(左から)吉田豪、小日向由衣

〈レジェンド〉ことシンガーソングライター/アイドルの小日向由衣が、前作『世界が泣いてる』(2021年)から2年、ニューアルバム『恋愛ハラスメント』をついに完成させた。〈短冊CDの日〉にリリースしたシングル“天の川ぶち壊す!”などを収録しているほか、故PANTA(頭脳警察)が小日向由衣にインスパイアされて作った“虹のほほえみ”のカバーもボーナストラックとして収めた、キャリアの集大成的な内容になっている本作。曲作りのスランプを乗り越えて作り上げたというアルバムの背景に、プロインタビュアーの吉田豪が迫った。

小日向由衣 『恋愛ハラスメント』 こっこっこレコード/なりすレコード(2023)

 

この調子でアルバム作れるのかな

――2年前のアルバムのときは、小日向さんが自腹を切ってボクをインタビュアーとして雇って記事を公開したんですよね。

小日向「そうなんです。noteで公開したんですけど、訳あって今は有料にしてます」

――パブ記事なのに(笑)。今回はちゃんとした記事です! この『恋愛ハラスメント』は人知れず発売を二度延期してたみたいですけど、何があったんですか?

小日向「曲がぜんぜん作れなくて。(誕生日の)7月27日発売で動いてたんですけど、ダメで諦めたんです。誕生日にこだわらなくてもいいかなと思って8月に出せるよう動いてたんですけど、それも間に合わなくて。制作の打ち合わせも行くだけ行ったみたいな状態でした」

――曲はないけど打ち合わせだけはしましょうと。

小日向「たくさんのボヤが……」

――ボヤ……?

小日向「まだメロディとかはないんだけど、こういう曲にしたいって枠組みだけのボヤが頭の中に5、6個あったんです。でもその先が見えなくて、糸口を掴みたい気持ちと今年こそアルバムを出したい意欲はあって打ち合わせに行くんだけど、〈何しに来たの(笑)?〉って言われる状態で。あと業者ってメンタル弱いんですよ」

――〈業者〉っていうのはアレンジ担当の方のことですね。

小日向「はい。どちらかというと、今までは私が業者を引っ張ってきたんです。リリースに向けて業者が編曲で病んでくから」

――小日向さんは音楽知識がないなか手探りで曲を作ってるから説明が伝わりづらくて、編曲担当の業者さんは何が正解かわからずメンタルをやられちゃうわけですかね。

小日向「〈そうじゃなくて、もっと刻むの!〉とか〈これはラララ~に聞こえるけど、もっとラ・ラ・ラ!って感じなの!〉とか、そういう編曲の説明をするから業者じゃないとわかってもらえない(笑)。それで自信を喪失させちゃったり。私は知識がないぶん、ひらめきが強いから、〈こういうのを入れたらいいじゃん!〉って言ってうまくいくと業者が〈そんな思いつきもできずにごめんなさい……〉って感じになっちゃったり。

メンタルの弱さは似てるところがあって、いつも私が励ましてたんだけど、今回は逆で業者に心配されてました」

――小日向さんの日記に出てきた打ち合わせの描写が理解できなかったんですよね。〈打ち合わせだった。机の下に潜り込んで精神統一をしていた。だんだん眠くなってしまった〉って、これが打ち合わせ(笑)?

小日向「アハハハ! 業者の事務所みたいな作業場所は狭くて居場所が少ないんです。私が打ち合わせに行っても何もできず、ごめんなさいって謝るしかできなくて、〈でも来ただけで偉い、すごいよ!(拍手)〉って褒めてくれるんですね」

――ハードルがえらい低い(笑)。

小日向「それで申し訳なくって机の下に潜り込んで〈ちゃんと考えます……。業者は他の作業してて大丈夫です……〉って言って。それで私はどんな曲を作りたいのか、ボヤの糸口を探したいと思って考えてたら、だんだん眠くなってきちゃって。業者に〈もしかして寝てる?〉って聞かれて、ハッと起きて(笑)。

打ち合わせ自体もやっとの思いで行ってるから、着いたのも夕方4時ぐらい。そこから夜6時まで2時間、机の下に潜って〈あっ、時間ですね。帰ります〉っていう(笑)。

〈何しに来たんだろう? 人の時間を奪って〉って自己嫌悪になって……。この調子でアルバムを作れるのかなって、しんどくなっちゃったんですね」

 

小日向由衣、失踪?

――曲作りはメンタルが落ち着いてるほうができるんですか? 逆に追い込まれてるほうができるとか?

