©Alvaro Arisó

 「この4年間、いろいろな街から街へ旅をしていた。だから、時間の過ぎ方が普通とは違っていて、すごく変な感じで。4年間なのに、まるで6か月しか経っていないみたいに感じている。旅をしながら本当にたくさんのことをやった」。

 コロンビア出身のクリエイターで、ドミノから2020年にリリースした初作『acts of rebellion』が高い評価を得たエラ・マイナス。ミニマルで先鋭的なプロダクションを追求した同作は、クラブ・ミュージック的なサウンド主体な作りだったが、長い制作期間を費やしてこのたび完成したセカンド・アルバム『DÍA』は、サウンドスケープの広がりや音響、内省的なリリックに深みを増し、それに伴ってヴォーカル表現に比重を傾けた、ソング・オリエンテッドな内容に移行している。

 「新しいアルバムを作る意欲へのインスピレーションはしばらく降りてこなかった。パンデミックで本当に奇妙な時間だったから。2020年に前作をリリースして、プロモーションの計画やフェスの出演もたくさん決まっていたのに一瞬で消えてしまって、あれは何とも言えない経験だった。でも、気持ちを切り替えようと思った。もしかしたら、この奇妙な時間こそがレコードを作るための興味深い機会なんじゃないかって。疑念や疑問がたくさん湧き出てきた時期だったし、この混乱した気持ちを音楽にしたらおもしろいものができるかもって思った」。

ELA MINUS 『DÍA』 Domino/BEAT(2025)

 そうした立脚点と「同じような作品は絶対に作りたくない」というヴィジョンのもと、3年間かけて故国のコロンビアやメキシコ、さらに北米やヨーロッパを巡りながら曲作りを進行(実は東京も訪れていたそうだ)。前作が自宅で制作されたのに対し、場所を移しながらの創作が本作の内容そのものに大きく作用したという。

 「自分の家には馴染みのあるシンセサイザーしかないし、時間の制限もないから、自宅で作っていたら前と違うものを作るのは難しかったかもしれない。でも、移動しながら取り組んだおかげで、今回はまったく正反対の環境で制作することができた。スタジオを1時間だけ借りて、そこにある機材もまったく違っていたし、自分で環境をコントロールできないという状況がこれまでと違うものを作るのに大きく影響したと思う」。

 場所や時間の制約をクリエイティヴに反映させて生まれた『DÍA』は、結果的にサウンドの広がりと深みを立体化し、親しみやすさを増している。たまたまスタジオにあったベースを弾いて書いたという“IDK”や、サックスなどの管楽器を加えた“COMBAT”など、自他の演奏も交えたオープンな作りはそれを象徴するものだろう。

 「前作ではレコーディングしたものをライヴに反映させるというアイデアにこだわっていたから、ステージに持ち込めるシンセしか使わないというルールを自分に課していた。でも今回は何も気にせず作った。もしライヴでそのまま演奏できなくても構わないし、自分を縛ることもなく、ただ最高のレコードを作ることだけを考えていた」。

 そして何より特徴的なのは詞や旋律への意識を含む歌唱表現の変化だ。

 「以前なら間違いなく〈ヴォーカルは楽器の一つ〉だと答えていたけど、今回は歌詞を通して言いたいことがたくさんあった。より良い歌詞を書こうと自分を奮い立たせたことが、同時により良いシンガーになるための、そしてより良いプロデューサー、エンジニアになるための経験にもなった。ヴォーカルにより集中して注意を払うことで、そういった部分も磨かれたからね。もし歌詞がここまで重要じゃなかったら、まったく違う音楽を作っていた。声を優先し、それを中心にプロデュースすることで、今回のようなサウンドに仕上がったと思う」。

 そのようにして『DÍA』は、主役の志向と思考と人間味が深く注ぎ込まれた傑作となった。ここでの成果がより開かれた場で楽しめることも期待しておきたい。

 「私は常に人間らしいエレクトロニック・ミュージックを作りたいと思っていて、それはオーディエンスの顔を見て、みんなと繋がっていると感じたいから。だからラップトップは使わず、ハードウェア・シンセサイザーと声だけでライヴ感溢れるショウをやりたいと思っている。日本でライヴをするのは私の夢だから、ぜひ実現したい。みんなにもすぐ会えますように」。

 


エラ・マイナス
コロンビアのボゴタ出身、90年生まれのシンガー/プロデューサー。10代の頃は地元でラトン・ペレスのドラマーとして活動し、19歳で渡米してバークリー音楽大学に進学。卒業後はNYのブルックリンに移り、2015年にエラ・マイナス名義で初の音源“Jamaica”を自主リリースする。2020年にドミノからファースト・アルバム『acts of rebellion』を発表。デペッシュ・モードのリミックスなどでも注目を集め、2025年1月17日にセカンド・アルバム『DÍA』(Domino/BEAT)をリリースする。