天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の楽曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。今週は、〈BETアワード〉でスタートした1週間でしたね」

田中亮太「エンターテインメント業界で活躍中のアフリカ系アメリカ人や人種的マイノリティーの祭典ですね。音楽関係では、ジャズミン・サリヴァンの『Heaux Tales』が年間最優秀アルバム賞を受賞しました。シルク・ソニックタイラー・ザ・クリエイターらがパフォーマンスを行ったのですが、特に評判だったのはリル・ナズ・Xだった印象です」

天野“MONTERO (Call Me By Your Name)”のパフォーマンスの最後にリル・ナズが男性ダンサーにキスをしたことについて、マドンナが〈#DidItFirst(私が先にやった)〉とInstagramストーリーで発信したことも話題になりましたよね。ちょっと炎上しそうだったのですが、リル・ナズはTwitterで〈マドンナとは友達だし、ただのジョークだよ〉と諫めました」

田中「世代間対立を防いだわけですね(笑)。似たような話で、オリヴィア・ロドリゴの配信ライブ〈SOUR Prom〉用の写真がホールのアルバム『Live Through This』(94年)のアートワークに似ていて、それをコートニー・ラヴが指摘するというニュースもありました。Facebookでは相当怒っているみたいですね。これには、〈コートニー、器が小さくない?〉と思っちゃいましたが……。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から」

 

dvsn & Ty Dolla $ign feat. Mac Miller “I Believed It”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉は、dvsnとタイ・ダラー・サインが故マック・ミラーをフィーチャーした“I Believed It”。これはめちゃくちゃ素晴らしいですね。泣けます」

田中「ドレイクのレーベル、OVOサウンドに所属するカナダ・トロントのR&Bデュオであるdvsnと、米LAの売れっ子シンガーで〈フィーチャリング王〉の冠がふさわしいタイ・ダラー・サイン。タイ・ダラーはdvsnの2020作『A Muse In Her Feelings』からのシングル“Dangerous City”でフィーチャーされていて、その流れでの共演なのでしょう。マック・ミラーについては説明不要だと思いますが、2018年に亡くなったラッパー。タイ・ダラーは、マック・ミラーの名曲“Cinderella”(2016年)に参加していました」

天野「そんな3者の共演曲が、この“I Believed It”。dvsnとタイズのコラボレーション・プロジェクトからのシングルと言われています。コンチネンタル・IV“(You’re Living In A) Dream World”(72年)のヴォーカルをサンプリングしていて、すごくソウルフルです。温かなヒップホップ・ソウルっぽい仕上がりですね。プロデューサーは、タイ・ダラーとナインティーン85(Nineteen85)。dvsnのダニエル・デイリー(Daniel Daley)の歌が伸びやかで、それがまた涙腺を刺激します。ラスト・ヴァースのマックのラップを聴いたら、なんだか泣けてきて……。ヴィジュアライザーではマックの映像が使われていて、それも泣けますね」

田中「天野くん、〈泣ける〉しか言ってませんよ(笑)。とにかく、2組のジョイント作が楽しみですね」

 

Nas feat. Cordae & Freddie Gibbs “Life Is Like A Dice Game”

天野「2曲目も豪華な3組のコラボ曲です。ナズがコーデイとフレディ・ギブスをフィーチャーした“Life Is Like A Dice Game”。ビッグ・プレイリスト〈RapCaviar〉の企画で〈Spotify Singles〉としてリリースされました」

田中「40代後半のナズ、もうすぐ40歳になるフレディ、そして20代半ばのコーデイという、世代の異なる3人が共演しているところがいいですよね。ヒット・ボーイによるソウルフルでノスタルジックなヒップホップ・ビートがすごく感動的で、エレクトリック・ピアノやアナログ・シンセサイザーのメロディー、スクラッチが最高です」

天野「これ、実はナズが『Illmatic』(94年)のリリースよりも前の93年に録っていたフリースタイル、未完成のデモが原曲なんです。もともとは、おそらくイージー・モー・ビーがプロデュースラージ・プロフェッサーも関わっていたそうで、だからものすごく90年代っぽい。それをヒット・ボーイとフレディ、コーデイが2021年によみがえらせたっていうストーリーも、またいいじゃないですか。〈維持することは名声の代償、人生は博打みたいだ〉というサビのフレーズで歌われるテーマもいいですし、コーデイが〈『It Was Written』(96年)と同じ年に生まれた〉とナズのセカンド・アルバムへの言及をリリックに織り込んでいるのにもぐっときますね」

 

Big Red Machine feat. Taylor Swift “Renegade”

天野「ビッグ・レッド・マシーンは、ナショナルのアーロン・デスナーとボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンによるバンドです。2018年にデビュー・アルバム『Big Red Machine』をジャグジャグウォー(Jagjaguwar)から発表しています。それ以降動きがなかったのですが、2020年に再始動。今週6月27日からソーシャル・メディアへ投稿を始め、8月27日(金)に新作『How Long Do You Think It’s Gonna Last?』をリリースすることをアナウンスしました」

田中「〈それがいつまで続くと思う?〉というアルバム・タイトルが、コロナ禍の状況を言い表しているようで意味深ですね……。そんなBRMは、6月29日に“Latter Days”、30日に“The Ghost Of Cincinnati”と2つのシングルをアルバムからリリース。前者はアナイス・ミッチェルとジャスティンが歌ったボン・イヴェールっぽい曲、後者はアーロンが弾き語るフォーク・ソング、という感じでした」

天野「ビッグ・レッド・マシーンは大好きなんですけど、最初の2曲はそんなにぴんとこなかったんですよね。で、立て続けに本日7月2日にリリースされたのが、このテイラー・スウィフトをフィーチャーした“Renegade”。〈BRMといえば、これ!〉という最高の曲だと思いました」

田中「エレクトロニクスとナショナルっぽいバンド・サウンドがうまく溶け合っていて、BRMらしいプロダクションですよね」

天野「そうなんです。2020年に『folklore』『evermore』という傑作を作ったテイラーとBRMの2人の共演もすごく自然で、息が合っていますね。というか、『folklore』に収録されていてもおかしくない曲(笑)。フリート・フォクシーズやディス・イズ・ザ・キットが参加しているという、BRMファミリー総出の新作がめちゃくちゃ楽しみです」