小日向「私は期限が決まってないと作れないですね。そうすると自分に負荷をかけられるから作れるんですけど。『世界が泣いてる』のあと、毎年誕生日にこだわってアルバムを必ず出すんじゃなくて曲が揃ったら出そう、納得がいったときに作ろうと思ってたら、私、一向にやらなくて」

――イベントのために新曲を作るとか、何か企画がないと曲が増えないわけですね。

小日向「SHAKE(シャケ)って場所でライブをするから“シャケのベイビーはいくら”(2022年)を作ろうみたいな」

――“もしも魔法が使えたら”も対バン企画※で作った曲ですよね。

※2022年12月18日に東京・アプロ赤坂で開催された〈yumenouragawa × 小日向由衣ツーマンライブ「ふたりの魔法」〉

小日向「そうです、イベントに向けて魔法をテーマにした曲を作ろうって話になって、考えて作った曲で。

1小節や1コーラスの断片や言葉の種はいっぱい溜めてたんですよ。でも、どんな曲を作りたいかを考えて、それらを組み合わせて形にする作業は追い込まれないとできなくて」

――ところが、今回は追い込まれてもできなかった。

小日向「はい……。もともと今回は『世界は泣いてる』よりポップで明るいものを作りたいと思ってたんです。前作を作り終わったあと、私、〈次は恋愛ソングのアルバムを作りたい〉ってインタビューで語ってたんですね。結果、ハッピーな恋愛ソングは作れなかったんですが」

――前作同様、暗いオーラが漂ってますよ(笑)。

小日向「ちょっと明るくなったかもしれませんが、根本は変わらなかったんですね(笑)。ハッピーでマシな未来が見えるようなものを作りたいって考えると落ち込むんです」

――なぜ?

小日向「そんなもの、あるのか?って(笑)」

――ダハハハ! 小日向さんは暗い曲を作ったときに魅力を発揮するタイプだから、無理に明るい曲を作る必要はなくて、暗い中にちょっと希望が見えればいいぐらいのバランスでやればいいと思うんですけどね。

小日向「でも今回はレベルが違ってて、出てくる歌詞が〈逃げたい!〉〈消えたい!〉〈嫌い!〉〈やめたい!〉とか、そんな感じだったんです。そんなのを並べたところで何にも面白くない。病んでる人の定型文みたいなのしか生まれなくて。心がおかしくなってたから、言葉が何にも膨らまないんですよ。

困りきって、ホントに遠くに逃げようかなって思って。で、〈小日向由衣、失踪!〉みたいな記事の見出しを勝手に想像して(笑)」

 

曲作りはやめられない!

――それでも小日向さんの日記を読んでると、日々のライブで救われているように感じました。

小日向「そうなんですよ! ライブをするたびに〈生きよう!〉って思えて。私の曲を待ってくれてる人がいるって感じられるんです。もちろん目に見える人たちだけが全てじゃないし、サブスクで聴いてくれてる人たちがいるのもわかってる。まだ届いてないだけで、これから聴いてくれる人たちもいるって信じてる部分もあります。だけど、やっぱそれじゃ弱いんです! 見えないものを信じるのって難しくて」

――人と会わずレコーディングに専念してたら、どんどん暗いほうに引きずられちゃうんですね。

小日向「そんなときにライブに来てくれて、私がこんなに苦しんでるとはつゆ知らず(笑)。〈楽しかったよ〉って言ってくれる人たちをこの目で見ると確信を得られるんです。〈アルバムできたよ〉って言ったら、この人たちは楽しみにしてくれる、ワクワクしてくれるって。4、5組が出る平日の対バンイベントに来てくれる人たちなんて、アルバムを聴いてくれるに決まってるじゃないですか。その人たちの前でライブをやる意義をすごい感じて、そこで得たものを持って帰る、みたいな感じでした。……どうしちゃったんでしょうね、私?」

――どうもしないですよ。いつもの小日向さんです。

小日向「けど、ホントに辛かったの」

――それでも、ちゃんとアルバムを完成させられたわけじゃないですか。

小日向「結果、できるんですよね。長崎遠征※が楽しかったあたりから少しずつ、やれそうな気がするって思って。

〈急に曲がいっぱいできたんだね〉〈短期期間で作ったんですね〉って思われがちなんですけど、2年前からずーっと溜めてて、アルバムタイトルも〈恋愛ハラスメント〉にしたいって決めてたんだけど、最終的に出口を見つけてやっと完成させられたって感じなんです」

※2023年7月16日に長崎・稲佐山公園野外ステージで開催された〈ミルクセーキは食べ物ですvol.100〉に出演したこと

――それだけ苦戦してたのに〈楽しい! 曲作るのやめられない! 達成感!!!!〉と呑気にツイートしてました(笑)。

小日向「苦労したぶん、ちゃんと見返りがあったんです(笑)! しかも、すごく満足のいく曲を作れたんですよ。苦しかったけど妥協はしてないし、ポップなメロディを書けたし。歌詞はレコーディング当日のイベント中にも考えてて、〈これだ!〉って言葉を見つけられて芋づる式にできていって、すっきりしました!」

――曲作りはやめられない?

