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インタビュー

小日向由衣『夢じゃないよ』南波一海が訊く〈レジェンド〉の目指す先

小日向由衣『夢じゃないよ』南波一海が訊く〈レジェンド〉の目指す先

〈レジェンド〉なる愛称でファンに親しまれ、東京ローカルのアイドル・シーンで異彩を放つシンガー・ソングライターの小日向由衣が、ファースト・アルバム『夢じゃないよ』を2月にリリース。本作は8年に及ぶ自身のキャリアを総括する内容で、18曲74分にも及ぶ大作となった。そんな『夢じゃないよ』を巡る制作プロセスや店頭展開のあれこれについて、話を訊いた。

小日向由衣 夢じゃないよ こっこっこレコード(2020)

〈三十六房〉でCD-Rを売ることがCDリリースに結びついた

「あの、全然関係ない話していいですか?」

――はい。

「私のCD、ほぼほぼタワレコの渋谷店にしか置いてないんですよ」

――ああ。今回のCDは初の全国流通盤なんですよね。ただ、全国のお店でオーダーできる状態ではあるけれど、結局オーダーがなかったら置かれないから全国流通も何もという感じになっちゃうんですよね。

「そうなんですよ。だからこれからの目標は知名度のアゲですよね」

――アゲだと思います。

「それに、お店に置いてもらったときに〈売る〉っていう成果も出さないといけないじゃないですか。置いたけど売れなかったっていうことになったら……でも待ってください。次回作に期待してください!」

――いきなり次回作の話(笑)。

「だって、アルバムはもう全部〈アイドル三十六房〉で売り尽くしてる曲なんですよ」

――シングルCD-Rを作るたびに売ってましたもんね。今回の『夢じゃないよ』はミックスやテイクは違うものの、これまで出してきたベスト盤的な作品で。

「だから次のアルバム作りたくてウズウズしてるんですよ」

――次回作の話をする前に今回の作品を知ってもらってしっかり売りましょうよ。

「さすが大人ですね。あれじゃない? 物販で稼いだお金で私が買いに行くしかなくない?」

――自分で買う(笑)。

「私がまた在庫を抱えて、それをまた売れば、プラマイはゼロになるわけでしょ?」

――流通とかお店にも売り上げが入るからマイナスですよ(笑)。小日向さんのところに入るのは価格の半分くらいじゃないかなと。

「そうなんだ! あんまり細かいことは気にしてなかった」

――インストアイベントをやったりするとお店に取ってもらえますよね。ディスクユニオンでやってましたよね。

「でも、インストアをやったあとは返品されちゃう」

――インストアが終わっても返品されずに売れ続ける作品にしないといけない。

「難しい世界ですね」

――知ってもらうためにポップを書かせてもらおうと思ってお店に挨拶に行っても、そもそもCDがなかったりするし。

「わかりますわかります。ウェルカムな対応をしてもらえるのは渋谷店だけですよ! 私の力不足なんですよね。でも私、CD-Rを頻繁に作って〈三十六房〉で売りに来てたじゃないですか。そのお陰さまでこれに結びついてるんですよ。CD-Rを売ることでCDに結びついたんです」

――シングルを売ってアルバム作るというのはわりと普通の流れですよ。

「え? でも、CD-Rってすごいんですよ。1200円くらいで50枚くらい買って、ウィーンって作ったら1枚500円くらいで売れる。こんなことってあります?」

――ほかにも音源制作費とか色々かかるでしょう(笑)。でも、たくさん作ったらCDをプレスするほうが単価下がりますよ。自分でウィーンって一枚ずつ焼いたりしなくていいし。

「ええ!? いや、それはかっこいいですね。〈CD-Rってコストかかっちゃうからプレスしないと~〉って言いたい!」

――そうなるように頑張っていきましょう(笑)。小日向さんはキャラのインパクトが強いので、存在は知っているけど音楽まで辿り着いてないという人もいるんじゃないかと思うんです。

「そう! 最近それを考えたときに、私の性格のせいで音楽が届かないんじゃないかと思って。どうにかMCをしないでスッとした感じでやろうと思ってやったのに、それでも変だって言われたりもして。静かにしてると、近いオタクには病んでるとか元気がないみたいな反応もされるから難しいんですよね。でも、〈ライブはよかったけど、MCの感じを見たら近づいちゃ危ないと思った〉みたいなツイートを見ると……そんなに変ですか!? 自分を抑えようとするとうまく喋れなくなっちゃって、用意してた告知とかもスラスラできなくて、涙だけが出てきて」

――それはしんどいですね。

「もうしょうがないから、恐くて近づけないという人は諦めて、これでもいいと思ってくれる人に向けていくしかないかなと思いました。だって、できないんだもん。あと私、ぽんずになろうと思って」

――ポン酢ですか。

「ぽんず名義で曲を出せば、私だって気づかれずに曲だけが聴かれると思って」

――この段階で小日向由衣というバックグラウンドを捨てて音楽だけで勝負する?

