再評価が進む和製アンビエントの伝説、INTERIOR(S)の2作がついに復刻!
ローカルからグローバルへ。ネット・カルチャーの進化と共に、世界各地で独自に発展を遂げたローカル・ミュージックがアーカイヴ/コンパイルされ、現代のグローバルな音楽シーンにリヴァイヴァルの波を巻き起こしている。日本における同種の現象としては、世界的にも注目を集めるシティ・ポップ・リヴァイヴァルが記憶に新しいが、2019年に米ポートランドのアンビエント・ユニット、ヴィジブル・クロークスのスペンサー・ドーランが80年代の日本で生まれたアンビエント、ニューエイジ、環境音楽を編纂したコンピレーション『Kankyo Ongaku』は、2020年のグラミー賞最優秀ヒストリカル・アルバム部門にノミネートされ、日本で独自に発展を遂げていた音楽の未知なる響きが世界に衝撃をもたらした。
そして、『Kankyo Ongaku』の独自性、多彩さを象徴する“パーク”を同コンピレーションに提供した音楽ユニット、INTERIORが82年に発表したファースト・アルバム『インテリア』(と米国のニューエイジ・レーベル、ウィンダム・ヒルから発表された同作の編集盤『インテリアズ』)、INTERIORS名義による87年のアルバム『Design』がついに復刻された。
INTERIOR(S)とははたしてどんなグループだったのか。米ボストンのバークリー音楽院を81年に卒業した沢村満(サックス)が、同音楽院で学んでいた日向大介(ピアノ/エレクトロニクス)、野中英紀(ギター)、別当司(ドラムス)の3人を率いて結成。それぞれが楽器の修練を重ねながら、ジャズ理論や現代音楽理論、最先端のエレクトロニック・ミュージックを学んだ。
帰国後、細野晴臣に自身のデモテープを聴いてもらう機会を得た沢村は、ユニークな音楽性を認められ、細野と高橋幸宏が主宰するレーベル、YENの一員として迎えられる。続いて帰国した日向らメンバーと共に82年に制作されたのが、ファースト・アルバム『インテリア』だ。
ウディ・アレンの同名映画から取られたインテリアというユニット名が想起させるエリック・サティの〈家具の音楽〉。アンビエントの祖とされる同曲から、ブライアン・イーノのオブスキュア・レーベルで生まれたアンビエント、スティーヴ・ライヒに代表されるミニマル・ミュージック――〈インテリア〉にまつわる連想はどこまでも広がる。
コンピューターと生演奏のアンサンブルを念頭に、細野晴臣がプロデュースした『インテリア』は即興的なセッションによって制作された。ロック的なダイナミズムや肉体性、ポスト・パンク~ニューウェイヴのソリッドなサウンディング、サックス・ソロから感じられるジャズのニュアンスなど、特定のジャンルに回収されない独創的で豊潤な音楽空間が現出している。
その後、グループは沢村と別当の脱退を経て事実上の解散状態にあったが、野中のもとにウィンダム・ヒルよりリリースのオファーがあり、要望に応える形でファースト・アルバム収録曲を差し替えた『インテリアズ』として再編集。アーニー・アコスタがリマスターを実施し、85年に世界リリースされた同作は、累計12万枚のセールスを記録した。今回は『インテリア』とカップリングされ、2枚組の完全盤で楽しむことができる。
その2年後に発表された『Design』は、世界デビューを経て、日向と野中による2人組ユニットとなったINTERIORS名義でのセカンド・アルバムだ。日向が所有する東京のスタジオにて当時最先端のサンプラーやシーケンサーを用いて綿密に作り込んだ素材をアメリカに持ち込み、同地で最新機材を使用してレコーディング。バーニー・グランドマンによるマスタリング後、世界リリースされた。ウィンダム・ヒルのレーベル・カラーを継承したニューエイジ・サウンドやピアノ・ソロのミニマルなアプローチ、プログレッシヴな楽曲展開など、音楽性の自由な広がりは前作と共通しているものの、即興性が強い初作に対して、『Design』はそのタイトルが示唆するように、アレンジやアンサンブル、サウンド・プロダクションが緻密にデザインされ、立体的な音響表現を極めている点が大きな特徴だ。
その後グループは自然消滅しているが、テクノロジーやジャンルへ依存することなく、独自な表現を切り拓いた彼らの高い志は、今回リイシューされた3作を介して、消費傾向が加速している近年の音楽シーンに新たなインスピレーションをもたらすだろう。
左から、沢村満の2016年作『ミツル ワールド』(Heaven Island)、日向大介のベスト盤『オーガニック・スタイル 日向大介 AKA CAGNET the BEST』(ソニー)、野中英紀の95年作『A-Key』(サン&ムーン/Studio Mule)