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バカテク、外しの美学、東京ローカルの感覚

――メンバー全員がすごいテクニックを持ちながら、ダサいをことをする、この東京おとぼけCATSのセンスというのはどこから来たのでしょうか?

「まず、いい意味でダディは歌があまり上手くなかったからですね。それでステージングやアレンジに凝ったり、お笑いの要素を入れたりして楽しんでいました。

すでにあった“電気クラゲ”に、僕のバンドでやってた“なかよし音頭”をアレンジしてファンクにしようって、レパートリーに加えたんです。それから戦前戦後の東京をテーマにした“東京行進曲”や“有楽町で逢いましょう”をカバーしたり。それをメンバーが黒いスーツを着て……」

――ブルース・ブラザーズのジョン・ベルーシより早かったわけですね。

「譜面を見ながら弾くわけじゃないんだけけど、譜面台もキャバレーの丸椅子を上手く利用して使っていました。メンバーはみんな長髪だったけど、ポマードで固めて横分けにしてキャバレーバンドのような出で立ちでね。それで小さい音でダサく演るっていうのが初期の狙いでした」

――〈東京〉というキーワードも、その後の遠藤賢司“東京ワッショイ”(78年)や近田春夫の『電撃的東京』(78年)、さらにその後のYMOやジュリー(沢田研二)の“TOKIO”(80年)より早かったですね。

「バンド名に〈東京〉を付けたのは、それがダサいというか、ダサカッコいいからですかね。東京ビートルズ、東京ベンチャーズ……このへんの東京のローカルな感覚なんです。〈CATS〉はもちろんクレイジーキャッツから。〈おとぼけ〉は何だっけな?」

――それはダディさんがインタビューで言っていました(レコード・コレクターズ増刊「コミック・バンド全員集合!」)。矢沢永吉のコンサートを観て、カッコよくて確信犯的という意味で、〈とぼけた野郎だな〉と感じたからだそうです。

「〈ダディ竹千代と東京おとぼけCATS〉というバンド名は、それに加えて、フランキー堺とシティ・スリッカーズ、スマイリー小原とスカイライナーズ、もちろんハナ肇とクレイジーキャッツからですね」

――〈竹千代〉という芸名については『裏面』のライナーノーツでご自身で触れていました。

「そう、竹田和夫さんと麻雀をやってた時に、和夫さんが(本名の)〈剛(タケシ)〉と言おうとして〈竹千代〉と言ったからですね」

――『裏面』を聴くとよくわかりますが、音楽性が幅広いですね。

「“御徒町タンゴ”、“あなたのジルバ”、それにラテン。なかよし三郎がキャバレーで演奏してたから、そこで習得したリズムパターンを取り入れましたね。ダディが作ってきたフォークっぽいのを、リズムを変えてオリジナルにしていきました」

『ヒストリー・オブ・ダディ竹千代&東京おとぼけCATS -裏面-』トレーラー

 

ハードロックバンド+ホーンセクション

――そしてライブを重ねていったと。

「自分たちの実力じゃライブハウスなんてまだまだで、ダディが勤めていた上馬のガソリンアレイから始めて、だんだんウケていったんですね。ダディのしゃべりが面白いし独特なサウンドだったんで客が増えてきて、それで下北沢ロフトに呼ばれたんです。今の王将があるところは、昔は銭湯だったんだけど、その上がマンションで、そこに春日が住んでたから、そこを拠点にしてね、ロフトまで歩いてすぐだったよ」

――それでレコード会社から声が掛かったんですね。

「その頃、ドラムの春日がOZが忙しくなってバンドを辞めて、ダディが目を付けていたドラマーのそうる透(萩原敏夫)に声をかけたんです。彼が来たのは翌年(78年)2月のデビューシングル(“電気クラゲ”)のレコーディングの合宿からです」

――ロックドラマーがいきなり参加というのは……。

「歌謡曲調の曲は叩けなかったね。でも彼が入って全体的に音が派手になってデカくなった。当然、ダディの歌い方も変わってきてハードさが増したわけです」

――ハードロックではないけど、いい感じのハードさがありますね。

「すると、お客さんがさらに増えてきたんです」

――そこに、ホーンセクションが加わり……。

「B面の“なかよし音頭”にホーンを入れたいってことになって、寺中の紹介で包国充(サックス)が来てくれたんです」

――クリエイションの?