「あ、無理ですね。変な人で知れ渡っててCD置いてもらえてないのに、突然ぽんずでCD出しても相手にされるわけないですね(笑)」


2日間かけて打ち込んだらデータが1小節も残ってなかった

――いまのまま勝負するのがいいと思いますよ。アルバムは1年以上前から出すという話は出てましたよね。

「諸事情で一度流れちゃったんですよね。で、改めてこれを作ろうとなったときに、当時レコーディングしたのを聴いたら、歌がひどかったんですよ。初めてアルバムを作ろうと意気込んでいたから、めっちゃうまく歌おうとしていて。私、歌がうまくないんですよ。それが宇多田ヒカルみたいな歌唱力ある人っぽく歌おうとすると、ただのイタい人、つらい人になるというか。うまい風に歌ってる人みたいな感じになってて、これはひどい、(リリースの予定が)止まってよかったって思ったんです」

――リリースが一旦止まったことで冷静になれたんですね。

「そう。私の特徴みたいなのが全部死んでて。ビブラートができないのに無理したりしてたんです。ボイトレの先生から〈ビブラートがなくても魅力的な歌手になれるので、もう教えません〉って言われるくらいできないのに(笑)。それで歌ウマみたいなのをやめて、全部録り直したんです。そうしたらここまで時間がかかっちゃったんです」

――CD-Rのシングルで出してきたものと比べて仕上がりの手応えはどうですか? ライブを重ねてきたことで変わったところもあると思うんです。

「当時のシングルを聴いて、その良さを活かしつつ、ここはガサガサしてるなとか、この曲にはもうちょっと優しく歌ったほうが声質が合うなとか、こう歌うと歌詞が聴き取りづらいんだなっていうところを意識して録り直していきました。逆に、自分ではつい直したいなって思っちゃうクセでも、業者2(※アレンジャーの呼称)が〈そこがいいんだよ〉って言ってくれたところは変えずに歌ったりして、レコーディングを進めていきました」

――結果的にはしっかりと成長が刻まれていて。

「そうなんですよ! どうでしたか?」

――まず思ったのは、長い(笑)。74分みっちり入ってるアルバムを聴くのは久々でした。

「ご苦労様です」

――積み重ねてきた歴史を感じました。

「3年くらい前は4曲しかなかったので、怒涛ですよね」

――曲はどういうときに作っているんですか?

「常に作りたいです。普段から、例えばニュースとかを見て悲しいと思ったり、感情が動いたときに、〈ああ、この気持ちを歌にしたい!〉って……はは(笑)」

――自分で言ってて恥ずかしくなってるじゃないですか(笑)。〈この気持ちを歌にしたい〉と思うわけですね。

「何言ってんの私って感じですけど。この気持ちとか、こういうワンフレーズの歌詞に合う曲調はこっち系だなって思いついたら、もう早く作りたいって気持ちになります。ワンマンの準備とか宣伝とかをしないといけないときは作るのを我慢しないといけないんですけど」

――我慢しないといけないくらい曲を作りたい。

「もう楽しいんですよ」

――常に頭のなかで鳴っている音楽を、業者2との作業で形にしていくと。

「業者2はとことん一緒にやってくれるから助かります。前に自分で打ち込みで作ろうと思ったんですけど、まず、打ったものがすぐ消えるんです」

――消えますか。

「YouTubeで使い方動画とかを見ながら、8小節を何時間もかけて打ち込んで。これをコピーして繋げたいと思ったら、消える。〈Why?〉ってなりながらまた取り組んで。不眠不足・・・・で」

――不眠不休で。

「ボウルにご飯をよそって海苔と一緒に隣に置いて、お腹空いたらそれを食べながらやるくらいのペースで、寝て起きたらすぐやるってくらい没頭したことがあったんですよ。それくらい夢中になったんですけど、2日間やってたら、お姉ちゃんが来たんですよね。私に連絡が取れないってことで」

――心配になってお姉さんがやって来た。

「そこで私がヘロヘロになってたので、〈やめなさい! 死ぬよ!〉って怒られたときに、打ち込んだデータが1小節も残ってなかったんですよ(笑)。これをやってましたっていうのが何も残ってなくて、私、打ち込みを覚えようとしたら人生を棒に振ると思ったんです。だからこれは専門の人に任せようと思って。ドラムスの音でも、止める叩きかたじゃなくて弾む叩きかたがいいって頭では思っていても、機械の中からその音を探すのがめっちゃ大変なんですよ」

