音源と本でたどる「音による自叙伝」

 作家・五木寛之の音楽関係の業績をまとめた集成箱だが、これがもう大変な力作で驚いた。「歌謡曲から童謡、CMソング、合唱曲、番組まで」なる副題どおり、彼が作詞家(時に作曲も)として過去に作った様々なジャンルの楽曲を集めたCD4枚(一部ナレーションも含む計78曲)、出演したTV番組(日テレ系「遠くへ行きたい」から71年放映の2本)を収録したDVDが1枚、そしてエッセイや対談などを収めた本①(224p)、楽曲解説と歌詞を掲載した本②(88p)という構成。

五木寛之 歌いながら歩いてきた~歌謡曲から童謡、CMソング、合唱曲、番組まで Columbia(2019)

 1932年(昭和7)に生まれ、66年に「さらばモスクワ愚連隊」で文壇に登場して以降、米寿間近の今日まで人気作家として活躍してきた五木は、まさに「歌いながら歩いてきた」人でもある。作家デビュー以前は、CMソングや社歌などの作詞家〈のぶひろし〉として活躍する傍らクラウン・レコードの専属作詞家になり、作家として成功してからも小説とのコラボレイション・ワーク(TVドラマや映画)を軸にたくさんの名曲を書いてきた。フォーク・クルセダーズ《青年は荒野をめざす》、松坂慶子《愛の水中花》、ハイ・ファイ・セット《燃える秋》、山崎ハコ《織江の唄》等々、歌謡曲やフォーク等を集めたのがこのボックスのCD①~③で、のぶひろし時代のCMソングや社歌/企業PRソング(日石、長谷川工務店その他)などを集めたのがCD④だ。岸田今日子が歌う《四季・奈津子》や鳳蘭《白夜わが愛》、ミルヴァ《二丁目の子守唄》、渡哲也《海を見ていたジョニー》、藤田まこと《夜のララバイ》といった珍しい音源も満載だし、オリジナル・ラヴ版《青年は荒野をめざす》などのカヴァーまである。そして、武満徹や美空ひばりからミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ブラート・オクジャワ等が登場する本①の対談や有名曲にまつわるエピソード/詳細解説など、ブックレットの充実ぶりがとにかく半端ない。集成ボックスものを作るならここまでやれ! という手本のような仕事ぶりに、敬服。