台湾で30年以上もトップクラスの人気を誇り、中国や香港、シンガポール、マレーシアも含む北京語マーケットにおける最大のロックスターの一人とされる、伍佰(ウーバイ)。近年は大ヒットしたTVドラマ「時をかける愛」(2019年)と、この9月から日本公開されている映画「劇場版 時をかける愛」(2022年)の挿入歌“Last Dance”がTikTokで流行したことで知った人も多いだろうし、かの武藤敬司に贈った入場曲“閃光魔術”で記憶しているプロレスファンもいるかもしれない。

 そんな伍佰の本名は吳俊霖(ウー・ジュンリン)。〈500〉を意味する芸名は小学校の頃に5教科の試験ですべて100点を取ったことで近所の人たちに付けられたニックネームだそうだ。音楽の道を志して生まれた村から台北へ移り、90年代に入るとコンピやサントラに楽曲を提供するようになる。そして92年に本名でファースト・アルバム『愛上別人是快樂的事』をリリース。この年に結成したのが伍佰 & China Blueだが、自身がヴォーカル/ギターを務めるこのバンドは、それから不動の4人組で活動を続けている。

 英語圏のロックを参照した彼らの音楽性は、当時の台湾の歌謡界では珍しかったという。伍佰もレッド・ツェッペリンやジミ・ヘンドリックスに憧れてギターを始めたそうだが、そうした外来の要素と台湾的な作法への誇りが融合しているのも、彼らが幅広い世代の支持を獲得してきた理由なのだろう。転機になったというライヴ盤『伍佰的LIVE 激情’95 枉費青春』(95年)には、台湾で昔から親しまれていた“墓仔埔也敢去”(橋幸夫“恋をするなら”)や“愛你一萬年”(沢田研二“時の過ぎゆくままに”)のカヴァーも収録されていた。98年には初の台湾語アルバム『樹枝孤鳥』が60万枚以上のセールスを記録、中華圏でもっとも権威のある金曲奨(ゴールデン・メロディー・アワード)の〈年間最優秀アルバム〉も獲得して、一躍トップの存在になった。

 そんな伍佰はプロデューサー/ソングライターとして香港のアンディ・ラウやフェイ・ウォン、台湾のビビアン・スーをはじめとする面々に多くの楽曲を提供。一方では俳優や写真家としての顔も持ち、俳優としてはツイ・ハーク監督の香港映画「ドリフト」(2000年)で見せた渋い存在感が高く評価され、以降も映画やTVドラマで活躍している。

 そのように、もはやシーンの重鎮と言っていい伍佰だが、〈キング・オブ・ライヴ〉と称される通り、その人気の根底にあるのはバンドでの熱いライヴだ。台湾での動員記録をたびたび塗り替えた彼らはツアーで海外へも飛び出し、台湾の総統就任式やシンガポールの建国記念日コンサートなどの特殊な舞台でも演奏した(日本の福岡音楽祭に出演したこともある)。近年は、2018年から開始したワールド・ツアー〈Wu Bai & China Blue Rock Star World Tour〉を2024年にかけて開催。今年の4月からはその続きとなる〈Rock Star 2 World Tour〉をスタートし、来る10月2日には横浜・ぴあアリーナMMで来日公演も開催される。

WU BAI & CHINA BLUE 『純白的起點<純白の出発点>』 Universal Taiwan/ユニバーサル(2025)

 そんな来日公演の実現を記念して、初めての日本盤として今回登場したのが『純白的起點(純白の出発点)』だ。これは2023年に発表された現時点での最新オリジナル・アルバム。表題が示唆するのは〈新たな始まり〉で、大会場に映えるイントロダクションのような冒頭の“天使”からも壮大なスケール感は伝わる。まず耳を惹くのはブルージーなリフを備えたポジティヴなタイトル曲や、どこかビートルズを思わせるメロディーが印象的な“甜美的繩索(甘い縄)”、ピアノ一本から始まって猛々しいギターを交えた重厚な演奏にスケールアップしていく“重生(再生)”、オルガンの響きがノスタルジックな風情を醸す“筆畫(ストローク)”などバンド・サウンドの妙味を活かした楽曲だろう。一方で女性シンガー・ソングライターのタニア・チュアとデュエットしたバラードの“晴天雨天(晴れても雨でも)”、朗々と歌うニューミュージック調の“妳是我的完美(完璧なあなた)”、大らかに愛を掲げる“赴湯蹈火(たとえ火の中水の中)”などの歌謡性も人懐っこい。最後はタフで包容力のある“不要放棄(あきらめるな)”で力強く締め括られる。

 安易な洗練ではなく、汗だくの表情が浮かぶようなゴツゴツした野生味が歌唱にも演奏にも宿る。そこから伝わる親しみやすさと説得力こそが伍佰ならではの魅力だ。音楽の基準がマイルドな画一化に流れていく時代だからこそ、ここにある溢れんばかりの人間味にぜひ触れていただきたい。

 


ウーバイ&チャイナ・ブルー
伍佰(ヴォーカル/ギター)、小朱(ベース)、大貓(キーボード)、Dino(ドラムス)から成る台湾のバンド。92年にソロでデビュー作『愛上別人是快樂的事』を発表した伍佰が同年に結成し、当時の動員記録をたびたび更新する大規模なライヴを通じて〈キング・オブ・ライヴ〉と呼ばれる国民的なスターとなる。2023年の最新オリジナル・アルバム『純白的起點』(Universal Taiwan/ユニバーサル)が、10月2日のぴあアリーナMM公演の開催を記念してこのたび日本盤でリリースされたばかり。