――欲しい音色に辿り着けない。

「なのに、やたら拍手はいっぱいあるし」

――ドラムの音色を探すとクラップが何種類も出てきますよね(笑)。

「この拍手を消そうとすると全部消しちゃう、みたいな。でも業者2だと、私が口で言ったのを〈これ?〉って出してくれるんですよ。で、YouTubeを漁って〈この後ろで鳴ってる音〉って伝えたりすると、〈ああ、これはピアノじゃなくてこの楽器だよ〉って教えてくれる。私の基礎知識のなさとかわからないものまで理解した上で作業してくれるんですよね」

――そもそも探す場所から違ったりするけれど、それすらも受け入れてくれるわけですね。

「名前も英語でさっぱりわからないじゃないですか。その英語をGoogleで調べるところからやらないといけないから、膨大な時間をかけないといけない。〈Bass? ベースだったのか!〉みたいな」

――もうちょっと難しい単語を検索してるのかと思いました。

「でもベースも色んな種類があるじゃないですか。これ全部ベースなのかよっていうくらい」

――覚えるのが大変というのはわかります。ともかく小日向さんにとことん付き合う業者2もすごいですよね。

「あの人は本当に音楽バカなんですよ。音楽のことしかできない、私と同じ〈できない〉タイプの人。業者2がいるから形にできてます。仮にイメージと離れたものが出てきても、そうじゃないって伝えると、自分の考えを押し付けずに一緒に詰めていけるんですよね」

――小日向さんの頭には確たるものがあって、アレンジを完全にお任せしているわけではないというのがポイントだと思っていて。

「じつは明確なんです」

――こういう会話もそうですよね。頭の中で思っていることはあっても、言葉にして伝えるのって大変じゃないですか。

「そうなんですよ! インタビューとかでも質問された内容に返せなかったりするので」

――通訳として機能する人の協力があるからこれだけの曲を作れてきたわけだし、楽しいんでしょうね。「それはありますね。業者2も楽しんでくれているのがわかるので、それも楽しいです。いつも私が〈ズンチャズンチャズンチャ〉みたいに口ずさんで伝えちゃうんですけど、そこから私が求めるものを模索してくれて、正解が見つかったときに乗ってくる温度感が楽しいです」

――参考のYouTubeを見せるのはどんなときなんですか?

「それはピンポイントで。例えば“ドッペルゲンガー”のイントロのホワーンって音が欲しいときに、口でホワーって言っても伝わらなかったときに、どっかになかったかなって調べて引っ張ってきたりします」

――以前、“水色”はMaison book girlっぽい音使いだねと話したら、小日向さんは全然知らなくて。でもよくよく聞いてみたら、参考にした曲は大森靖子さんの“ピンクメトセラ”だったんですよね。あの曲は編曲がサクライケンタさんなのでほぼ正解だったという。

「そうそう。“水色”は最初、業者2のなかでは青春ロックみたいな感じだったんですよ。もっとポコポコしてる感じにしたいんだよなって色々探してる時期に、友達とカラオケに行ったら、友達が歌ったのが大森さんのあの曲だったんですよね。この音色いいじゃんと思って、業者2にこの音ですって伝えたんです」


すべてを〈できない〉わけではない

――そういうリファレンスがあちこちにあるのが面白いなと思います。それから、小日向さんの特徴は何と言っても歌詞ですよね。さっきも話した〈できない〉こと、つまり社会や人と噛み合わないことや、怒りとか寂しさが歌われているのがグッときます。どんなふうに書いているんですか?

「何小節かはそのときに思ったことで、そこから膨らませることが多いです。例えば“水色”だったら〈青い空が落ちてくる 気づいて 溢れちゃいそう〉の部分が最初に出てきたんですよ。〈山梨あいどるフェスティバル〉に出たときに、山梨の風景ってビルもなにもないから、どっちが上か下かわからなくなるような空だったんですよね。その不思議な感覚から最初の歌詞が思いついて。いまは眉村(ちあき)とかオタクとかみんなと仲良しみたいな感じで一緒にいるけど、東京に帰ればバラバラになるし、そこにいる人たちは私のファンじゃない人もいるから、もう会えないかもしれないから寂しいなという思いを曲にしたいと思ったんですよね。あとはお母さんが不幸に生まれてきちゃったから仕方がないってことばかり言ってたのを否定したい気持ちとか、色々なものが混ざって一曲になりました」

――noteに綴っている文章を見ても、言葉の人なんだなと思います。

「少し前からnote新規が現れるようになって。現場には行けないけどnoteを読んで音源を買うみたいな人も結構いるんです。そういう人も含めて、私を面白いと思ったり、共感できると思ってくれる人たちに向けて、私は幸せになるから見ててほしいなっていう気持ちも込めた歌なんですよね」

