モデル・アクトレス、ヤハウェ・ネイルガン、リップ・クリティック、デア、ギース……と役者が揃い、近年ふたたび活況を見せているNYの音楽シーン。なかでも異彩を放つのが、〈インディー・スリーズ〉なルックも目を引く姉弟デュオ、フロスト・チルドレンだ。2019年の結成以前は地元セントルイスでカヴァー・バンドをやっていたという姉エンジェルと弟ルル。ビートルズやグリーン・デイの曲を演奏し、その経験が「人々に愛されるような、強い個性を持った存在になりたいと思わせてくれた」とエンジェルは振り返る。
「私たちは〈いまのNYシーンのなかでは最大限のポップ〉って感じかな。興味を持っているのは、ポップなEDMにエモの要素を注ぎ込んだような、すごく濃密な表現だから」（エンジェル・プロスト）。
そう語る彼女の言葉は伊達じゃない。いわく「アタリ・ティーンエイジ・ライオットや90年代のブレイクコア／ハッピー・ハードコアの影響を汲んだ」2022年作『SPIRAL』でハイパーポップの文脈から急浮上すると、続く『SPEED RUN』（2023年）ではR&Bやポップ・パンクからスクリーモにまで及ぶ雑食性を大きく拡張。かと思えば、同年の『Hearth Room』ではアコースティック寄りのアプローチを打ち出すなど、その音楽性は〈マキシマリズム〉を謳う通り縦横無尽だ。昨年にはダニー・ブラウンや春ねむりとのコラボレーションが話題を呼んだことも記憶に新しい。
そんな彼らのニュー・アルバム『SISTER』は、2人が若い頃に親しんだ2010年代のEDMやプログレッシヴ・ハウス、さらに〈長兄のダブステップ・コレクション〉へのオマージュを込めた一枚。そこに初期作のデジタルな実験性やロック／パンク的なエネルギーが注がれ、ノスタルジーやトレンドを超えた現在進行形のダンス・ミュージック像を鮮やかに描き出している。
「ある種の電子音楽でいちばん聴き手の印象に関係するのは、ドロップやサウンド・デザインよりも曲そのものの強度だと思う。音的にもクールなんだけど、特にクルーウェラやアヴィーチー、ゼッドの曲はピアノやギターでも弾けるくらい、本当にしっかり書かれているんだよね。バラードみたいにも演奏できるように」（ルル・プロスト）。
そう語ったルルのイチオシ“Position Famous”は、力強いシンセのパルス・ビートとチャントが高揚感を誘う壮大なアンセム。かたやエンジェルは、大胆なドロップが際立つレイヴィーな“ELECTRIC”を〈ジャンプスターターみたいな曲〉と自負する。グリッチーなエレクトロニカの“CONTROL”、クラッシュしたパーカッションが耳に焼き付く“2 Løve”も強力だが、アコギと組み合わせた“Sister”ではアレックス・Gも想起させる〈揺らぎ〉が新鮮な魅力を放つ。そしてシンガーのキム・ペトラスをフィーチャーした“RADIO”は屈指のフロア・バンガーだろう。
「僕たちの姉弟としての絆は、歌う姿に表れていると思う。フック部分で一緒に歌う曲が多いんだけど、僕たちはそれを〈第3のキャラクター〉と呼んでいて。僕の声は低めで柔らかいトーンなんだけど、エンジェルの声は高くて明るい。それが混ざり合うと、〈完璧な中間〉みたいな感じになるんだ。血の繋がりを音で表しているみたいでクールだと思う」（ルル）。
今作のテーマである〈共依存〉や〈家族の絆〉について訊ねると、そんなふうに姉弟愛のあり方について説明してくれたルル。制作過程では互いの作ったビートを基に音を重ね合わせていく場面が多かったといい、つまり今作はフロスト・チルドレンとしての姉弟の関係性を改めて定義し直した作品、とも言えるのかもしれない。その上でルルは「まるで新人のアーティストに戻ったような感覚」になっており、「これまでの僕たちの音楽の進化版でありながら、まったく別の次元で存在しているような感じがする」と語る。
今作のリリースに先立ち、2人は米津玄師“KICK BACK”のリミックスを発表。また、Corneliusからの影響や中田ヤスタカへの愛着を公言するなど、日本の音楽への関心も高い。思いがけない方向へと広がっていく可能性も秘めた、今後の活動が楽しみだ。
フロスト・チルドレン
エンジェルとルル（共にヴォーカルほか）のプロスト姉弟から成るデュオ。ミズーリ州セントルイスで育った2人が2019年に結成し、翌年のEP『Aviation Creates Adventurous Beginnings』などの配信を経て、ファースト・アルバム『SPEED RUN』、セカンド・アルバム『Hearth Room』を2023年に発表。ポーター・ロビンソンやダニー・ブラウン、春ねむりらとのコラボでも話題を集めるなか、このたびサード・アルバム『Sister』（True Panther／Dirty Hit）をリリースしたばかり。
