極エレガントな音楽へと昇華されているところが特徴かつ優れた部分ではないだろうか。

OMAR SOSA Ile Ota/MUSIC CAMP,Inc.(2015)

 アルバム・タイトルは、キューバに伝わる言葉で“家”や“大地”の意味があるという。自身のアフロ・キューバン・ルーツを追求するバンド〈クアルテート・アフロクバーノ〉を中心に、ギターのマーヴィン・セウェルやパーカッショニストのペドロ・マルティネスなど豪華ゲストが多数参加。1曲目では、女性歌手ゾガロスの澄んだ歌声とフルート、ギター、男性コーラスのユニゾンが幽玄な響きを生み、ダフニス・プリエト作品でも光っていたコカイスポークン・ワードも印象的。サックス奏者としても作曲家としても今後のシーンでますます存在感を増すだろう同郷のヨスヴァニー・テリーは、《Momento》と題された4曲にソプラノ・サックスで参加。ウェイン・ショーターを想起させる妖しくも美しい演奏で、作品のサウンドに芯を与えている。また、3曲でフィーチャーされているフランメンコ・ヴォーカルと、複雑なリズム・パターンやキメとの絡み合いなども聴きどころだ。伝統×革新的な技巧/アイデアの良い意味での“上澄み”――醸し出される“雰囲気”そのものを堪能できる作品。