――だからすべてを〈できない〉わけではないんですよね。言葉を通じて人の心を動かすことができているわけで。

「人よりできない人間として生まれたこととか、こういう生い立ちだから不幸だとか、嘆きたくもなるし、実際嘆いているけれど、何をすれば楽しいかっていうのを見つけていきたいんですよ。生まれたらどうせ死ぬんだから、諦めない。どんなハンディを背負っても、心の持っていきかたできっと幸せになれるんじゃないかなと思って。私はマイナス思考で、何もプラスには考えられないタイプだから大変なんですよ。楽しいと感じて生きるのは大変だけど、それをプラスに変えるきっかけを掴めたなと思ってもらえたら嬉しいなと思ってます」

――“コミニュケーション廃止”の〈のびたカップ麺〉だって、全然コミカルな描写じゃなくて、何かひとつ行動が挟まるとお湯を入れたことを忘れてしまうんですよね。

「そう! 後になってうわーっていう。これを直そう直そうと思ってるのに直せないんですよ。スマホがおかしくて致命的に不便なんですけど直せない、とか(笑)。修理のお金がないわけでもないのに!」

――曲名や言動からユーモラスな印象を受けるんだけど、じつは繊細で切実な描写があちこちにあるなと思います。“モップは何も語らない”とか。

「“モップは何も語らない”は最初、業者1とやっていたんですけど、完全におちゃらけた歌詞だと思われていて。でもこれは、バナナの皮で転んだから始まるバカな歌だと思われてもいいし、わかる人にはなんて深い歌なんだって思われる歌にしたかったんですよ。ちゃんと意味を持たせたいっていう話をしたら、業者1に〈この曲聴いて泣く人がいると思います~? 面白いに決まってるじゃないですか~?〉って言われて……。その点、業者2はわかってくれる。“メンタルパイプハンガー”は業者2がメタルチックな曲を作りたいって言い出したんですよ」

――メタルにラップが乗る曲ですよね。

「私、メタルとか聴かないし全然わからないんですけど、出だしの音をちょっと作ってもらったので、帰りの電車で〈すり減ったメンタル 来いか恋か 干からびた心に 水をくめ!〉ってボイスメモに録音して送ったんですよね。そしたら〈すり減ったメンタルなんて共感しまくりだよ!〉って言ってくれて。同じ側の人だなって(笑)」

――音だけじゃなくて歌詞の面でも理解してくれる人に出会えたのはよかったなと思います。それから、“キラキラ”はミスチルみたいな90年代のJ-Popだなと感じました。いまとは作風が違いますよね。

「あれはジュディマリなんですよ。“空想少女”“キラキラ”“ストールンハート”“どうしようもないウソ”は8年くらい前に作った曲で、当時は未来の希望とか恋に溢れてたんでしょうね。明るさが見受けられる。“キラキラ”は一番化けた曲だと思います。生き返ったという意味でよくなった曲だと思う。で、“妄想するなら”“コミニュケーション廃止”“モップは何も語らない”は3年前くらいに作った曲で、頑張った結果、生きづらさがピークに達している頃です(笑)」

――その後の近作ではモードもまた変わりましたか?

「生きづらさのもう一歩先をうまく表わせたらいいなと思っているんですけど、なにせ生きづらい渦中にいる人間なので(笑)。先が見えてたらもっとうまくいってると思います。でも、最近は深く考えずに、感じたことをそのまま表せたらなと思って作ってますね」

――小日向さんの短くない歴史がここにまるっと収録されたわけですが、冒頭で話してくれたように、今はすでに次の作品への意欲が湧いている段階なんですよね。

「はい。私には業者がいるので、すごい勢いで曲を作れる制度が整っているので。8年前はオリジナル曲を作ってもらう課金バトルでアイドルが競ったりしてるのを傍から見てたんですよ。これ、誰が得してるって主催者じゃん、みたいな。いまはそんなのに参加する必要がないですよね。ストックも何パターンかあるから、そこから膨らませて形にすることもできると思うし、きっと半年とかでできちゃいますよ。楽しみです。でも、まずはこれ(『夢じゃないよ』)をもっとみんなに聴いてもらうことからですね」

 


LIVE INFORMATION
小日向由衣&なりすレコードpresents
「ラママを救え!ソフトクリームフェスティバル vol.1」

2020年3月25日(水)東京・渋谷La.mama
開場/開演:18:30/19:00
予約/当日:2,200円/2,500円+ソフトクリーム食べ放題1,000円
(開場から終演までラママのソフトクリームが食べ放題/ドリンク希望の方は別途ご購入下さい)
出演/イヴにゃんローラーコースター、ponz(小日向由衣バンド)、honninman、ぼんぼん花ーーー火、るなっち☆ほし
予約:https://tiget.net/events/89579

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