喪失と後悔、優しさへの問いを苛烈なロック・サウンドに刻む4人組が初のフル・アルバム『LOOP』を完成。嘘のない言葉と生々しい演奏でバンドの現在地を捉えた13曲――その音楽はいつでも聴き手の傍にいる!

 少年の純粋性、感情の機微から生まれる寂寥感と緊迫感。それらを繊細かつ豪快に鳴らすオルタナティヴ・ロックには、メンバーのルーツやパーソナリティー、情緒の豊かさが迸る。千葉発、平均年齢22歳の4人組バンド、HINONABEは2024年5月の本格始動からほどなくしてオーディションを勝ち上がり、大型フェスのオープニング・アクトを務め、今年6月の代官山UNITでのワンマンライヴもチケットを早々にソールドアウトさせた。勢いに乗るバンドに初のフル・アルバム『LOOP』の手応えを聞く。

HINONABE 『LOOP』 HINONABE(2026)

 

聴き手と曲が同じ空間にいるような

――同じ軽音楽部に所属していた同学年の磯さん、菊地さん、松岡さんと当時のドラマーさんとで、前身バンドが結成されたそうですね。

磯敢太(ヴォーカル/ギター)「ギターの楓とは高1から同じクラスで仲が良くて。ベースのユッケ(松岡優之介)は部内でベースが格段に上手かったんです」

松岡優之介(ベース)「磯には曲作りの才能を感じてました。当時から歌詞もすごく良くて」

磯「早朝や夕方にひとりで自転車を漕いで遠くに行ったり、家でもあまり話さずにリビングで本を読んでいたり、車に乗っても景色を眺めたりしていたので、いつも景色や本、音楽が自分の傍にいてくれたんです。バンドを組んだときから、そういう時間を曲にしたいと思っていました」

菊地楓(ギター)「結成当初から曲の世界を崩さずにパンチのあるフレーズを作りたいと思っています。ギターを始めた頃にヨルシカのギターに衝撃を受けたので、高校時代に作ったフレーズはその影響がかなり出ていて。でも最近は聴く音楽も幅広くなったのでアプローチが増えました」

松岡「自分も楓と同じスタンスで、弾いて楽しいフレーズを作るようにしています。ベースがメロディアスなのは、中学生の頃から大好きなback numberの影響です」

――2023年にSNSでドラマー募集をしたことで佐藤さんが加入し、2024年5月に現在のバンド名に改め、本格始動を果たします。

佐藤ケンゾウ(ドラムス)「自分はもともと吹奏楽部の強豪校で打楽器をやっていたんですけど、楽譜に縛られた演奏に飽きてしまって、ドラムを始めたんです。それまで〈バンド〉の音楽に触れてこなかったけど、SNSでこの3人がやっていた前身バンドの動画を観て〈高校生でここまでの表現力があるのは凄い〉と圧倒されて応募しました」

菊地「とにかくケンゾウのドラムはカッコよかったんです。音もデカくて、スタジオで合わせてもすごくしっくりきたし」

松岡「ケンゾウはロックなプレイをしつつも、吹奏楽経験者だからリズムの基礎がしっかりしてるんです。だから安心して演奏できますね」

――このたび完成した13曲入りのフル・アルバム『LOOP』は、オルタナティヴ・ロック、ポスト・ハードコア、エモなどからの影響を反映したサウンドで、四季の情緒を表現した作品だと感じました。

松岡「ライヴ感をすごく意識しました。この2年で培った迫力や技術力を音源にも反映させたかったんです」

佐藤「そのうえで歌詞の世界と密接な音を追求していきました」

磯「聴いてくれる人と曲が同じ空間にいるような音にしたかったんです。再生すればいつでも2026年のHINONABEと一緒にいられるアルバムになりました」

菊地「個人的には“喰う、喰われる(LOOP style)”をかなり理想に近づけられたと思います。サウンドもプレイもすごくパワフルにできました」

――〈LOOP style〉と名づけられた再録の7曲は、既発アレンジからさらに侘び寂びを効かせたサウンド・デザインになっているのが印象的でした。たとえば“Bagel”は昨年の配信シングルでは溌溂としたギター・ロックでしたが、今作に再録された〈LOOP style〉版ではアコースティックで落ち着いた仕上がりになっています。

