通常のファドではあり得ない実験的なソロ・アルバムで国際的評価を得ているポルトガルの歌手Linaと、スペインのジャズ・現代音楽界で群を抜く存在感をみせるピアニストのMarco Mezquidaによるデュオ作。本作は今年3月に発表された同名EPに、ファドの古典やスペイン語圏の民謡・宗教歌を加え発展させたフルアルバムだ。現代ではお目にかかれない濃密な哀愁を湛えながらも透明感を保つLinaの歌唱が何よりも秀逸で、聴き手の意識の全てをその歌声に吸い寄せる。ピアノとの緊密な対話を通じて、旋律と間を互いに呼応させながらファドを室内楽的で現代的な表現へと昇華させた伝統歌の歴史に残る名盤である。