「いや、(クリエイションへの加入より)こっちが先。竹田和夫さんが僕たちを観て〈ヘルプでほしい〉と言ってきて、あっちがメインになったけど。で、彼が大学の同窓のボーン助谷(トロンボーン)を連れてきてくれて、固まったんです」

――ハードロックのバンドにトロンボーンがいる、って変ですよね。

「変な編成だよね、サックスならまだわかるけど。ボーン助谷はサックスもトランペットも器用にこなしてたけどね。彼が面白いのは、演奏中にストリップを始めたりするんですよ。ウケてました」

『ヒストリー・オブ・ダディ竹千代&東京おとぼけCATS -表面-』トレーラー

 

野菜や豆腐でチョッパーベース、「イギリスはロンドンからやって参りました」ミュージシャン物真似

――メンバーそれぞれお笑いの持ちネタがありますが、それはライブを重ねるうちに出来ていったんですか?

「歌詞も変だし、曲の中で突然曲調が変わったりね。それはメンバー全員実力があるから出来るんだけど。

ジェスロ・タルの初来日公演(72年)の影響が大きいんですよ。開始早々、メンバーが出て来たと思ったらボーヤが出て来て(ステージの)左に消える。そしてボーヤが2人出て来てまた消える。今度はボーヤが箱を持ってきて、メンバーが登場して、箱の中からボーカルのイアン・アンダーソンが出て来るっていうね。コントみたいなギミックを入れたステージがものすごく面白かった。だからそれを取り入れようとなったんです」

ジェスロ・タルの82年のライブ映像。ジェスロ・タルは独特のシアトリカルなパフォーマンスや衣装、演出などで知られる

――モンティ・パイソンの影響もあったかもしれませんね。ミュージシャンなのにエンターテイナーで、演劇的なステージという。

「演奏だけじゃなく面白いことをやろうよって。当然クレイジーキャッツが好きでしたからね」

――なかよし三郎さんの〈何でもチョッパー〉はみんな好きでしたね。

「それは元々ベースソロとドラムソロを聴かせるためにあった“嘆きのしゃもじ”という曲だったんですよ。最初はしゃもじでベースを弾いてたのが、どんどん大きなしゃもじになっていって、ドラムソロになって終わるんです」

80年代のライブ映像。4分57秒から、なかよし三郎がしゃもじを使ったベースソロを披露

――それが野菜とか豆腐とか別のものにエスカレートしていったんですね。

「それでライブハウス出入禁止になるんです、汚すから。でも大阪だけは、〈面白いから、汚してもいいからまた来てくれ〉って言われるんです」

――〈ミュージシャン物真似〉というのは?

「(東京ロッカーズに対抗した)関東ロッカーズのイベントでも共演した野毛ハーレム(・バンド)がやってたネタがヒントです。普通にミュージシャンのフレーズを弾くだけなんですけど、それが面白くて。僕たちも出来るからやり出したんです。エリック・クラプトンとかジェフ・ベックとか、ただ彼らの物真似をやればいいだけなんで。

するとお客さんから〈ディープ・パープルをやってくれ〉とリクエストが来てね。それで、キーボードもホーンセクションもメンバーそれぞれやり出して、あらゆるジャンルの物真似をするようになったんです。それはウケましたね。

それもダディがいたからですよ。ハナ肇やいかりや長介みたいに周りに振って上手く引き出す統率力があったんです。総合的なプロデュース能力ですね」

80年代のライブ映像。1分9秒からの〈ゲスト大会〉でヴァン・ヘイレン、ザ・フー、ブライアン・メイ、ジョージ・ハリスン、リッチー・ブラックモア、おニャン子クラブ、スティーヴィー・ワンダーが招かれる。10分5秒から、なかよし三郎がしゃもじ、みかん、そうめん、山芋、小麦粉を使ったベースソロを披露

――そしてアルバムも2枚発売して、ダディさんは「オールナイトニッポン」のディスクジョッキーになり、桑田佳祐や山下達郎などとの交遊があって、どんどん人気が出てきました。

「でも食えなかったし、飽きちゃったのが一番大きいかな、バンドを抜けることになったんです。81年の秋ですね。ライブでのバカ騒ぎは楽しかったけど、自分のちゃんとした音楽がやりたくなったんですよね。後から聞いたんだけど、そうる透も辞めることになって、3年続いた年末の渋谷屋根裏のライブを解散ライブにしたんです」

 


ダディ竹千代&東京おとぼけCATSのメンバーとその後

ダディ竹千代(加治木剛):ボーカル。プロデュース業を経て現在は二子玉川でライブハウス〈ジェミニ〉を経営。
なかよし三郎(児島三郎):ベース&キーボード。引退。
キー坊金太(来住野潔):ギター。〈めおと楽団ジキジキ〉で寄席に出演中、落語協会所属。
ボーン助谷(助谷明広):管楽器全般。佐野元春のサポートメンバー。
そうる透(萩原敏夫):ドラムス。今や日本のトップドラマーになり、天童よしみをサポート中。
ダニエル茜(浦山秀彦):ギター。遠藤賢司やあがた森魚のサポートを務めた後、張紅陽と〈めいなCo.〉を結成。

