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若いバンドがちゃんと出てこないとつまらないし、僕らは意味付けと流れをしっかり確立したい。パンクはいまや絶滅危惧種なので

――ちょうどいま名前が出たので伺いたいのですが、『While We're Dead.:The First Year』のファンジンには、バーガーのオーナーであるショーン・ボーマンのインタヴューを掲載していますよね。これはどなたのアイデアだったんですか? 参考記事:カーティス・ハーディングのヒットやカセットテープ・ブームで注目集めるナードでキッチュなレーベル、バーガー

安孫子「あれは、レーベルのみんなで話しているときに〈何か海外のネタもできたらおもしろいね〉くらいのノリだったんです。〈じゃあバーガーがいいんじゃないか〉って」

与田「実は、ファンジンを作ることがレーベルをスタートする時点での大きなテーマだったんです。そこに普通の音楽媒体は取り上げない読み物を入れたいと思って、外国人のインタヴューは絶対に入れたいと思っていたところでバーガーの話が動き出していたんです。ショーン本人がプロモーションで日本に来るという話だったのでみんなで会いに行って。そこでいろいろ訊いたらめちゃくちゃおもしろくて。あれはやって良かったね」

安孫子「ほんとですね~」

与田「まず、アメリカではカセットテープがリアルな生活のなかで必要とされているなんて、思ってもみなかったから」

――新車を買えない若い子たちが乗っている中古車には、たいていカセットデッキが付いていて、それで音楽を聴いてる……という話ですよね。

安孫子「そこが肝でしたね」

与田「〈みんなまだ車で聴くからカセットは生きてるんだよ〉って」

――日本にいたら見えない情報ですよね。安孫子さんはいちリスナーとしてバーガーの作品はどのように聴いてますか?

安孫子「あの手法で連戦連勝してるじゃないですか。パンクと音楽愛とDIYのアティテュードで勝ちまくって、〈かなり革命的でヤバいヤツらじゃないか〉と思いました」

バーガーの2014年のコンピ『Burger Records Sampler』。なんと464曲も収録!

 

与田「羨ましいですよ。彼らのひとつの武器は〈(カセットだと)再発はOK〉という点なんです。カタログを眺めると、パプリック・イメージ・リミテッドのファーストがそこに混じってるわけですよ(笑)。KiliKiliVillaでも好きなアーティストの再発をどんどんやれるならやりたいんですが、あんなふうにはできない。例えばウィーザーがカセットをバーガーから出すとか、ああいったフットワークで活動できるのは素晴らしいなと思いますよ」

安孫子「誰も思い付かなかった必殺技で、いろんなヤツをなぎ倒して行く感じ(笑)」

与田「しかもやっていることに魂がしっかり入ってるな、と感じた部分が本人と会ってよくわかったんです。作戦を立てて遂行してるわけじゃなくて〈好きなことをやってたらこうなっちゃいました〉という感じ。マインド的には僕らとなんら変わらない、ただの音楽オタクなんです」

安孫子「ルックスを見て、まず安心しましたね(笑)」

――確かに(笑)。では視点を変えて、いまのKiliKiliVillaから見たときに〈国内にもこんなレーベルがあるよ〉というようなシンパシーを感じるレーベルがあれば教えてください。

安孫子I HATE SMOKE TAPESの去年のリリースの(シーンにおける)先駆けっぷりは凄かったです。SECOND ROYALとは自分たちのようなオッサン世代が若者の鳴らす音楽に夢中になり、童心に返ってやってるという感じで並走してる気がします。GEZANを中心とした十三月の甲虫も本当に素晴らしい。また僕自身どうしてもパンクにはこだわるのでDEBAUCH MOODblack holeEPISODE SOUNDSWaterslide RecordsSP Records生き埋めレコーズSuburbia WorksHip Cat's Recordsless than TVTarget EarthSnuffy SmilesSummer Of Fanなど、周辺の皆様の活動はチェックしてます。バンドのセルフ・リリースでも素晴らしい作品がたくさんあるし、本当に楽しいです。ともかく、若いバンドにも目を向けようという動きがアンダーグラウンドなレヴェルでもありますよね。でもレーベルの数は少ないかもしれない。もっとあってもいいと思います」

