©Adrien H. Tillmann

ワーキング・バンドで原点回帰し、新たな表現を拡大したジェローム・サバーグ

 ブルックリンを拠点に活躍するジェローム・サバーグ(テナー・サックス/ソプラノ・サックス)が、自ら主宰するアナログ・トーン・ファクトリーから、レーベル3作目をリリースした。同レーベルの前作で、オーディオファイルからも高い評価を得たクリス・チークの『Keepers Of The Eastern Door』の録音前日に、このアルバムは全く同じフォーマットで収録された。スタジオはパワー・ステーションで、ワン・ルームでのライヴ演奏を2chアナログ・テープに名匠ジェイムス・ファーバーが録音をし、バーニー・グラントマンがマスタリングとアナログ・カッティングを手掛け、サウンド面でも極上の完成度を誇っている。

JEROME SABBAGH 『Stand Up!』 Analog Tone Factory(2025)

 サバーグは、前作、前々作と、ケニー・バロン、アル・フォスターと憧れの大ヴェテランと共演して、新たな境地に到達した。本作では、20年以上行動を共にしているワーキング・バンドのベン・モンダー(ギター)とジョー・マーティン(ベース)に、新たにナシート・ウェイツ(ドラムス)を迎え、自らの原点回帰を図る。アルバムは全てオリジナル曲で構成され、レイ・チャールズ、スティーヴィー・ワンダー、トレント・レズナーら、R&B、ロックのアイコンから、サム・リヴァース、ポール・モチアン、ケニー・バロンら、敬愛するジャズ・レジェンドらに捧げられた。サバーグのストレートで美しいトーンのメロディに、パンキッシュでノイジーなモンダーのギターがコントラストを描き、マーティンが力強いラインで支えている。新たに繊細でありながらアグレッシヴなウェイツのドラムスが加わり、クァルテットの表現は拡大した。デジタル・テクノロジーを一切排した完全アナログ録音のLPレコードは、緊密なワン・ルームでのセッションを生々しく捉え、スタジオの楽器配置をそのまま反映した音場感は、ジャズ・クラブで聴く白熱の演奏を想起させる。現代に甦ったジャズ黄金時代のテクノロジーで、ジェローム・サバーグは最先端の現代ジャズを切り拓く。