押韻主義を貫く元祖ライム・グラップラーが、今度はソロでお目見え! 豪華なゲスト陣を迎えたパーティー・モンスターのサウンドに身を委ねて、このエネルギッシュな熱さをゲットしろ!

あれがピークでいいのかよ?

 昨年8年ぶりのアルバム『ULTRA HARD』を発表し、ラッパ我リヤのメンバーとして健在をアピールしたMr.Q。順風満帆ばかりではなかった8年の歳月と、GADOROを撃破した「フリースタイルダンジョン」出演時の評判、我リヤのアルバムを経て、音楽に向かう彼の心にいま、曇りはない。「何十万枚CD売ったこともフェスで5万人揺らしたこともあるし、海外でもやってるし、すごい世界を見てきたけど、いろんなことを経験したうえで、じゃあ、あれがピークでいいのかよ?って」――みずからをそう奮い立たせ、グループ作から1年を待たずして彼が発表した久々のソロ・アルバム『Let's Get !』は、「本気で遊んじゃおう」との思いが作らせたアルバムだという。

Mr.Q Let's Get ! MS(2018)

 「ここ何年かで構築してきた流れもあるんですけど、ガキの頃わからなかったこと、やろうとも思わなかったこと、やろうと思ってたけどできなかったこと、大人にやってもらってたこと、全部わかったうえで、それをやったろうかと思いましたね」。

 Dragon Ash“Deep Impact”(2000年)以来17年ぶりとなったKjとの共演なども交えて、リスナーの求めるコアなラッパ我リヤ像に応えてみせた先の『ULTRA HARD』に対し、そこから一歩も二歩も踏み出した『Let's Get !』の音楽性はぐっとカラフルだ。ヒップホップはもちろん、EDMからロックに至るまで彼の普段の音楽指向が随所で形となるなど、アルバムはかつてない広がりを見せている。

 「もともとダンス・ミュージックが大好きで、スピニンの音源とか大好きだし、〈ULTRA〉とかも普通に遊びに行くし、EDMっていろんな解釈あるけどサイコーじゃないですか。めちゃくちゃ好きだから、音像もディテールにこだわったし、これから絶対くるフレッシュな人ともがっつりコネクトして、こういうのなかったでしょ?っていうとこ含めてやった。理屈じゃなくこれカッコいいなっていう曲をコンパイルしたって感じが大きいですね」。

 マツマイヤー、KOOLIE a.k.a KUROKO.VVS、DJ PANDA、GAKU-Oから成る自身のクルー=THE MONEYを迎えてかましたタイトル曲“Let's Get !”や、ROC TRAXのコンピで初披露されていたGAINESとの“Fly Hi”、お囃子をサンプルした自身制作の“MATSURI”と続く幕開けから早速ド派手なそのサウンドもさることながら、幅広い交友関係を反映したゲストの多彩さもアルバムの大きな売りの一つだろう。なかでもラウドなギターが耳をロックする“Gekiatsu”には俳優の浅野忠信をフィーチャー。Qと旧友の安藤健作(noTOKYO)の手掛けたトラックの上で、曲名を連呼する浅野のサビとQのタフなラップが互いに火花を飛ばすこの曲は、奇跡のタイミングで実現したものだという。

 「音送って〈かっけえ〉みたいな話にはなってたんだけど、浅野さんがドラマ収録とかでめちゃくちゃ忙しい時期だったんですよ。それでどうしようみたいなのがあったんですけど、ある朝起きて携帯見たら10時20分頃、〈昼過ぎまで時間空いたんでレコーディングしましょうか?〉ってメッセージが来てて。それで急いで〈いまから録れる?〉ってエンジニアに電話して、地図送ってスタジオ着いたらもういるんですよ。ウソでしょって超びっくりして。そっからホント1時間、スポーティーに超いい声で録って〈じゃあね〉って。すげえ、ハンパねえなっていう」。

 

大人のヤバさを見せつける

 また、“WeArePartyMonster”でプロデュース/客演を務めたBLACK JAXX(DJ DRAGON & 武田真治)との絡みは、とあるパーティーを大いに盛り上げていた武田の演奏をQが目にして決まったもの。跳ねるビートは、Qみずから「フレーズ勝ち」と胸を張るベースラインがキモ。武田のサックスとQのラップ、DJ DRAGONのハイトーンなヴォーカルが軽快に飛ばし、「メロディーもフロウも、ありそうだけどどこにもないし、ノリノリでハッピーになれる」仕上がりとなった。