小日向「やめられないですね。結局また作ってしまうんです。中毒ですよね。自分を痛めつけて私は何をしてるんだろう(笑)?

マスタリングが終わってすっごい満足しちゃって〈やった~! できた~! 終わった~!〉みたいなツイートをしたら、平澤さん(平澤直孝。なりすレコード主宰)に〈こっちはまだ終わってないんだよ!〉って怒られて(笑)。私が引っ張ったぶん、他の作業が全部うしろ倒しになってたんです(笑)」

 

恋愛ハラスメントをさせてもらって勉強になりました!

――なんでタイトルを〈恋愛ハラスメント〉にしたんですか?

小日向「『世界が泣いてる』が暗い作品だったから、次は幸せなラブソングを作りたいと思って、オタクや関係者に会ったら〈最近、恋してますか?〉って聞いて回ってたんです」

――恋愛の話をしたくなさそうな人たちの中に土足で踏み込むハラスメント活動をしてたわけですね(笑)。

小日向「そしたら〈離婚したばかりです〉みたいな方もいて、〈ごめんなさい!〉って」

――〈だからここ(小日向のライブやイベント)に来てるんだよ!〉っていう(笑)。

小日向「みんな現場では元気に見えるけどプライベートではそうでもなかったり、恋愛に興味がなさそうな人でも長年付き合ってる恋人がいたり。

いろいろ聞いてるうちに、私はハラスメントをしてるなって思ったんです。恋愛ハラスメントをした結果、曲ができるから、それをタイトルにし~よう!ってノリで先に決めました」

――表題曲もないし、タイトルと内容が一致してないですもんね(笑)。松永天馬さんの“ラブハラスメント”(2017年)と被ってる自覚はあったんですか?

小日向「なかったです! 豪さんのツイートを見て、そういえばと思ったけど、〈ラブハラスメント〉と〈恋愛ハラスメント〉が同じって脳内で繋がってなかったんです。〈恋愛〉って英語で言ったら〈ラブ〉か、なるほど~!ってようやくわかって。

でも私、恋愛ハラスメントをさせてもらって勉強になりました!」

――……何が(笑)?

小日向「恋愛について考えるいい機会をもらえて」

――ほとんど作品にプラスになってないじゃないですか(笑)。

 

悪魔と契約した引き換えに……

――イベント※でも聞いた話を改めてしてほしいんですけど、“もしも魔法が使えたら”については恐ろしいことがきっかけで作られた曲らしいじゃないですか。

※2023年2月3日に東京・渋谷のLOFT HEAVENで開催された〈小日向由衣と吉田豪のお悩み鑑定団 vol.10 –ゲスト ロマン優光–〉

小日向「はい。対バンに向けて魔法をテーマに曲を作ろうってことになったんですけど、私、脳を一回リセットしないと何も入ってこないって病気があって。例えば、このインタビューのことを考えてたら新曲が作れないんですね。で、自分に関係ない映画を見たり、短く読める漫画を読んだり、違うことを考えるとリセットされるんです。だからリセットしたいときに一人で映画をよく見に行くんですよ。映画の告知ってあるじゃないですか?」

――告知? ……予告編のことですかね(笑)。

小日向「あれってものすごい大変なシーンとか感動的な映像とか人が死ぬシーンとか、そういうのばっかりがめまぐるしく、ぐるぐる流れるから、見てると〈は~!〉ってなったり泣いたり笑ったりして大変なんです」

――一応説明しておくと、小日向さんは映画やドラマとかを見ると感情移入しすぎて、本気で泣いたり怒ったりしがちなんですよね。

小日向「はい。〈痛い痛い痛い!〉って痛みまで感じちゃう」

――だから超大作映画の予告で爆破シーンとかがバンバン流れると、それに持ってかれちゃうと。

小日向「そう。告知からぶわ~って泣いたり」

――あの短時間でそこまで行けちゃうんですね(笑)。

小日向「間髪入れずに違う作品の告知が流れてくるから〈うわ~、もうやめて!〉って。

告知のあとに映画泥棒のほっとする映像が流れるじゃないですか。そのときに〈魔法の曲、どうしよう?〉〈もし私が魔法を使えたら、まず何をしたいんだろう?〉って考えちゃって。それで、すごく広いステージの上で、たくさん人が入った会場で歌ってみたいって思ったんです。

