©PATHÉ PRODUCTIONS LIMITED AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2019

レネー・ゼルウィガーが全身全霊で演じる、伝説の「ミス・ショービジネス」最後の日々…ラスト・シーンでは、観る者すべての心に、はためくレインボー・フラッグが見えるはず。

 米国の児童文学を下敷きにした1939年の映画『オズの魔法使い』で、主人公のドロシー役を演じた(撮影当時16歳の)ジュディ・ガーランドによって歌われる、あまりにも有名な劇中歌“虹の彼方に”。全米レコード協会等が選定した「20世紀の名曲」でも堂々の第1位に輝くだけあって、カヴァーによる名唱・名演奏は数え切れないが、やはりオリジナルの歌唱が圧巻である。ジュディは同役で大ブレイクを果たし、ミュージカル映画を得意とする名門MGMの最盛期を支える看板スターとなった。しかし太りやすい体質ゆえに同社からダイエットを日々強要され、ハードなスケジュールをこなすために覚醒剤と睡眠薬を交互に与えられて依存症となり、アルコールの問題も加わって精神的に追い詰められ、頻繁に撮影に穴を空けるようになる。1950年にMGMから解雇された後はコンサート活動に活路を見出し、ロンドンのパラディウム劇場やニョーヨークのパレス劇場などで公演を成功させて再起を図り、1954年に『スタア誕生』で映画界にもカムバック。レディー・ガガ主演のヒット作『アリー/ スター誕生』(2018年)の元ネタでもある同作品でその演技と歌唱力を絶賛されるも、復帰を快く思わない映画関係者によってオスカー受賞を阻まれてしまう。

 そんな彼女を支えていたファンの中には同性愛者も多かった。虐げられ抑圧に苦しむ人々は、絶望的な状況から何度も立ち上がり、芸人根性に徹した体当たり的なパフォーマンスで観客を捉えて離さないジュディの圧倒的な「スター性」に魅せられ、代表曲の「あの空の虹の彼方に、夢が本当に叶う場所がある」という歌詞に自分たちの想いを重ねていた。その証拠に彼女が1969年に他界し、奇しくもその葬儀が行われた翌日の6月28日にニューヨークのゲイバー「ストーンウォール・イン」で警察に対する最初の大規模な暴動が起こり、この事件をきっかけに同曲“オーバー・ザ・レインボー/虹の彼方に”はLGBTQコミュニティを象徴する歌となり、レインボー・フラッグが性の多様性を表すシンボルとして掲げられるようになったのだ。

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 さて、『スタア誕生』後の彼女は歌手活動に専念。特に1961年4月23日にカーネギーホールで開催されたコンサートは「生涯最高」のライヴと謳われ、その録音盤(2枚組LP)も発売と同時に好調なセールスを記録してグラミー賞の「アルバム・オブ・ジ・イヤー」に輝いている。しかし表舞台でいくら「ミス・ショービジネス」と高く評価されようとも、私生活では結婚と離婚を何度も繰り返して住む家もなく、金銭感覚が欠如していたため次第に困窮を極め、宿泊費滞納でホテルから追い出されることもあったとか。今回の映画『ジュディ 虹の彼方に』で描かれるのも、そんなどん底状態だった晩年の彼女。まだ幼い娘と息子を(3人目の)元夫に預けたジュディは、ギャラ欲しさに引き受けた仕事のために1968年の冬、ロンドンはウエストエンドのナイトクラブ「トーク・オブ・ザ・タウン」のステージに立つのだった。

 劇中のショーでジュディが最初に歌うナンバーとして登場するのは“バイ・マイセルフ”。「自分の道をひとりで歩いていく。ロマンスが終わったから、ひとりで生きていくの…」と自らに言い聞かせるように静かに歌い始めて、次第に熱を帯びてくる彼女ならではのパフォーマンスが忠実に再現される様は感動的。ジュディ役のレネー・ゼルウィガーは厳しいレッスンの末に、スポットライトの下でカリスマ性を放つ華麗なる歌唱を、完璧に自分のものにしている。加えてその身のこなしや喋り方、佇まいまでも彼女そのもの。そして、子どもたちの心が離れていく恐れや過去のトラウマによって精神的に不安定になり、深酒に次第に追い詰められていく絶望的な姿をも見事に演じきった!

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 それにしても、やはり歌のシーンが素晴らしい。同性カップルの家に招かれたジュディが夜中、ピアノ伴奏にあわせて優しく口ずさむハロルド・アーレンの名曲“ゲット・ハッピー”も心に残るが、終盤で「ステージ魂」に再び火が付いた彼女が絶唱する“カム・レイン・オア・カム・シャイン”(※こちらも、“虹の彼方に”と並ぶアーレンの代表作)が本当に圧巻。公開にあわせて国内盤もリリースされるオリジナル・サウンドトラックもまるでレネーのソロ・アルバムのような内容で、しかも“ゲット・ハッピー”は現代のゲイ・アイコンのひとりであるサム・スミスとの共演版。更には“ハヴ・ユアセルフ・ア・メリー・リトル・クリスマス”のような劇中には登場しない曲が、熱狂的なジュディ・ファンで「1961年のカーネギーホール公演」を自分のライヴで完全再現していることでも知られるルーファス・ウェインライトとのデュエットで収録されているのも嬉しい。

 「私、まだどこかで信じているのよ。客との間に生まれる愛を…」と呟くジュディがクライマックスで終生のテーマ・ソング“虹の彼方に”を歌う時、素敵な奇跡が起きるのをぜひ、劇場で見届けて欲しい!

 


映画「ジュディ 虹の彼方に」
監督:ルパート・グールド
原作:舞台 『End Of The Rainbow』 ピーター・キルター
音楽:ガブリエル・ヤーレ
音楽監督・アレンジ:マット・ダンクリー
出演:レネー・ゼルウィガー/ジェシー・バックリー/フィン・ウィットロック/ルーファス・シーウェル/マイケル・ガンボン/リチャード・コーデリー/ロイス・ピアソン/ダーシー・ショー/アンディ・ナイマン/ダニエル・セルケイラ/ベラ・ラムジー/ルーウィン・ロイド/他
配給:ギャガ(2019年 イギリス 118分)
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gaga.ne.jp/judy
◎2020年3/6(金)全国ロードショー