〈レジェンド〉なる愛称でファンに親しまれ、東京ローカルのアイドル・シーンで異彩を放つシンガー・ソングライターの小日向由衣が、ファースト・アルバム『夢じゃないよ』を2月にリリース。本作は8年に及ぶ自身のキャリアを総括する内容で、18曲74分にも及ぶ大作となった。そんな『夢じゃないよ』を巡る制作プロセスや店頭展開のあれこれについて、話を訊いた。
〈三十六房〉でCD-Rを売ることがCDリリースに結びついた
「あの、全然関係ない話していいですか?」
――はい。
「私のCD、ほぼほぼタワレコの渋谷店にしか置いてないんですよ」
――ああ。今回のCDは初の全国流通盤なんですよね。ただ、全国のお店でオーダーできる状態ではあるけれど、結局オーダーがなかったら置かれないから全国流通も何もという感じになっちゃうんですよね。
「そうなんですよ。だからこれからの目標は知名度のアゲですよね」
――アゲだと思います。
「それに、お店に置いてもらったときに〈売る〉っていう成果も出さないといけないじゃないですか。置いたけど売れなかったっていうことになったら……でも待ってください。次回作に期待してください!」
――いきなり次回作の話(笑)。
「だって、アルバムはもう全部〈アイドル三十六房〉で売り尽くしてる曲なんですよ」
――シングルCD-Rを作るたびに売ってましたもんね。今回の『夢じゃないよ』はミックスやテイクは違うものの、これまで出してきたベスト盤的な作品で。
「だから次のアルバム作りたくてウズウズしてるんですよ」
――次回作の話をする前に今回の作品を知ってもらってしっかり売りましょうよ。
「さすが大人ですね。あれじゃない? 物販で稼いだお金で私が買いに行くしかなくない?」
――自分で買う(笑)。
「私がまた在庫を抱えて、それをまた売れば、プラマイはゼロになるわけでしょ?」
――流通とかお店にも売り上げが入るからマイナスですよ(笑)。小日向さんのところに入るのは価格の半分くらいじゃないかなと。
「そうなんだ! あんまり細かいことは気にしてなかった」
――インストアイベントをやったりするとお店に取ってもらえますよね。ディスクユニオンでやってましたよね。
「でも、インストアをやったあとは返品されちゃう」
――インストアが終わっても返品されずに売れ続ける作品にしないといけない。
「難しい世界ですね」
――知ってもらうためにポップを書かせてもらおうと思ってお店に挨拶に行っても、そもそもCDがなかったりするし。
「わかりますわかります。ウェルカムな対応をしてもらえるのは渋谷店だけですよ! 私の力不足なんですよね。でも私、CD-Rを頻繁に作って〈三十六房〉で売りに来てたじゃないですか。そのお陰さまでこれに結びついてるんですよ。CD-Rを売ることでCDに結びついたんです」
――シングルを売ってアルバム作るというのはわりと普通の流れですよ。
「え? でも、CD-Rってすごいんですよ。1200円くらいで50枚くらい買って、ウィーンって作ったら1枚500円くらいで売れる。こんなことってあります?」
――ほかにも音源制作費とか色々かかるでしょう(笑)。でも、たくさん作ったらCDをプレスするほうが単価下がりますよ。自分でウィーンって一枚ずつ焼いたりしなくていいし。
「ええ!? いや、それはかっこいいですね。〈CD-Rってコストかかっちゃうからプレスしないと~〉って言いたい!」
――そうなるように頑張っていきましょう(笑)。小日向さんはキャラのインパクトが強いので、存在は知っているけど音楽まで辿り着いてないという人もいるんじゃないかと思うんです。
「そう! 最近それを考えたときに、私の性格のせいで音楽が届かないんじゃないかと思って。どうにかMCをしないでスッとした感じでやろうと思ってやったのに、それでも変だって言われたりもして。静かにしてると、近いオタクには病んでるとか元気がないみたいな反応もされるから難しいんですよね。でも、〈ライブはよかったけど、MCの感じを見たら近づいちゃ危ないと思った〉みたいなツイートを見ると……そんなに変ですか!? 自分を抑えようとするとうまく喋れなくなっちゃって、用意してた告知とかもスラスラできなくて、涙だけが出てきて」
――それはしんどいですね。
「もうしょうがないから、恐くて近づけないという人は諦めて、これでもいいと思ってくれる人に向けていくしかないかなと思いました。だって、できないんだもん。あと私、ぽんずになろうと思って」
――ポン酢ですか。
「ぽんず名義で曲を出せば、私だって気づかれずに曲だけが聴かれると思って」
――この段階で小日向由衣というバックグラウンドを捨てて音楽だけで勝負する?
「あ、無理ですね。変な人で知れ渡っててCD置いてもらえてないのに、突然ぽんずでCD出しても相手にされるわけないですね(笑)」