デビュー50周年記念コンサートを全国各地で開催、盛況のなか終えた2025年の山崎ハコ。そんな年の締めくくりに『飛・び・ま・す(デラックス・エディション)』が12月24日(水)にリリ-スされる。

本作では、当時シーンへ鮮烈な登場を果たし、日本音楽史に残る伝説的な1stアルバムをマスターテープから初リマスター。さらに1976年、新宿ロフトでの貴重なライブ音源も収録した50周年記念盤だ。海外では諸作が再発見・再評価されて人気を博し、国内では幅広い活動で新たなファン層を獲得しつつある山崎の音楽、その原点を新視点で聴くことができる作品になっている。そこで今回は、評論家/音楽ディレクター柴崎祐二に本作を現在の観点から論じてもらった。

なお2026年は2ndアルバム『綱渡り』のリリースから50周年の節目を迎え、同作のデラックス盤も発表される予定。山崎の音楽がますます新鮮な輝きをもって響くことに引き続き注目してほしい。 *Mikiki編集部

山崎ハコ 『飛・び・ま・す(デラックス・エディション)』 ポニーキャニオン(2025)

 

再評価のキーワードは〈サイケデリック〉と〈オルタナティブ〉

山崎ハコの作品が海外のリスナーの間で話題になっているという話を知ったのは、いつ頃のことだったろうか。確か、スイスの先鋭的なリイシューレーベルWRWTFWWから彼女のファーストアルバム『飛・び・ま・す』とセカンドアルバム『綱渡り』が再発される2023年より少し前だったように記憶している。

その話を聴いて、正直に言うと私は少し意外の感を抱いた。かつて、日本の聴衆からは〈暗い〉だとか、〈情念的〉だとか形容されるのが常だったあの山崎ハコがなぜ?と思ったのだ。しかし、それと同時に、妙に得心している自分もいた。

遡れば、2015年にUKのオネスト・ジョンズから浅川マキのアンソロジー盤が出て話題となったり、2017年には米シアトルの名門ライト・イン・ジ・アティックから1970年代の日本のフォークロックを題材としたコンピレーション(『Even A Tree Can Shed Tears(木ですら涙を流すのです)』)が出ていた。更に、その少し前には知人のアメリカ人のコレクターから森田童子について熱っぽく語られた経験もあったし、もっと古くに遡れば、佐井好子の諸作や、西岡たかしらの『溶け出したガラス箱』、そして金延幸子の『み空』などのレコードが、サイケデリックフォークやアシッドフォークの文脈で人気を集めるといった事例もあった。

そういった事実を踏まえてみれば、山崎ハコの“ヘルプミー”(『綱渡り』収録)や“さすらい”(『飛・び・ま・す』収録)といった曲が各種ストリーミングで再生数を伸ばしているという知らせも、確かに腑に落ちるものだった。そう。やはり、ここでも再評価にあたっての重要なキーワードとなっているのは、〈サイケデリック〉、それに(現在のインディーフォークへと続く系譜が意識された上での)〈オルタナティブ〉なのだ。