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 ブレイクの予感。新たにエピタフと契約したフロリダ州タラハシー出身の4人組ロック・バンド、プール・キッズが3年ぶりのニュー・アルバム『Easier Said Than Done』で僕らリスナーに味わわせるのは、まさにその期待感だ。

POOL KIDS 『Easier Said Than Done』 Epitaph(2025)

 パラモアのヘイリー・ウィリアムズが彼らのファンであることをSNSで発信した時点でもっと話題になってもよかったと思うし、「みんなに歓迎されたことは忘れられない。日本は大好きな場所になった。必ず、また戻りたい」とフロントパーソンのクリスティーン・グッドウィンが回顧する2023年12月の来日ツアーを観た人なら何を今更と思うかもしれないが、バンドのスケールアップをダイナミックにアピールする今回の新作をきっかけにプール・キッズの存在に注目する人の数はこれまでとは桁違いに増えるに違いない。

 「とてもワクワクしている。前作は支援らしい支援がほとんどない状態でリリースしたけど、今回は成長を一緒に見守りながら、投資してくれる大きなチームがついているからね」。

 前掲の発言も含め、今回メールでインタヴューに答えてくれたクリスティーンもバンドの新たなキャリアの始まりに声を、いや、言葉を弾ませているが、やはりブレイクスルーという表現が相応しいアルバムを作り上げることができたという特大の自信があるのだろう。それもそのはずで、これまでエモ × マス・ロックと謳われてきたプール・キッズの曲の数々は今回、ロックのメインストリームに食い込んでいけるポテンシャルをものにしているのだが、同時にポップに対するマニアックな魅力としてのプログレ志向もさらに高まり、聴きどころとなっているのだから、本人たちの自信も大いに頷ける。

 「プール・キッズらしさを維持したかったから、必ずしも大きく音を変えたいとは思っていなかった。ただ、前作と似すぎていたり、冗長だったりするような作品にはしたくなかった。私たちはよく前作と双子のアルバムではなく、兄弟や従兄弟のように聴こえる作品にしたいと比喩的に表現していた。おもしろく、考え抜かれたロック・ミュージックをめざしながら、同時にポップな要素も取り入れることを常に心掛けてきたから、そういうふうに受け取ってもらえてうれしい」。

 オープニングを飾るアルバム表題曲をはじめ、エモ × マス・ロックの延長上でポップスとしての強度を増した曲が並ぶが、なかでも“Sorry Not Sorry”と“Which Is Worse”の2曲は新たにシンセ・オリエンテッドな音像を打ち出した点でアルバムのハイライトと言えるだろう。

 「シンセは前作でもかなり使っていたから新しい挑戦ではなかったけど、“Sorry Not Sorry”はギターがかなりの部分で控えめになっているから、少し異なる印象があるかも。私たちは常に曲を最優先にすることを意識しているんだけど、この曲はギターを求めていないと感じたから、シンセの音を前面に出したんだ」。

 もちろん、激しい感情のアップダウンを大胆に表現した“Sorry Not Sorry”におけるクリスティーンの歌声も聴き逃せない。他にも、ポップス × エモ・メタルな“Bad Bruise”、シューゲイズ・サウンドがドラマチックな展開の中で炸裂する“Dani”、フォーキーなバラードをシンセがアトモスフェリックに包み込む“Perfect View”、ストレートにエモいロックナンバー“Exit Plan”など、聴きどころは少なくない。

 また、クリスティーンが「マキシマリスト的」と表現する手数の多いバンドの演奏も聴くたびに発見があっておもしろい。そのなかでクリスティーンと、知る人ぞ知るエモ・リヴァイヴァル・バンド、ユー・ブルー・イット!のメンバーだったアンディ・アナヤが繰り広げるテクニカルかつメズマライジングなギター2本のアンサンブルは、プール・キッズの大きな武器と言ってもいい。

 DIYシーンが出自だから、ロックスターを気取っているようなところはこれっぽっちもないが、いわゆるエモ・バンドとは一味違う華やかな佇まいもアドバンテージだ。最後に今後の目標を尋ねると、「音楽が多くの人に届いて、快適にツアーができたら、それだけで成功したと感じられるし、永遠に続けていける」という答えが返ってきたが、それはちょっと控えめすぎると思う。

 


プール・キッズ
クリスティーン・グッドウィン(ヴォーカル)、アンディ・アナヤ(ギター)、ニコレット・アルバレス(ベース)、ケイデン・クリントン(ドラムス)から成るバンド。フロリダ州タラハシーで2017年に結成され、翌年に初のアルバム『Music To Practice Safe Sex To』をリリースする。2022年の2作目『Pool Kids』発表後のツアーが国内外での評価を高め、2025年に入ってエピタフと契約。このたびサード・アルバム『Easier Said Than Done』(Epitaph)をリリースしたばかり。