でも魔法って、自分の大事なものを差し出さなきゃいけない、対価が必要なんですよ。そう思ったとき、私の大切なものはいま自分の周りにいてくれてる人たちだから、その人たちを差し出せば大きなステージでの成功が約束されるってなったんですね」

――……? えーっと、補足すると、イベントでは〈映画泥棒の映像を見てたら悪魔が現れた〉って話になってましたが。

小日向「そうそう! 映画泥棒を見てほっとしてたら、悪魔が〈対価を差し出せ〉って言って出てきて」

――映画の予告で感情移入スイッチが入って、さらに〈魔法の曲を作らなきゃ〉と考えてたら、おかしなことになっちゃったわけですね。

小日向「そうなんです! ……あの、いいんですか? 悪魔が出てきたらおかしく思われないですか?」

――何の問題もないです! いつもの小日向さんです!

小日向「ですよね! インタビューだから、ちょっと取り繕おうとしちゃった(笑)。ごめんなさい!」

――逃さないですよ(笑)。

小日向「バレちゃった(笑)」

――音楽的には意味のある話なんですよ。そのエピソードがイベントで語られたとき、ロバート・ジョンソンのクロスロード伝説※みたいだって言ってる人もいました。

※1930年代のブルースマン、ロバート・ジョンソンがギターの技巧を手に入れるためにミシシッピの十字路で悪魔に魂を売り、契約を結んだ、という伝説

小日向「ホント? それで私、対価を差し出しかけたんです。ライブに来てくれるお客さんと家族のことを思って、それを差し出せば長年喉から手が出るほど欲しかったものが手に入るって。その人たちは死なないんだけど、もう二度と会えなくなるんです。その条件で一回目を閉じて……」

――家族とファンを売っちゃおうと(笑)。

小日向「何かを得るためには何かを犠牲にしなきゃいけないと思って、目を閉じたんです。悪魔が〈よし、わかった〉って言って、次の瞬間、私は満員の会場のステージの上に立ってたんですけど、お客さん全員の頭がカボチャだったんですよ! それでハッ!と気づいて、私が魔法を使って叶えたかったのはこれじゃない! 笑ったり怒ったり泣いたりする、ちゃんと顔を見て感想を言ってくれる人たちに届けるために音楽をやってるのに、カボチャじゃダメだ! ごめん!って気づいて(笑)。それで、もう売らないから!って、わ~!って泣いて」

――映画泥棒のタイミングでボロ泣きしたんですね(笑)。

小日向「泣きながら映画が始まって、前半の説明部分で〈あ~! ごめんなさい~!〉ってよくわからなくなっちゃって。家に帰ってすぐ作ったのが“もしも魔法が使えたら”です」

――いい曲ですよ。

小日向「そもそも私は、自分の歌や曲を私みたいな人に届けたい、私みたいな人にとってのヒントになればと思ってて……そんなの偉そうなんだけど(笑)。ホントにちょっとピョッとやられたら死んでたかもしれない時期があったから、そう思うんです。

そこが原点なのに、なんで欲をかいて悪魔に魂を売ってカボチャの前で歌おうとしたんだろう?って。いろんなことを飛び越えて広いステージに立ったところで無駄なだけ、私じゃなくてもできるって気づいたんです」

 

何も諦められない!

――売れたい気持ちがあるのは当たり前のことなんですけどね。

小日向「そうなんですけど、私が曲を届けたい、聴いてほしいって思う理由は漠然としててわからないんです。〈人気者になりたい〉っていうのはちょっと違う。もし私がみんなに知られるようになったら、私は顔を隠したくなる。そんなにちやほやはされたくない……。〈わ~! 小日向由衣だ!〉とか言われたらやだ……。あっ、でも嬉しいかも。え~、どっち~? もうわかんなくなっちゃう(笑)!」

――何かの間違いで小日向さんのこのキャラクターが世間に受け入れられる可能性はあるんじゃないですかね(笑)。

小日向「じゃあ、隠しちゃダメだね(笑)! 出してかなきゃ!

