ロック史に輝く75年作が50周年! あなたがここにいてほしい――
〈大いなる不在〉を直視したプログレ名作、その謎深き魅力とは?
演奏家としてピークを迎えていた時期
ピンク・フロイドについて考えはじめると、次第に気が遠くなってくる。本稿はあくまで『Wish You Were Here』(75年)のリリース50周年を記念するアイテムに関するものだが、まずその収録内容について確認しようとした時点で頭のなかの整理が追い付かなくなる。今回登場したのは、2枚のCDと1枚のBlu-rayが7インチ紙ジャケ仕様のパッケージに収められた日本独自盤、さらに2枚組LP、2枚組CDがあり、輸入盤にまで目を向ければ、超豪華なデラックス・エディション、3枚組LP仕様のものまで出る。ことに〈全部入り〉のデラックス・ボックスには特典も満載で、しかも1,500セット限定というのだから、リリース前からコレクターズ・アイテム化することが確定済みだといえる。
そして当然ながら仕様や特典ばかりではなく、収録音源自体が途轍もない。日本独自仕様の3枚組を例に挙げて説明しておくと、2枚のCDにはオリジナル・アルバムの全5曲に加え、ボーナス・トラックとしてスタジオ・レア音源が9曲収録されており、そのうち6曲は完全未発表音源、4曲は定評あるジェイムズ・ガスリーによる新たなミックスを経たものになっている。加えてBlu-rayにはオリジナル音源がDolby Atmosを含む4種類のミックスで収められ、先述のレア音源も網羅されているほか、未発表ライヴ音源が16曲、さらには公演時のスクリーン・フィルム、ストーム・トーガソンの制作によるショート・フィルムなどまで収められているのだ。
ちなみにその未発表ライヴ音源は、75年4月26日に行なわれたLA公演の際のもの。時期的には『Wish You Were Here』が世に出る4か月以上前にあたり、トータル130分にも及ぶこの音源には、本作やそれに続いた『Animals』(77年)の収録曲の初期ヴァージョン、73年の怪物アルバム『The Dark Side Of The Moon』の全曲が含まれている。いわゆるブートレッグ愛好家たちの間では著名なマイク・ミラードの手によって録音されたこの音源は、いまやリミックス/リマスターの達人として広く認知されるようになったスティーヴン・ウィルソンが手掛けたきめ細かな修復作業を経て格段にグレードアップされているが、何よりも演奏そのものが凄まじく、まさしく演奏家としてピークに達しつつある時期ならではの空気感を堪能することができる
