昨年最後の大サプライズとして届けられた、『folklore』の姉妹作『evermore』。彼女のディープでフォーキーな音楽探究の物語はどこまで続いていく……?

もっと奥へと踏み込んで

 またもや、やってくれたテイラー・スウィフト。昨年夏に突然リリースされたアルバム『folklore』に続いて、わずか5か月足らずという短いインターヴァルを挿んで、しかも何の前触れもなくふたたびサプライズで9作目となるニュー・アルバム『evermore』をリリース。前作がいまだに全米チャートをぶっちぎり独走中のなか、新作をドロップするのは流石にもったいなさすぎ……という気もするけれど、そんなビジネス的な判断とは無関係、とにかく創作欲が収まりきらなかったのだという。テイラーいわく「つまり簡単に言えば、とにかく曲を書くのが止められなかったの」と打ち明けている(本人によるCDライナーノーツより)。また、彼女は重ねて「フォークロアの森からUターンすることもできたけど、もっと奥へと踏み込んで、彷徨ってみようと決心したの」とも記している。新作『evermore』は前作『folklore』の続編ともいえる位置付け。本人の言葉を借りれば〈姉妹作〉と呼ぶべきか。そのあたりの言葉選びのセンスがいかにも彼女らしくてニヤけてしまうが、同時に〈姉妹〉のように優しく寄り添うアルバムのサウンドを聴けば、そう呼びたい彼女の気持ちも大いに頷けるに違いない。

TAYLOR SWIFT 『evermore』 Republic/ユニバーサル(2021)

 『evermore』に関わっているスタッフは、ほぼ前作と同様の顔ぶれと、さらにその延長線上の人脈で構成されている。『folklore』でも共作/プロデュースで大いに腕を揮ったアーロン・デスナーが1曲を除くアルバムの全曲を手掛けており、最重要コラボレーターであるのは変わらない。さらにジャック・アントノフ、ジャスティン・ヴァーノンといったベーシックな顔ぶれも前作と同様。アーロンの双子の兄弟のブライス・デスナーがふたたび協力していたり、彼らのバンドであるナショナルもゲストで参加する。ボン・イヴェールとの共演もふたたび実現し、デュエットも披露するジャスティン・ヴァーノンは多数の曲でバック演奏も担当。またテイラーのワールド・ツアーでオープニング・アクトを務めたことがある3姉妹のハイムも、新たにゲストとして加わった。前作にクレジットされていたウィリアム・バウリーなる謎のソングライターももちろん参加し、共作とピアノ演奏で協力。その人物が実はテイラーの恋人である俳優のジョー・アルウィンではないかと、ファンの間ではかなり以前から囁かれていたが、先日ついにその通り、彼の変名だと明かされた。つまり比較的、小規模な身内のような仲間と共に作られた作品であり、そういう点も前作と似通っている。

 〈姉妹作〉であるからには当然ながら、前作と同様のインディー・ロック寄りのアプローチに則った、素朴でシンプルな演奏が繰り広げられている。牧歌的でフォーキーなヴェールの裏には常に静寂が横たわり、自粛生活のなかで作られたことも窺える。以前の彼女が得意としてきたカントリーやポップ系とは異なるジャンルではあるけれど、ソングライターとして飛躍的に成長しているのは誰の目にも明らかだろう。アメリカのルーツ・ミュージックに接近し、追求したいという意思もいっそう明確だ。