やっぱり自分が作ったものを聴いてほしい、見てほしいと思うのは当然の欲求で。絵とかもそうだと思う。苦労したぶんだけ〈いいものができた〉って気持ちも強くなるから、道行く人に〈えい!〉ってイヤホンをつけて〈1分だけ、ちょっとだけでいいから聴いてみて!〉って言って周りたくなる」

――えっ、知らない人に強制的に!? タワレコとかでじーっと待って、人が来たらヘッドホンを装着させて聴かせるとか(笑)。

小日向「そう(笑)。もし自分が作った曲を人に聴いてもらいたいって思わない人生だったら、こんなに苦しい思いをしなくて済んだのかな? わかってくれる人だけが聴いてくれれば大丈夫なぐらいのフッ軽な気持ちで歌えてたら、もっと楽に生きられたのかな?って考えちゃって」

――でも、諦められないんですよね。

小日向「何にも諦められないですね」

――〈私に力がないばっかりに、絶対いい曲なのに産まれても陽の目を見ずに終わってしまう。ごめんね〉とも書いてました。

小日向「よくそんなの見つけてきますね(笑)!」

――歩みは遅いけど、着実にいい方向には来てるはずなんですよ。

小日向「ホントに遅い! このまま歩んでたら死んでしまう!」

――世間に届く頃には(笑)。

小日向「でも、もうちょっと歩きたい!」

 

PANTAさんはホンットにすごい人

――今回、PANTAさんが小日向さんにインスパイアされて作った曲(“虹のほほえみ”)のカバーがボーナストラックで入ってますね。PANTAさんとイベント※をやった時も、PANTAさんは小日向さんの相談を聞いてひたすら優しく励ましてました。あの時点でPANTAさんは体調が本格的にヤバかったはずなのに……。

※2022年11月13日に東京・渋谷のLOFT HEAVENで開催された〈小日向由衣と吉田豪のお悩み鑑定団 vol.9 –ゲストPANTA(頭脳警察)–〉

小日向「そうなんですよ! 『世界が泣いてる』にPANTAさんが推薦コメントを書いてくださったんですけど、PANTAさんがアルバムを気に入ってくださって、私とのツーマン※のための曲を病室で作ってくださったんです」

※2022年11月26日に東京・渋谷のLa.mamaで開催された〈小日向由衣with組織 SPECIAL GUEST:PANTA 澤竜次(頭脳警察・隼)〉

――そのツーマンもPANTAさんの体調不良で何度か延期して。病み上がりの復活一発目が小日向さんとのツーマンって、PANTAさん、どこまで律儀なの!?って思いましたよ。

小日向「ですよね。“虹のほほえみ”は病室で歌ったデモを〈ライブでプレゼントしようと思ってる〉って送ってくださったんです。それでツーマンのときに実際に歌ってくれたんですけど、〈この曲は小日向由衣のために作った曲だから自由に歌っていいし、好きに使っていい〉って言ってくださったんですね。

今回、ボーナストラックとしてアルバムに入れたいんですって伝えたら、マネージャーさんを通して〈もちろんOKです。PANTAも喜んでます〉って言っていただきました。〈こひちゃんとはこれからも仲良くしていきたいと思ってるから、退院したらご飯でも行きましょう〉とも言ってくださってたんですけど、次の連絡は〈PANTAさんが亡くなった〉というものだったんです。

あまりに短期間で亡くなってしまって、ホントに信じられなくてショックでした。私のカバーをPANTAさんに聴いてもらって、喜んでもらえるかな?って思ってたのに、いなくなっちゃったんだって思うと……(長い沈黙)。……(小声で)泣きたくない、絶対にやだ(涙)!」

――大丈夫ですよ! 小日向さんは自分の気持ちを話そうとすると泣いちゃって、歌を伝えようとするときも泣いちゃうんですよね。だから、泣かなくても伝えられるようになるって言ってましたけど。

小日向「そうなんです。子供じゃないんだから、すぐメソメソするな! PANTAさんは普段お会いしたときも〈最近、調子どう? 元気でやってる?〉って、ご自身の調子が悪いのに言ってくれるんですよ!」

――すごい方ですよね。あの腰の低さとフットワークの軽さ。

小日向「私が〈仲間作りが下手で〉と相談したときも〈仲間なんていなくていいんだよ。いい曲をちゃんと作ってるから、それでいい。それを続けていけばいいだけ。悩むことないよ〉って言ってくれて。PANTAさんはホンットにすごい人で……もう、ここにいらっしゃるんですよ!(手を高く挙げる)」

――小日向さん、音声&文字になるって自覚がないんですよね(笑)。つまり、すごい高いとこにいらっしゃると。

小日向「私なんてここ……(手を下げてテーブルの上あたりに置く)」

――すごい下なんですね(笑)。

小日向「対バンのときのMCでは〈俺にはやり残したことがあった。小日向由衣とのツーマンは果たさなきゃいけない約束だから〉ってお話ししてくださって」

――やれるライブが限られてるなか、なんで小日向さんを選ぶんだという(笑)。

小日向「豪さん、笑ってるじゃないですか! PANTAさんってホントにすごい人なんですよ!」

――偏見がないんですよね。

小日向「自分が面白いと思ったものに素直で、好きなことについては夢中になっておしゃべりする、お茶目で可愛らしい……って言ったら失礼かもしれないけど、そういう方だったんです。