与田「レーベルの数自体は多いけど、キャラクターがわかりやすいレーベルが少ないんじゃない? 例えばSELFISH(日本のハードコア・パンクの代表的なレーベルのひとつ)とかさ。レーベルの名前を付けて商いにしている会社は多いけど、俺たちがやりたいのはレーベル・カラーがはっきりして、主義主張がしっかり見えるレーベルだから」

安孫子「だからこそパンク・レーベルは頼もしいですよ。DEBAUCH MOODもレコードしか出さないみたいだけど、紙質とか盤の細かい部分にまでこだわって、モノとしての完成度を上げようという姿勢があって素晴らしい。文化を根こそぎ楽しむ姿勢が自分のなかにもあるから、こんな感じでいまは本当に好きなヤツだけ残っていけばいいのかなって気もするんですけどね」

THE SLEEPING AIDES & RAZORBLADESの2015年作『FAVORITE SYNTHETIC』収録曲“MY STRANGE HEADACHE”

 

――音の話なんですが、いまの新しい流れにあるパンクの音って、ざっくりですが海外の現行インディー・ロックやインディー・ポップの影響を感じるパンク・バンドが多いのかな?という気がするんです。

安孫子「その要素はあると思ってます。でも影響と言うよりは並行してるんじゃないかという気もしつつ、ここ数年でパンクだけど他ジャンルを巻き込みはじめた音が、日本だとCAR10が一番早かったんじゃないかと思っていて。パンクなんだけどインディーと呼ばれるものとおもしろく交わっている。個人的にはコテコテのパンクも好きだけど」

――安孫子さんが『While We're Dead.:The First Year』のテキストで〈聴いてた音楽〉として名前を挙げたもののなかには、スミス・ウェスタンズオールウェイズビッグ・ピンクパーフェクト・プッシーブラック・リップスなどがあって、インディーの流れだけどパンクのエッセンスも含んだようなバンドが多いな、とは感じていました。

安孫子「そうですね。日本でもその流れはあると思うんですけど、早耳のリスナーとインディーのオシャレっ子さんたちで聴いてる音楽がカブってきてるのかな。クラブ好きのキッズやインディー大好きっ子の方面に人気があるバンドで、〈曲のセンスいいな〉と思った人たちのイヴェントを観に行ったりもしたんですけど……結局ライヴで観るとダサくてしょうがなかったんです(笑)」

――そうでしたか(笑)。

安孫子「ただカッコつけてるだけにしか見えなくて。結局はファッションなんだろうと感じでしまいました。個人的には〈何をやってるか〉よりも、〈どういうヤツがやってるか〉のほうが遥かに重要なので。いまは多少交わってるかもしれないけど、これから先もどんどん交わっていくことにはならないと思うから、ちょっと慎重には考えなきゃなと」

――それはパンクの現場に身を置きつつ、インディーの流れも見てる安孫子さんだからこそ判断できることですね。

安孫子「いま好きなものが被ってるところもあると思うんだけど、根本や意味がどうしても違うというか。もちろん、全然拒絶するわけじゃないんです。自分のことで言えば〈みんなを巻き込んで一緒にビッグになろうぜ!〉みたいなノリはサラサラなくて、ただただ一緒に遊んで楽しい人たちと末永く遊べればいいな、というだけでしか本当にないので。そのためには若いバンドがちゃんと出てこないとつまらないし、僕らは意味付けと流れをしっかり確立したい。パンクはいまや絶滅危惧種なので。この感じでインディーって言葉で持ってかれちゃう可能性もあるから」

与田「現象としてはインディーっ子発信のほうが広まりやすいからね」

――いまの話題と関連する話で、『While We're Dead.:The First Year』の冒頭を飾るNOT WONKの“Laughing Nerds And A Wallflower”が、NOT WONKのアルバムに収録されているヴァージョンとミックスが違うじゃないですか。前者がリヴァーブの響きを活かしたインディー・ロックっぽい仕上がりなのに対し、後者は残響の少ないロウなミックスでパンキッシュな印象が強調されている。聴き比べながら〈これはいまのKiliKiliVillaの多面的な魅力を象徴してるな〉と思ったんです。