■準構成員
ハタさん(秦万里子):キーボード。今や著名なピアニスト。多方面で活躍中。
フランク春日(春日博文):ドラムス。カルメン・マキ&OZの中心メンバーで、ギターと作曲担当。
天沼でんすけ(岡井大二):ドラムス。四人囃子のメンバー。
テーラー八雲(寺中名人):ギター。その後、寺内タケシ&ブルージーンズのメンバーに。
蛤三太郎(田代修二):キーボード。八神純子や岡村孝子のレコーディング&ツアーメンバー。
張紅陽(熊谷陽子):キーボード。あがた森魚や梅津和時らと活動。
美空どれみ:ボーカル。その後バンド〈ビジネス〉でデビューし、作詞作曲を担当。
うしろぼん・じょび(三国義貴):RED WARRIORSやTHE YELLOW MONKEYのサポートメンバーを務める。
碑文谷パーラッ太(包国充):サックス。クリエイションや竜童組のメンバーになる。
藤井ヤクハチ(藤井康一):サックス。ウシャコダのボーカル。現在ウクレレ奏者として全国でライブ活動中。
近藤大(近藤達郎):キーボード。金子マリ&バックスバニーのサポートを務める。現在は大友良英スペシャルビッグバンドに参加。CM曲“勇気のしるし~リゲインのテーマ~”(89年)を作曲。
どんまいめぐみ(丸尾めぐみ):キーボード。小川銀次バンドに参加後、様々な音楽制作を行う。

 


RELEASE INFORMATION

ダディ竹千代と東京おとぼけCATS 『ヒストリー・オブ・ダディ竹千代&東京おとぼけCATS -表面-』 SUPER FUJI(2021)

リリース日:2021年10月20日
品番:FJSP438
仕様:2枚組CD
価格:4,015円(税込)

TRACKLIST
CD-1 
1. 電気クラゲ(1978年1stシングル)
2. なかよし音頭(1978年1stシングル)
3. 御徒町タンゴ(1979年2ndシングル)
4. 舟乗りの夢(1979年2ndシングル)
5. Over Chai(1980年アルバム『First』より)
6. 銀座カンカン娘(1980年アルバム『First』より)
7. 夕方フレンド(1980年アルバム『First』より)
8. Easy Girl(1980年アルバム『First』より)
9. 偽りのDJ(1980年3rdシングル)
10. 北千住(1980年3rdシングル用デモ)
11. ロンリーローラー(1981年アルバム『イデオット・プロット』より)
12. 天山南路(1981年アルバム『イデオット・プロット』より)
13. 難解の美少年(1981年アルバム『イデオット・プロット』より)
14. 横浜倶楽部(1981年アルバム『イデオット・プロット』より)
15. 隼(1981年アルバム『イデオット・プロット』より)
16. ビートきよし/雨の権之助坂(1981年シングル)
17. ビートたけし/俺は絶対テクニシャン(1981年シングル)

CD-2
1. 税務署への手紙(ショート)(1992年アルバム『伊賀の影丸』より)
2. Sagi-Sagi Boogie Woogie(1992年アルバム『伊賀の影丸』より)
3. おとぼけテレフォン・ショッピング(1992年アルバム『伊賀の影丸』より)
4. 世田谷育ち(1992年アルバム『伊賀の影丸』より)
5. 税務署への手紙(1992年アルバム『伊賀の影丸』より)
6. ざけんじゃねえ!(歌:久本雅美)(1991年『恋愛ドレミファ娘 平成芸者ガール』より)
7. バンド天国への階段(1991年『恋愛ドレミファ娘 平成芸者ガール』より)
8. テストはおまかせ!(歌:ウシャコダやくはち)(1991年『きんぎょ注意報! Vol.2』より)
9. ベルマークの歌(1991年『きんぎょ注意報! Vol.2』より)
10. パパ大好き(1992年『まあじゃんほうろうき』より)
11. 勝負師”西原”その一週間の日々(1992年『まあじゃんほうろうき』より)
12. 麻雀列車はフニクニフニクラ(1992年『まあじゃんほうろうき』より)
13. ツァラトゥストラはかく語りき(『LIVE AT LIVE INN』より)
14.  ロンリーローラー(ドラム:四人囃子 岡井大二) (『DEAD STOCK』より)
15. 一日一食(『DEAD STOCK』より)
16. 舟乗りの夢~Under Chair(『DEAD STOCK』より)