だから愛をもって曲を作って歌うだけ、とりあえず集中して頑張ろうという気持ちになりました。〈その他のことは一旦置く〉ってPANTAさんから教えてもらったんです」

――ツーマンのときの小日向さんの頭脳警察のカバーもよかったです。

小日向「エヘヘ」

――小日向さんが“ふざけるんじゃねえよ”を歌うんだ!?って。

小日向「最前の席にPANTAさんのファンの方たちが座ってらして目の前にいたので、やべ~!と思ったんですけど、私はテクニックとかはないから〈お手並み拝見〉なんて思われないためにも気迫と気持ちで挑むしかないと思って。逆に〈やるしかね~! てめえら全員ぶっとばしてやっからな~!〉って(笑)。あとで映像を見たら恥ずかしかったです。別人みたいに〈うお~!〉って叫んでて」

――入り込む能力がある人だから、頭脳警察の歌にも入り込んでましたね。

小日向「すごい方とツーマンができて、音楽への取り組み方や人となりを見させていただいて。PANTAさんみたいにはなれないけど、私は私で頑張っていこうっていう気持ちにさせてもらえて、逃げたくなったときにキッと引き戻してくれる経験になったと思います。

記憶や思い出だけじゃなくてPANTAさんが歌ってくれたデモの音声が私の手元には残ってるし、それをカバーしてアルバムのボーナストラックっていう形で残せたから、きっと何年後かに聴いても今の気持ちを思い出せるなって。音楽ってすごいんですよね、だから! 記憶は薄れていくけど、音楽として残ってくってすごいなって。

こんなカスみたいな人間にそこまでしてくださって、なんなんだろう、ホントに……(涙)。ありがたいし、嬉しい。

だから私はこのアルバムをちゃんと届けたいんですね。届くか届かないか、結果は知らない! けど、頑張ることをやめたらダメなんです」

 

恋愛なんて不確かなものに何も預けられない!

――結局、泣いちゃいましたね。

小日向「う~! すぐ泣く! 人ってこんなに、いろんなことに向き合って生きてるものなんですか?」

――他の人たちは違うと思いますけど、小日向さんはそれでいいんですよ。大丈夫です。

小日向「みんな、どんな顔して生きてるんですかね(涙)?」

――小日向さんは日々ぐちゃぐちゃになりながら迷って泣いて、でもそれが曲作りに活きる人だから、それでいいんですよ。

小日向「恋愛を題材にして曲を作りたい!と思ったら、深~く考えちゃうからダメだってことはわかってたんですよ。

恋愛って儚いじゃないですか。そのときは〈好きだ!〉ってなっても、来年にはどうなってるかわからないのが恋愛でしょ? 私、そんな不確かなものに何にも預けられない! 怖すぎる(笑)! なんで永遠に続くって思い込めるんだろう?って思いませんか? 例えば一時のテンションで〈幸せ!〉と思ったとしても、私は〈失うのが怖い〉って思いがすぐ来ちゃうんですよ。恋愛じゃなかったとしても、大切な人が増えれば増えるほど怖い」

――その大切な人たちを一瞬売り渡そうとしてましたけどね(笑)。

小日向「けど、怖かった(笑)! ……こうしたくなっちゃう(手で円を描く)」

――囲うってことですか?

小日向「えっと……例えば〈好きだよ〉〈恋愛感情を持ってます〉って初対面の人なのに言われたとしますよね(振り返って、うしろにいるMikikiの編集者を見つめる)」

編集者「(苦笑)」

――急に巻き込まれた(笑)!

小日向「そう言われた瞬間、箱に入りたくなっちゃう。私の何を知ってて好きって言ってくるの?って。好意を持ってくれるって嬉しいこと、素晴らしいことなのに、なんで好きって言ってくれるの?って思っちゃうんです(再び編集者のほうを向く)」

編集者「(苦笑)」

――Mikikiの人は、そもそもそんなこと言ってないですよ!

小日向「なんで私はすぐ遮断しようとしちゃうんだろう? 本当の私なんて知られたくない!って考えちゃって。自分でもどの自分が本当の自分なのかがわからないのに、他人にわかるはずがないし、自分でもコントロールできないんだから迷惑をかけないわけもないし……って考えてたら、〈私は一人でずっと箱に入ってればいいんだ〉って結論に至って」

――そもそも、そういう考え方の人が楽しい恋愛のアルバムを作れるわけがないんですよね(笑)。

小日向「アハハハ!」

――そういう歌は聴いてみたいですけどね。〈私は恋愛をせず、箱の中で生きる〉というテーマの(笑)。

小日向「でも、ちゃんと受け入れたり受け入れられたりしたいって憧れはあります」

 

私を女として見てくださいよ!

