
幻想を抱く対象としての金星=Vesper
――Vesper the Aerialというバンド名にはどんな由来があるんですか?
Kiske「ReNの作る曲も踏まえて、世界中の色んな神話……ギリシャ神話とかメソポタミア神話、それらの神と結び付けられる宇宙に浮かぶ星座、その下で揺蕩う夜の海と、それを照らし道標となるかがり火とか灯台とか、色んなイメージが浮かんできたんですね。
その中で、モチーフとして金星を選びました。宵の明星や明けの明星と呼ばれるように、金星は神話においても夜の中で一番光り輝いてて目印になる美しいものと捉えられていて。そこでまず〈Vesper〉という言葉が出てきたんですけど、それだけでは伝え切れなくて、幻想的といった意味の〈Aerial〉をつけたんです。幻想を抱く先としての金星をモチーフにしたいなと。
さらに、その星を僕は人に見立ててるんです。昔から好きなTYPE-MOONのゲームは、よく人を星に例えるんですよね。それがしっくりきてて……。あと、本はめっちゃ読んできたので、そういった影響は大きいとは思います。海外/国内の小説やゲーム/アニメ文化の文字的な表現、中学のときによく聴いていたSound Horizonや筋肉少女帯などの文学的な物語などには、ずっと惹かれていたんです」
――歌詞を見ても、天文学から歴史から、色んなバックグラウンドが浮かんできますね。
Kiske「映画をモチーフにした曲も多かったりします。DeGrace時代からある“Lost Millennium”は『アラビアンナイト』に着想を得たものです。語り手であるシェヘラザードには実は思いが通じ合ってた清い関係の恋人がいたという架空の前日譚を書きました。
大義のために王に嫁がないといけない。ただ、王から信頼を得るには恋人と一晩でも結ばれることはできない。だから、王に嫁ぐ前、最後に手を重ねながら星空を見上げて一緒に過ごす一夜が千年にも匹敵するほどに感じられる。その思い出を胸にこの先を生きていく。そういう架空の物語なんです」
――だから、女性ボーカルが入る構成になっているんですね。
Kiske「そうです。(エボニー・ティアーズのカバーである)“Harvester of Pain”と”Lost Millennium”以外はすべてReNが書いた曲で、彼が映画やドラマをモチーフにしたものもあるし、僕なりに曲を解釈して映画や他作品に結びつけたものもあるし、あとは“Lycoris Immaculate”はお互いの共通の友人が題材になっていたりしますね」
SEやカバーを物語的に配置したアルバムのコンセプチュアルな構成
――ReNさんが最初に書いたのは“Unexist Nostalgia”でしたね。
Kiske「自分の選択が間違っていなかったのを確信した曲です。でも、DeGraceならではの曲を作ってくれたこともわかったし、もっと曲を重ねていくことで本来の持ち味が100%になるだろうなと。そこは“Blissful Another”以降の曲で吹っ切れた感があります」
ReN「Vesperの作曲家としてチューニングが合ったと言ったらいいんですかね。Vesperの語り手の後ろで弾くものを作る、文章を書く、雰囲気を作る、それが僕の役目やと思って書き始めたのが、2〜4曲目の“Blissful Another”“Lycoris Immaculate”“Paralyzed”かな。アルバムもそこから組み立てました」
――4曲目までで、このアルバムがどんな作品なのかわかりますね。
ReN「それ以降で言えば、“Halo”だったらオルタナティブじゃないですけど、ルーツとして影響を受けたものをストレートに出しています。普通にパッと思い付いたものじゃなく、実験的なことをしてみたのが“Avenger”だったり。色んな要素を足したり変化をつけたりしたのが後半ですね」
――アルバムを構成する上で曲のバリエーションは当然求められますよね。
Kiske「そうですね。曲順とかSEの置き方とかも含めて、すべて意識してます」
――インストゥルメンタルを1、5、10曲目に配置するアイデアも当初からあったんですか?
Kiske「ありました。それに基づいてReNに作ってもらって。SEだけタイトルを日本語にしてるのは、物語の補助線みたいにする意図からなんです。
まず絶望的な底の部分の感情から始まって、最後にアルバムタイトルの『Devote Eternal』という感情や感覚、意志に結びつくまでをストーリーにしていて、ほぼ狙った通りに全体が繋がってます」
――その中にエボニー・ティアーズのカバー“Harvester of Pain”をあえて入れたのは?
Kiske「まあ、〈めっちゃ好きやから〉が最初に来るんですけど(笑)。
アルバムの流れが見えてきたとき、シンプルなスピードナンバーがここに欲しいと思ったんです。で、オリジナルよりはリスペクトを示すカバーが相応しいんじゃないかと。
カバーってボーナストラック的にアルバムの最後に入れることが多いと思うんですけど、自分が参考にしたのはヘヴン・シャル・バーンのアルバムでの入れ方なんですね。例えばエッジ・オブ・サニティの“Black Tears”やブラインド・ガーディアンの“Valhalla”を彼らなりに咀嚼をした上で、流れの中のうまいところに置いていて。
今回の“Harvester of Pain”はメロデスを深掘りしてる人なら誰もが知ってると思うんですが、そうでない新しいリスナーにも今はもう活動していない素晴らしいバンドの楽曲に触れてもらえるきっかけの一つになってほしいという思いもありました」