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全員が分業してひとつのでっかいものを作る

――だけど、決して10年分の煮こごりみたいな濃密さだけになってないんですよ。曲ごとのフットワークは軽いし、〈何これ?〉と思わせながらかっこよくて口ずさみたくなところもいっぱいあるし、一曲一曲ドラマみたいだし、すごくおもしろいじゃないですか。ロックンロール一択かと思いきや、ファンクっぽかったり、歌謡っぽかったり、“気ままにグッドラック”(詞:ハリケーンハマー/曲:こだまたいち)みたいな16ビートのかっこいい曲もある。最後に“雨街BLUES”がキュッと締めてくれる構成も好きですね。今までやってきた結果が正直に出ているんだと思います。

たいち「フットワークの軽さ、みたいなものはまさに目指していたんで、うれしいです。兄の曲が今回13曲中2曲くらいのバランスで、逆にキャラ立ちしてるというのはすごくうまくいったかなと思ってます」

アツシ「もともと自分は真面目一徹で突っ走ってきたんですが、たいちやハマーは俺には見えてない俺のおもしろさを歌詞で引き出してくれた。〈俺ってこんなところあるんだ〉と自分でも思えたし、そのおもしろさがあったおかげでこうやってバンドを続けられてるとも思うんですよね。自分の歌声が、調理してもらうのにいい食材になってる。“アンラッキーエンジェル”(詞曲:こだまたいち)で〈I like you, baby〉って歌ってるときも、そう思いましたね(笑)」

――あそこ、BOØWYっぽいですよね(笑)。

たいち「そこは意識して作りました(笑)」

2016年のミニ・アルバム『陽気なステップ』収録曲“アンラッキーエンジェル”。『J.U.M.P.』には再録されて収録
 

――脱退されたのは残念ですけど、ハリケーンハマーさんの歌詞もすごくユニークですよね。

アツシ「ハマーはもともとブルースの弾き語りをしていて、歌謡曲も大好きなんです。彼の歌詞にはハマー節があって、たいちにもたいち節があって、それぞれ別のかたちなんですけど、どっちも歌謡曲なんですよ」

――ハマーさんの歌詞ですごいなと思ったのは“SAYING”(詞:ハリケーンハマー/曲:こだまたいち)ですね。アツシさんの歌声で女性言葉という。

アツシ「この曲が出来たときは、マジで悩みました。女性言葉で、結構シリアスなことを、どストレートに歌ってるじゃないですか。正直言って、俺が歌うということが本当にアリなのかどうか? ただ、本気で歌ったら遊びじゃないことが伝わるなと思ったんです。ライブでこの曲を歌ったときに、女の人が泣いてたりして。やっぱりハートの問題なんだと気づかされたし、個人的にもジェンダー的なテーマを考えさせられた曲になりました」

『J.U.M.P.』収録曲“SAYING”
 

たいち「ハマーの歌詞はキュートですね。兄に歌詞を書こうと思うと、僕なんかはちょっとかっこいい系というか、少し男らしさを意識しちゃうんですけど、ハマーの場合はもうちょっと抜けてる男像で、僕は好きです」

アツシ「自分も含めて曲を書く人間が3人いて、それぞれ色が違うんです。自分で曲を書いて歌うシンガー・ソングライターのよさというのは今の時代あると思うんですけど、昭和芸能の世界で全員が分業してひとつのでっかいものを作るみたいな、そういう餅は餅屋なかっこよさをすごく実感してます。こういうのも俺たちのやりたいことだなと思う」

――それこそ“SAYING”みたいな女性言葉の男性ヴォーカルは、昭和のムード歌謡の世界にはありますしね。でも、その要素がロックンロール・バンドと融合することはたぶんこれまでなかったかも。そういう意味では、昭和なテイストの音楽というのはわりと身近なものだったんですか?

アツシ「自分たちが音楽と出会う場所って、世代的にはYouTubeとかなんですよ。そうやっていろいろ調べながら聴いていくなかでも、昭和の時代ってやっぱり長いし、好きになっていく曲がたまたま多かった。昭和に対する憧れとかでは全然ないんです。その時代の音楽がたまたますごくかっこよくて、今流行ってないことはわかってるけど、本当に好きだからやろうと気合いを入れて決意した感じですね」

――2018年にリリースされたカヴァー・アルバム『男』も、まさにそういう出会いと気合いを感じる昭和で野郎な選曲でしたよね。“男達のメロディー”(SHOGUNのカバーで、79年放映の刑事ドラマ『俺たちは天使だ!』主題歌)のMVもよかった。

2018年のカヴァー・アルバム『男』収録曲“男達のメロディー”
 

アツシ「あの曲も、TOKIOの『ザ!鉄腕!DASH!!』で出会ったのかもしれない?」

タカシ「僕は完全にそこからでした」

たいち「なんていい曲なんだろう、って思ってましたね」

――でも、そういう出会い方もむしろ今っぽいし、必然性があっていいんでしょうね。掘って調べて、衣装とかも含めてガチガチに固めていくんじゃなく、シンプルに好きだという気持ちで自分たちのスタイルにしていくという。

アツシ「そうですね。たとえば、革ジャンを着て金髪で不良で、っていうパンク・ロック像があったうえで、〈俺が好きなのってパンク・ロックだったらどこなんだ?〉って考えるんです。それは金髪でも革ジャンでもなく、最終的にはハートの部分と歌なんだと思ったし、そこだけはちゃんと好きなものとして受け継いでいくし、世の中にそのいいところを出してやろうって考えられるようになったんです」