磯「これまではメンバーのルーツに合わせたポップで耳馴染みのいい音にしないといけないと思い込んでいたんです。でも今回は、曲に書いた出来事が起きた日をそのまま音にすることを大切にしたので、固定観念から解放されて。特に“6月12日(火)、庭(LOOP style)”はその日に感じた寂しさや目に映った情景を解像度高く表現できて満足しています」

 

優しさの正体を探す

――磯さんの作る曲は季節の情景と併せて、喪失感や後悔を感じさせる曲が多いですよね。

磯「人と会えなくなる経験が多くて。もちろん新しくできた大切な人たちはいるけれど、それでも離れ離れになった人と会えなくなった寂しさや胸に空いた穴は決して埋まらないんですよね。その喪失感を抱えながら、いま目の前にいる人たちと向き合っていきたいんです」

――歌詞に〈優しさ〉や〈愛〉という言葉が多いのは、それも関係していますか?

磯「小さい頃から親に〈優しい人でいなさい〉と言われていたんです。でも優しくあろうとすると、人にも優しさを求めたり、そのぶん誰かにイライラしたりしてしまうこともあって。特に中学時代は〈優しさを持てない自分に罰を与えなきゃ〉と思い詰めていて、確実に優しい人でいられるように予定を組むくらい、人を傷つけたくない一心で生きてました。優しさや愛は、苦しみの原因でもあり、同時に自分が心の底から求めていて、正体を知りたいものなんだろうなとも思います」

――そのなかでラストの“LOOP”はバンドの新機軸ではないでしょうか。磯さんの願望が素直に表れた、爽やかな風が吹き抜けるようなロック・ナンバーです。

磯「アルバムで最後に出来た曲です。すごく明るい曲が出来たけど、僕の執着はなくなってないな……と思ったとき、自分が執着しているのは〈大切な人と愛や優しさを交わしたい〉という気持ちやそこで感じた後悔だと気付いて。〈謝りに行きたい〉〈謝りに行くタイミングはこれまでもあったのに〉という気持ちが膨らんでいきました。この曲は出来事のすべてを閉じ込めているのではなく、ワンシーンを切り取っているんです」

佐藤「今年6月のワンマンでこの曲を演奏したときの景色が頭から離れなくて、当時の気持ちも見えた景色も全部閉じ込めたいなと思ってレコーディングに臨みました。“LOOP”に限らず、最近の磯が作る曲は深みが増している。年齢を重ねて、漠然と抱えていた悲しみや苦しみの解像度が上がってきたと思ってます。今回の制作でドラムの表現は無限だなと痛感したので、今後さらにビートや音のヴァリエーションを増やしたいです」

――となるとまだまだHINONABEは進化の真っ最中ですね。

松岡「この2年でだいぶ成長したけど、〈もっと成長しないとな〉と思ってます。技術を上げていろんなジャンルを取り入れながら、曲も引き立てつつ、弾いていて楽しいフレーズを作っていきたいです」

菊地「今作を聴いて〈メンバー全員が一丸となってしっかりと音を作ると、音源でもこんなに迫力や聴き応えが生まれるんだ!〉と感動しました。もっと余裕を持ちたいし、4人のまとまりをより極めていきたいです」

磯「アルバム制作でいまの自分のやりたいことを見つめ直せたので、今後のイメージが明確になりました。好きになってくれた人たちとなるべく長く一緒にいられるバンドになりたいです」

 

『LOOP』と一緒に聴きたい作品をメンバー4人が選盤!!!!