――それで思い出したのは、ボクが小日向さんに〈私のことをもっと女として見てよ!〉って言われた謎の事件ですよ(笑)。

小日向「あれは豪さんが悪いんですよ!  ちょっとお酒も入ってたんですけど、仲間の出演者の方が豪さんに〈由衣ちゃんってかわいいですよね! 女としてホントに魅力がある!〉って言ったことがあったんです」

――〈そう思いますよね、豪さん! 可愛いですよね!〉って言われて。

小日向「そしたら豪さんが〈いや……〉って(笑)。しかもニコリともせず、能面みたいに感情がない真顔で」

――〈生き物としては可愛いと思います〉と。

小日向「無の顔で言うんですよ!」

――正しいコメントだと思いますよ(笑)。

小日向「そのやり取りが何回か繰り返されてたら、私、だんだん頭に来ちゃって。ちょっと豪さん! なんで私をそんなに拒絶するんですか!? 女として見てくださいよ!って言ったら、やっと笑ってくれたんです」

――笑いますよ、それは(笑)。普通に生活してて、なかなか聞かないセリフじゃないですか。

平澤直孝(なりすレコード)「そのあとの特典会で小日向さんがオタク一人ひとりに〈私を女として見てくれてますか(怒)?〉って聞いてたんですよ。オタクはこわごわと〈はっ、はいっ!〉って返してて、ホントに逆セクハラだなと思った」

――恋愛ハラスメント!

小日向「そうだった! 特典会に来たオタクが〈女として見てます!〉って言ってからチェキを撮るっていう(笑)」

――何のカツアゲをしてるんですか(笑)。

小日向「私、ひどいね(笑)! そのときに来てくれたお客さんはごめんなさい! みんなテンプレの棒読みみたいな感じで言わされてた。〈次、俺の番だ……。女として見てます! あっ、チェキで〉って(笑)」

 

目玉焼きが2個写ってたら何かありますから

――恋愛の歌より人生や人間関係のやりきれなさを歌うほうが向いてる、というのがこれでわかったんじゃないですか?

小日向「ね。でも恋って苦しいですね」

――……何の話(笑)?

小日向「ホントに息が吸えなくて、息が止まるかと思って。寝てても〈ふっ!〉と起きるぐらい辛かったです」

――……いつの話?

小日向「アルバムの作成中に」

――恋愛の歌のことを考えるだけで、そこに入り込んじゃって。

小日向「恋愛小説も読んだし、アリエル(映画『リトル・マーメイド』)を見に行ったりもしたんです。それで、ホントに恋愛って苦しいんだなってわかって」

――でも最近〈恋愛なんてわかんない〉とつぶやいてましたよね。

小日向「私がわからないのは攻略法です! 例えば(再び編集者を見て)初対面なのに今日、すごい好きになったとしますよね」

編集者「(苦笑)」

小日向「〈好き〉っていうのは一人の一方的な気持ちじゃないですか。でも、例えば一緒にお出かけしたり、手をつな……え~、手とか繋いじゃったりしたらどうしよ~?」

――想像が始まった!

小日向「手を繋いで映画とか見るかな~? (編集者を見て)なんならお家に行くとかね……。実家暮らしとかじゃなくて、迷惑じゃなかったら! それで一緒に目玉焼きを作ってみたり……いいじゃないですか、そういうのも。ウフフフ……。

でも突然〈今から映画行きましょう!〉って言われて、〈はい!〉とはなかなかならないんですよ。それが難しい、わかんないんです」

――映画に行ったら突然、横で泣いてる可能性がありますよね。しかも予告の時点で(笑)。

小日向「一緒に映画を見た人に怒られるんです。わ~!とか声に出しちゃうから、静かに!って言われる」

――しかも家に行っても作る料理が目玉焼き。あの毎回崩れてるやつですよね。

小日向「一緒に目玉焼きを作ったら、目玉が2個ですよ。2個あったら何かありますから、みなさん覚えといてください」

――匂わせだ(笑)。

小日向「でも、その人をそこまで信頼して自分の全部を預けられるのかな~?って。そんなことしなくていいのかな? 考えすぎなのかな?」

――恋愛より作品のことを考えたほうがいいですよ。

小日向「アハハハ! つい! 年頃になっちゃって!」

 

今のまま頑張る!