監修:来住野潔(東京おとぼけCATS)
マスタリング:勝守理(クリアー・スタジオ)
デザイン:ダダオ
全曲解説:春雨キヨシ

 

ダディ竹千代と東京おとぼけCATS 『ヒストリー・オブ・ダディ竹千代&東京おとぼけCATS -裏面-』 SUPER FUJI(2021)

リリース日:2021年11月24日(水)
品番:FJSP442
仕様:3CD+DVD
価格:7,480円(税込)

TRACKLIST
CD-1
1. 哀愁の夜行列車
2. 青年
3. あなたのジルバ
4. 雨の権之助坂
5. 北千住
6. 嘆きのチャールストン
7. なかよし音頭
8. 電気クラゲ
9. 電気クラゲ
10. 夕方フレンド
11. おとぼけ口上
12. 銀座カンカン娘
13. 約束パパ
14. なかよし音頭
15. 舟乗りの夢
16. Easy Girl

M1-8[LIVE]1977年 大阪バーボンハウス
M9[STUDIO DEMO]1978年
M10[STUDIO DEMO]1979年
M11-14[LIVE]1979年 群馬大学 学園祭
M15, 16[STUDIO DEMO]1979年

CD-2
1. 銀座カンカン娘
2. あなたのジルバ
3. JET'S
4. 霧の町
5. 音真似ゲスト大会~北の宿から
6. 逃げろ!(KのRock)
7. Easy Girl
8. Under Chair
9. よっちゃんの原付バイク
10. ゆきちゃんの弦付ギター
11. 舟乗りの夢
12. Over Chair
13. 銀座カンカン娘
14. 青年
15. あなたのジルバ
16. ドアを開けて
17. 夕方フレンド

M1-8 [STUDIO LIVE]1980年 日立ローディプラザ銀座
M9-11[STUDIO DEMO]1982年
M12-17[STUDIO DEMO]1980年アルバム『FIRST』

CD-3
1. Easy Girl
2. 航海
3. 東京ラグタイム・ブルース
4. Under Chair
5. 音態模写劇場
6. パパイヤランドクラブハウスで
7. 横浜俱楽部
8. 昇天ホーンセクション
9. 夕方フレンド
10. 解散の口上
11. 偽りのDJ
12. なかよし音頭で逃げ惑う客
13. よっちゃんの原付バイク
14. シベリア・レイルロード
[付録音源]
付録その① 六本木行進曲
付録その② パパイヤランドクラブハウスで
付録その③ 午前1時のスケッチ

M1-4[STUDIO DEMO]1980年アルバム『First』
M5-9[LIVE]1985年10月9日 渋谷LIVE INN
M10-13[LIVE]1981年12月26日 渋谷屋根裏(解散ライブ)
M14[LIVE]1981年6月3日 日本青年館(ワンマン・ライブ)
M15,16[STUDIO DEMO]1983年
M17[LIVE]1973年 世田谷砧区民会館

DVD(秘蔵映像集)
1. 電気クラゲ
2. あなたのジルバ
3. シャミヘン
4. なかよし音頭
5. 雨の権之助坂
6. 約束パパ(美空どれみ&東京おとぼけCATS)
7. よっちゃんの原付バイク(美空どれみ&東京おとぼけCATS)
8. ヘビメタの振り付け
9. 舟乗りの夢
10. ロンリーローラー
11. 横浜俱楽部
12. Easy Girl
13. 隼
14. 舟乗りの夢
15. 続 東京ワッショイ(遠藤賢司&東京おとぼけCATS)

M1-4[LIVE]1991年 渋谷クラブクアトロ 第1部(ビデオ『幻の10年』アウトテイク映像)
M5[LIVE]1979年2月17日 お茶の水日仏会館ワンマン・コンサート
M6, 7[LIVE]1979年春 富山ライブハウス・タムタム
M8[LIVE]1986年 渋谷LIVE INN
M9[LIVE]1987年 渋谷LIVE INN
M10-14[LIVE]1991年 渋谷クラブクアトロ 第2部(ビデオ『幻の10年』アウトテイク映像)
M15[LIVE]1979年5月11日 目黒公会堂『関東ロッカーズ旗揚げコンサート』

監修:来住野潔(東京おとぼけCATS)
マスタリング:勝守理(クリアー・スタジオ)
デザイン:ダダオ
解説:ダディ竹千代/春雨キヨシ