NOT WONKの2015年作『Laughing Nerds And A Wallflower』収録曲“Laughing Nerds And A Wallflower”

 

安孫子「ほとんどメンバーの意向です。全体の雰囲気が決まった時点から先はメンバーとエンジニアさんで作り込んでいます。アルバムに収録された女の子コーラスが入ったヴァージョンが送られてきたときは驚きましたね。〈後輩の女の子で歌の上手い子がいるから、苫小牧で録ってきます!〉みたいな連絡が来て」

――そうだったんですね。どうしてもこのタイミングで安孫子さんに訊いてみたかったのが、KAKUBARHYTHM角張渉さんとの関係です。もともと安孫子さんは角張さんとお2人でSTIFFEENをやっていて、近年は開店休業状態だったけど、安孫子さんがKiliKiliVillaを始めたことで正式に活動終了になったんですよね。いま角張さんはKAKUBARHYTHMですごく活躍してますが、安孫子さんはどのように感じていますか?

安孫子「立派になったなぁって(笑)」

与田「そうだよね(笑)。当時を知ってるとなおさらね」

安孫子「とりあえず、ワタルくんには真っ先に相談に行きましたよ」

――やっぱり信頼感はいまでも揺るがないんですね。安孫子さんはいまのKAKUBARHYTHM周辺の音楽はどのように聴いてますか?

安孫子「おもしろいと思いますよ。ああいう立ち位置を確立したのは本当にスゴイと思うし、このままずっと行けたら本当に良い見本になりますよね。意識するところではあるけど、でも関係ないっちゃあ関係ないかもな。アティテュードでパンクが好きというよりは、結局自分は〈パンク・ロックが好きなんだ〉というタイプなので」

与田「よく〈俺はパンクが好きだ〉と言いながら、音楽的にはあるひとつのことにしか固執できなくて〈生き様系〉の人って多いじゃないですか。でも本当に音楽が好きだったらもっと広がるだろうし、線引きは難しいですけどね」

安孫子「オールド・スタイルのパンクばっかりはイヤだけど、かといって違う方向に行きすぎると自分の範疇じゃない。いい塩梅のセンスってのが難しいんですよね」

与田「そこにこだわれるのが、自分たちでレーベルをやっていることの良さだと思いますけどね」

――なるほど。安孫子さんは当時のSTIFFEENでの経験はKiliKiliVillaに活かされてますか?

安孫子「ありますね~。経験というか人脈ですかね。いまの若い子たちから〈聴いてました!〉って言ってもらえるのはひとつの取っ掛かりになるし、あんな遊びみたいなスタンスでやってたのが10数年経って影響力が生まれているんだということにビックリしてて。STIFFEENのラインナップはヴァラエティーに富んでいたし、〈パンク内オールジャンル〉をめざしていたような気がしますね」

STIFFEENからリリースされたFRUITYのコンプリート音源集『SONGS』にも収録されている“SUMMER CAMP”

 

――でも全体的にどこかポップなトーンもあって、おもしろいラインナップでしたよね。

安孫子「自分たちより上の世代が、よりアンダーグラウンドな方向と〈AIR JAM〉的な方向に分かれた、ちょっとピリピリとしてた時代で。その少し年下のわれわれはどこにも行けない感じでした。でも西荻窪のWATTSを中心にしたシーンは、最初は身内ノリでやってたものがいつの間にか噂になって観に来る人も増えて、10年経ってみたら伝説のような扱いになっていますね。WATTSは本当におもしろかったですよ。純粋すぎる遊びのような感覚が良かったんでしょうね」

――安孫子さんはいまもレコードを買ってるんですか?