――いいアルバムなのは間違いないので、ホントにこれをどう届けていくかですよ。

小日向「不器用な愛し方しかできない人にはわかってもらえると思うんですよね。あと、ちょっと狂気的なところもあるし。だから女子にも届けたいんです」

――女性ファン、少ないですもんね。

小日向「地下アイドルの女性ファンってホントにいないから私はまだいるほうなんですけど、一般的に見たらぜんぜんいないし、悩んでますね」

――外向けに説得力のあることとしては、ヒダカトオルさんも絶賛していたというのがありますね。

小日向「そうなんですよ! なんで知ってるんですか!?」

――自分で書いてたじゃないですか。

小日向「えっ? 私が?」

――〈歌詞もメロディーもぶっ飛んでてすごいし、ライブに説得力もあるって言ってくれた!〉。

小日向「あっ、そうだ! 一緒に対バンさせていただいたとき※にめっちゃ褒めてくれて、すっごい嬉しかったんです。〈歌詞に狂気があっていい〉って言ってくださったから、お店回りでポップに〈狂気的〉っていっぱい書いちゃった(笑)」

※2023年5月4日に東京・高円寺のHIGHで開催された〈DISCOMPOアニバーサリーライブ2023〉

――さっきもさらっと〈狂気的〉って言ってたのは、ヒダカさんが言ってたからだったんですね。

小日向「褒めてもらったことをそのまま単純に受け取って、私は狂気的なんだ!って(笑)」

――ボクもトークイベント後半のライブコーナーのたびに驚きますよ。ライブに入り込みすぎて、うしろに僕らがいるって毎回忘れて歌ってるんですよね。振り返って〈あっ、人がいる!?〉ってびっくりして(笑)。その入り込む能力や激しい感情移入の力は、他の人が持ってないものだと思いますよ。

小日向「でも、自分の好みのアーティストってクールに淡々と歌う人なんです。その憧れが抜けきれなくて」

――諦めましょうよ。小日向さんはこれでいいんです。

小日向「そこを諦めきれたときに、また一つ違うものが見えるかも。私はまだおしゃれに歌うことを諦められてないから」

――クールでおしゃれな小日向由衣になりたいと。

小日向「なりたい! なりたかった……。色っぽく歌ったり、少しだけ表情が歪むぐらいが、たまんないんですよね」

――人は自分にないものを求めますから。でも、しょうがないですよ。

小日向「しょうがないか~」

――小日向さんは、基本はファニーなんだけども、どこか悲しさや深みがあるのがいいところなので、クールや色気は向いてないんです。

小日向「……(しばらく考えて)そうかな~?」

――そうなんです。気づいてください。

小日向「ホント~? じゃあ憂いていきます」

――……憂いていく?

小日向「いつもお世話になってるミサキドーナツの藤沢(宏光)さんに〈小日向さんは社会や政治のことを歌うのが向いてる〉って言われたんです。子供たちが歌ってる曲なんだけど実は社会的なメッセージが含まれてる、みたいな感じでって」

――坂本慎太郎さんの曲をかもめ児童合唱団が歌ってるような感じですかね。

小日向「そういうことですか?」

――……何が?

小日向「そういうメッセージ性の強いものを歌うのが向いてるんじゃないかって」

――PANTAさんの遺志を継いで“銃をとれ”を歌うとか?

小日向「つ、強いですね……」

――向いてないですよね?

小日向「向いてないです!」

――今のままで大丈夫です!

小日向「ありがとうございます! 今のまま頑張る!」

 


RELEASE INFORMATION

小日向由衣 『恋愛ハラスメント』 こっこっこレコード/なりすレコード(2023)

リリース日:2023年9月27日(水)
品番:KOKKO-004
価格:3,000円(税込)

TRACKLIST
1. お菓子な家
2. 花火
3. サイダー
4. ハリボテの恋
5. 天の川ぶち壊す
6. ブラックコーヒー
7. サカナになる
8. 恋の呪文
9. 電話
10. 8月30日の私
11. もしも魔法が使えたら
12. アイスを捧げて♡
13. 虹のほほえみ(ボーナス・トラック)

 

LIVE INFORMATION
「恋愛ハラスメント」発売記念ライヴ
『組織で恋愛ハラスメント』

2023年11月23日(木・祝)東京・青山 月見ル君想フ
開場/開演:11:30/12:00
出演:小日向由衣/組織(kohinatayui band)
前売り/当日:4,000円/4,500円(1D 700円 or 2D 1,000円)
チケット販売:e+/手売り
https://eplus.jp/sf/detail/3966110001