磯敢太が選ぶ、素敵な情景が心に浮かぶ2枚

 ヴォーカリストの磯敢太は情景が印象的な2作を選出。まず、先鋭的なインディー・ロックを構築するLaura day romanceによる〈合歓る〉2部作の後編『合歓る - bridges』は、「さまざまな音色が綺麗にまとまり、自然に印象に残って身体に入ってくる。『LOOP』と同じく、自分にとって見たい情景を見せてくれる作品」と共通点を挙げてくれました。そして、親密なフォーク・ロックで人気を博すラッキーオールドサンのファースト・アルバムについては、「自分の生活や思い出を温かく残してくれる」と、聴き手に寄り添う歌に惹かれているそう。「久しぶりに誰かに会いに行くときや、慣れ親しんだ街を歩くとき、新しい場所で少し心細いときに『LOOP』と一緒に聴いてほしい」と語りました。

左から、Laura day romanceの2025年作『合歓る - bridges』(ポニーキャニオン)、ラッキーオールドサンの2015年作『ラッキーオールドサン』(kiti)

 

菊地楓が選ぶ、バンドの鳴りが楽しめる2枚

 ギタリストの菊地楓は、バンド・サウンドのあり方に注目してほしいという2作を挙げてくれました。1枚目は、轟音ギターと清澄な歌を重ねたサウンドで、日本における昨今のオルタナ再評価を象徴する一枚になったkurayamisakaのファースト・アルバム『kurayamisaka yori ai wo komete』。「ライヴ音源を聴いているような臨場感のある作品。僕たちの『LOOP』もライヴ感を大事に制作したので、聴き比べてみてほしい」とのことです。そして2枚目は、大阪を拠点に活動するハク。のファースト・アルバム『僕らじゃなきゃダメになって』。ドリーミーなインディー・ロックが魅力の同作を「ハク。らしさが詰まっているところが好き。HINONABEとは違う音の重ね方もおもしろいです」と評しました。

左から、kurayamisakaの2025年作『kurayamisaka yori ai wo komete』(tomoran/bandwagon/chikamatsu)、ハク。の2023年作『僕らじゃなきゃダメになって』(SPACE SHOWER)

 

松岡優之介が選ぶ、歌いたくなる2枚

 ベーシストの松岡優之介が最初に選んだのは、「大好きなバンドとの出会いの一枚」であるback numberのベスト盤『アンコール』。そのなかでもエモーショナルなストリングスを配したバラード“幸せ”が好きになるきっかけだったそう。「自分がプレイリストを作るなら、『LOOP』と『アンコール』を混ぜると思うので、ぜひ一緒に聴いてほしい」と話しました。さらに、川崎鷹也のファースト・アルバム『I believe in you』を〈僕のカラオケでの十八番である“君の為のキミノウタ”が収録されているから〉とチョイス。「どちらの作品もカラオケで歌いたくなるような曲ばかり。歌いたい気分のときに『LOOP』と一緒に聴いてほしい」と、〈歌〉への愛情が伝わる2作が並んでいます。

左から、back numberのベスト盤『アンコール』(ユニバーサル)、川崎鷹也の2018年作『I believe in you』(ビクター)

 

佐藤ケンゾウが選ぶ、演奏の熱に痺れる2枚

 ドラマーの佐藤ケンゾウは、演奏の快楽を体感できる2作をセレクトしています。最初に選んだのは、ハードコア・パンク~エモ的な激情サウンドを鳴らすルサンチマンのセカンド・アルバム『一生モノの陽射し』。「まるでライヴを観ているような没入感と、音源という枠からはみ出す勢いがある」と絶賛しつつ、「同様に『LOOP』も、自分がその場にいるかのような空気感や熱量を味わえる作品になっていると感じています」と評しました。また、BREIMENのサード・アルバム『FICTION』には、「(菅野)颯さんが叩くドラムのタッチやフレーズにバンドが集結していて、その上に(高木)祥太さんの歌が乗る感覚が凄い。グルーヴが最高です」とプレイヤー目線で刺激を受けたそうです。

左から、ルサンチマンの2025年作『一生モノの陽射し』(Blue echo)、BREIMENの2022年作『FICTION』(SPACE SHOWER)