安孫子「買ってますね~。ほとんど売っちゃってたんですけど、結局レーベルを始めたらまた買わざるを得ないという」」

与田「手放したものをまた買い戻してるの?」

安孫子「本当にそうなんです(笑)。もちろんお金がないので数はだいぶ減りましたけど。気になった新譜はまずチェックするけど、いまレコードは海外の作品でも数百枚の少数プレスが多いから、すぐ買わないと手に入らなくなるんです。それでレコード屋さんに買いに行って、ついでに中古盤を見ると〈俺はいままでこれを何回買ってるんだ?〉っていうレコードを見つけて(笑)。そんなのばっかりですね」

――実店舗もオンラインも両方チェックしてるんですね。

安孫子「そうですね。群馬在住なので実店舗を見る機会は減りましたけど、お店に行ってレコードを買うという行為が好きなんですよね。昔はそういう自分に〈音楽好きっていうよりただのレコード好きなんじゃない?〉って疑問もあったんですけど、こういうご時世になると開き直るというか(笑)。〈俺はレコード屋に行って、レコードを見て買うのが好きなんだ!〉って」

――最近では何が良かったですか?

安孫子「洋楽だったらウォーム・ソーダ『Symbolic Dream』、マクトハーヴェシュカン(Makthaverskan)『Makthaverskan II』、ジェイミーXX『In Colour』なんかをよく聴いてます。コンスタントに良いなという曲やバンドは結構ありましたが、どハマリするまでにはなかなかいかなくて。いまはやっぱり、日本でいろいろな新しい動きや価値観が生まれているのがおもしろいです。カッコ良いバンドが多いですよね。あ、洋楽でフィドラーの“West Coast”のミュージック・ビデオは号泣悶絶レヴェルでめちゃくちゃ最高でした! でもいろいろチェックするけど、年のせいか〈100%ヤラれた!〉みたいな音楽は少なくなったかもしれないです」

ウォーム・ソーダの2015年作『Symbolic Dream』収録曲“Cryin' For A Love”

 

マクトハーヴェシュカンの2014年作『Makthaverskan II』収録曲“Asleep”

 

フィドラーの2015年作『Too』収録曲“West Coast”

 

――ちなみにCDもまだ買いますか?

安孫子「買いますよ」

――配信は?

安孫子「買ってみたこともあるし試聴程度では聴くけど、単純にPCを使いこなせてないからあんまり利用してないですね。YouTubeで音楽を探すのも昔から苦手なんです。どうしてもPCに長く向き合っていられない。情報を得ることが上手くできなくて困ってます(笑)。Apple Music‎なんかも自分とは無縁のものと思えてしまって。自分がそういった掘り方をしないので」

与田「買うのが前提条件だもんね」

安孫子「そういうさまざまなツールがあるのは良いことだろうなとは思いますし、(Apple Music‎の)プレイリストなんて僕らが友達にミックステープを作ってあげる感覚と似てるのかな……でもそういうこととは若干意味合いが違う気もするけど。基本的には世の中の流れに反対するわけでもなくて、いまのところは関係ないって意識で特に何もないですね……いや、あるっちゃ大いにあるか(笑)」

与田「あえてそこへ戦いに行く理由はまだないよね」

安孫子「自分が利用価値を理解したり、反発を覚えるほど身近なものじゃないから」

与田「全部〈モノ〉で持ってるし、とか思っちゃう」

安孫子「時代錯誤な年寄りの意見かもしれないけど、一枚一枚のストーリーや裏話にこそ大切な何かが詰まってるじゃないですか。〈このレコードは3回も再プレスされてるんだ〉とか〈この何年後にドイツで再プレスするんだ〉とか、そういった情報からバンドに想いを馳せることが好きなので。それが音楽を楽しむ神髄だとも思ってます。データでは知ったつもりになっていても、自分にとってはあまり身になっていない気がするんです」

与田「それは意味が違うからね。〈聴いたことがある作品〉と〈自分が好きで持ってる作品〉じゃ全然違う。でも〈好きで持ってる〉ってことが、いまの中学生くらいからどんどんなくなっていくんだろうな」

安孫子「でも、なくなりはしないとも思うんですよね」

与田「そうだね。消えはしないよね」