80年代のスミスにはじまり、ストロークスやリバティーンズ、近年ではブラック・ミディなど音楽史に名を残すバンドを輩出してきた英国のインディー・レーベル、ラフ・トレード。そんな名門がデモを聴いて即座にアプローチを掛けて契約を結んだという期待の新人が、LAに拠点を置く6人組、ソフスである。

 「本当に夢みたいで、まだ現実感がないよ」と語るのは、フロントマンのイーサン・ラモンだ。「デモ音源とプレス写真にバンドの世界観や方向性をまとめた資料を付けた〈ソフスのブランドブック〉みたいなものを作って、20~30のレーベルのCEO宛に直接送ったんだ。そしたら翌朝8時に(ラフ・トレード共同運営者の)ジェフ・トラヴィスから電話が来て、LAでライヴが観たいと。それで急遽組んだソフスの初ライヴを観てもらって、契約を結んだというわけ。感謝の気持ちでいっぱいだけど、まだやるべきことはたくさんある。決して満足はしてないよ」。

 メンバーのうち4人はアリゾナ州出身。高校時代からの仲だという。数年前に全員でLAに移住し、ソフスと並行して各自で別の音楽プロジェクトもやっていた。だが、リズム隊の2人に出会った頃からソフスに専念するようになり、現在へと至る。

 イーサンがもっとも影響を受けたアーティストはブライト・アイズ。他にもミツキ、ウィル・オールダム、マーク・ラネガン、そしてシンガー/作詞家としてはトム・ウェイツやレナード・コーエンをインスピレーションに挙げる。ここからもわかる通り、ソフスはUSインディーや北米ロックの豊かな土壌に根を張っている。そして、その栄養素を存分に吸収し、さまざまな形に変換しながらも、不特定多数の心にストレートに届くポップでエモーショナルなサウンドへと昇華できるのが最大の強みだ。

 「僕らとしては、バンドでどんな音楽をやるか、最初から明確にイメージしていたわけじゃないんだ。だけど、むしろそれが強みで。一曲ごとにやりたいことを決めて、その都度違うことに挑戦している。でも、なぜか全部ソフスらしい音になるんだよ」。

THE SOPHS 『The Sophs』 Rough Trade/BEAT(2025)

 そうイーサンが自負するように、このたび日本独自企画でリリースされるタワーレコード限定盤『The Sophs』には、それぞれに異なるアイデアを持ちながらも、ソフスの美学を通底させた6曲が並んでいる。デビュー曲である“SWEAT”は、イーサンいわく「みんなが一緒に歌えるアンセムを書こう」と意気込んで作った曲。

 「当時はスマッシング・パンプキンズの“1979”をよく聴いていて、あのテンポ感や、あの曲が自分に与える感覚をどうにか再現したかった。だから“SWEAT”のイントロにも、ちょっと似たような構成があると思う」。

 そして“DEATH IN THE FAMILY”は、激しいギター・サウンドと愛くるしいメロディーが初期ウィーザーを彷彿とさせるエモ・ソング。一方、パンキッシュな疾走感に満ちた“I'M YOUR FIEND”は、「ここ10〜20年の間にカリフォルニアやオレンジ・カウンティのバンドがやってきた音楽に挑戦した、西海岸っぽいサウンド」だという。マック・デマルコ“For The First Time”のカヴァーもあるが、かなりテンポアップされており、ガレージ・ロック色が強い。

 「彼の楽曲は大抵すごくゆったりしていて、トリッピーな質感がある。でも、曲の骨格をバラしてみると、どんなテンポやリズムにも合う構造なんだ。〈土台の強い曲〉だから、テンポを上げても機能するんだよね」。

 6曲とコンパクトながらも多彩な魅力を放つ『The Sophs』は、彼らのポテンシャルを伝えるには十分すぎる一枚だ。来年に予定しているというフル・アルバムへの期待は、いやがうえにも高まる。

 「アルバムにはいろいろなタイプの曲が入っているけど、それをまとまりのなさじゃなく、多様性の強さとして受け取ってもらえたら嬉しい。音楽はリスナーとの対話なんだ。だから願うのは、聴く人にちゃんと伝わること。それだけだよ」。

 


ザ・ソフス
イーサン・ラモン(ヴォーカル)、オースティン・パーカー・ジョーンズ(ギター)、セス・スメイズ(ギター)、コール・ボビット(ベース)、サム・ユウ(キーボード)、デヴィン・ラス(ドラムス)から成るLA出身のバンド。高校時代の友人を中心に2021年頃に結成され、2024年にラフ・トレードと契約。2025年6月に発表したファースト・シングル“SWEAT”が話題を集めるなか、12月5日に日本独自企画のミニ・アルバム『The Sophs』(BEATINK)をタワーレコード限定でリリースする。