 さらに、“ブレてる暇なんか無ぇ”にはいとうせいこうが客演。Qが仲間と毎月開催しているトーク・ライヴにいとうが出演した際に飛び出したという一言をタイトルとした曲は、「いままでで一番カッコいいいとうせいこうを聴きたい」とのQの思いに応えるべくいとうがラップした、本作では数少ないストレートなヒップホップ・チューンだろう。

 他にも、抑えた調子でダークなトラックを乗りこなす客演のZeebraを横目にガッツ溢れるQの畳み掛けがアツい“衝撃”や、HAN-KUNのコンディションとの兼ね合いを縫ってなんとか実現した、未来への希望を注ぐ“HOPE”など、さまざまな楽曲が並ぶ。そんななかで“手紙”には、本作を飾った〈遊び〉の裏にある現実の悲しみが映った。本人の思い入れがどの曲にも増して強いのもそのはず、これは10年前に彼の母が亡くなった際、彼が実際に泣きながら書いたという本当の手紙であり、ヴォーカルもまた当時録音したそのままを使っているという。

 「おふくろは還暦も迎えられなかったんですけど、やっぱり男にとっておふくろってデカいから、非常に寂しくてすぐライヴもできなかったし、なんとも言えないですね。いまでも自分で聴いてまた泣いてるぐらい強烈ですけど、みんなの歌になってくれたらいいなと思ってます」。

 そうした音の世界は我リヤと変われど、過剰ともいえるエネルギーを注ぎ込む彼の姿は、この『Let's Get !』でもやはりブレない。「ベース・ハウスとかいろんなものをやってんすけど、結局は俺がやるとヒップホップになっちゃう」と彼が言うのも、つまりはそういうことだろう。〈カッコいい大人〉の姿を見せつけんと、その挑戦は続く。

 「THE MONEYはこれからかなり強烈な動きしてくんで注目しててほしいし、いまは東京の大人のヤバさ加減を見せながら、何であんなことできるんだろうなって憧れられることをやっていくために、躍起になって動いてる。俺がそれをしないと下の世代はつまんないだろうし、そうなれたらカッコいいじゃないですか。だからそれを追い求めていくだけ。結局どこで納得しちゃうかなんですよね。〈このへんでいいかな〉ってなったらそこで終わりだけど、俺は止まらずに挑戦し続けて、行けるとこまで行って死のうかなと」。

関連盤を紹介。

 

ラッパ我リヤの復権

 昨年の『ULTRA HARD』が長い不在を埋めるかのように高評価を得て、見事に前線に返り咲いた感もあるラッパ我リヤ。Mr.Qが「フリースタイルダンジョン」で若手筆頭株のGADOROを負かした出来事も、韻とヴァイブスにこだわるオリジネイターとしての存在感を思い出させるのに作用したはずだ。そんな我リヤの結成は93年。いわゆる〈さんピンCAMP〉組より少し若い世代にあたる彼らは、95年にQと山田マン、DJ TOSHIの現体制となり、同年のコンピ『悪名』に提供した初音源“ヤバスギルスキル”で一気に脚光を浴びる。98年には名作の誉れ高い初作『SUPER HARD』を発表し、RHYMESTERや山嵐、Dragon Ashらとのコラボを経て、2000年にメジャー・デビュー。当時のラップ・ブームを代表する一組として華々しい活躍を見せた。

 その間にはQと山田マンのソロ活動も始まるが、スタイルの多様化や若い世代の台頭もあってグループの動きは落ち着いていき、『MASTERPIECE』(2009年)以降は作品も途絶えた状態に。そこからDJ MISTA SHARの“THE STRONG SURVIVE”(2013年)に参加し、KENSHU制作の“More Fire!”を含むミックスCD『ラッパ我リヤバスギル BEST MIX 2015』で復活するまでは数年を要するが、大ヴェテランの彼らが往時を知らない層からも新鮮に歓迎されたのは、その不在時に似たタイプの人が現れなかった結果でもある。KEN THE 390の“インファイト”にQが招かれたように、そのエネルギッシュなオリジナリティーが求められる機会は今後も増えていくはずだ。 *出嶌孝次

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