「すべての音楽にクラーヴェは存在する!」という説をナイーブな日本人の私に吹き込んだのは、コンガ奏者のリッチー・フローレスとドラマーのオラシオ“エル・ネグロ”エルナンデスだった。その後「ラテンは皆、そういってクラーヴェを特権化するんだ」と笑って否定したのはチック・コリアだった。
しかし、このアルフレッド・ロドリゲスのセカンドアルバムを聴くと、すべての音にサイレンスがある!とジョン・ケージに教えた日本人のように、ラテン人種はすべての音をクラーヴェでアーティキュレーションしているんじゃないかと、信じたくなる――たとえば沈黙でさえ、いやラテンに沈黙はなかった。
「君たちだって学習すれば、聴こえるよ(笑)」と言って、アルフレッドはクラーヴェ普遍説を否定しなかった。クラーヴェ、ジャズでいうところのスイングだ。かつて黒人が「ベートーヴェンだってスイングするのさ」と仰り、日本人は必至でスイングなるものを学習し、「沈黙だってスイングだ」とは言わないまでも、スイングを身につけたが、クラーヴェはまだまだ未開のグルーヴだ。
「伝統的なルンバ、サンテリアを徹底的に研究しました。キューバの伝統音楽では歌うこと、踊ること、演奏することが常に同時に起こり、この三つの行為すべてに調和とグルーヴを与えるのがクラーヴェなのです。私の音楽も、この三つが基本要素です。当然いろんなクラーヴェを感じること、演奏において直観的にクラーヴェを交換し合えることが演奏の前提です」
先のオラシオのころから、といってもざっと10年くらいのものだが、随分と進化したものだ。彼はキューバでもっとも新しい世代(つまりクラーヴェのグルーヴに取り組んできたアーティストとして)と言える。
「そうですね。バンドのメンバーはほぼ同世代です。オラシオやダフニス・プリエト、今回参加してもらったペドロ・マルティネスは尊敬する先輩、ですね。彼らの音楽は、我々の世代の音楽とは、違うと思いますね。あまり知られていないかもしれないですが、キューバから世界中に散らばったアーティストがいま、随分注目を集めるようになってきています。まだまだ変わっていくと思います」
北インドのリズムを自分の音楽語法に取り入れたメシアンのような冷めたクラーヴェへの視線と、次世代のウエザー・リポートを彷彿させる爆発的な熱さを併せ持つ稀な才能、アルフレード君、君は次、どこへ?
ひとまず、ラテンジャズの間違いない傑作といえるこのアルバム、ひたすら聴いて、雨音にもクラーヴェを感じられるようがんばります!