ハンス・ヴェルナー・ヘンツェ(1926-2012)が三島由紀夫の「午後の曳航」から着想し、創作パートナーのハンス・ウルリッヒ・トライヒェルの台本を得て生み出した歌劇『裏切られた海』(1989)の新録音。2020年12月14日、ウィーン国立歌劇場で行われた無観客上演を収録した音源。ボー・スコウフスをはじめ声の演技に長けた歌手陣とシモーネ・ヤングの練達の指揮がヘンツェ特有の厳密かつ怜悧な構造による心理描写を克明に再現する。終盤の〈澄んだ残酷さ〉が表面化していく場面の音楽はオーケストラの高いポテンシャルもあって聴き手に刺さるができれば映像で見たいところゆえBlu-ray化に期待しよう。