ブルーにこんがらがった若きヴォーカリストが見つけた仲間や聴き手のいる喜び。ファースト・アルバム『Act. 0』には音楽家として生きる覚悟が刻印されていて……
16歳でアメリカに留学し、やがて歌の道を志すようになったレイニ。彼のファースト・アルバム『Act. 0』は、配信されている8曲に加えて新曲2曲、さらにボーナス・トラックとしてドラマ「愛の、がっこう。」主題歌でYuraを迎えた“Spiral”の英語ヴァージョンを収めている。何者でもない自分に打ちひしがれた心境を歌ったインディーズ・デビュー曲“無口な涙”から始まるアルバムは、天性の憂いを帯びたハスキーな歌声が映える曲を揃えた。Netflixドラマ「グラスハート」に出演するなど、俳優としても注目を浴びているレイニにインタヴューした。
まだ1にもなっていない
――ONE OK ROCKがきっかけで音楽にハマったそうですね。
「小学校のときに“Re:make”を聴いて刺激を受け、どハマりしました。ロック・バンドはシャウト系が多いイメージだったんですが、ONE OK ROCKさんはメロディーが綺麗で歌いたくなる。“Re:make”を収録したアルバム『残響リファレンス』のライヴがさいたまスーパーアリーナであったので観に行きましたし、学校でもずっとONE OK ROCKさんを歌ってました」
――最近よく聴いているのは?
「まずは自分のデモ(笑)。過去の自分の歌を聴いて歌い方を試行錯誤するのが好きなんですよね。あと藤井 風さんをよく聴いています。特に自分が観に行った日産スタジアムでのライヴ〈Fujii Kaze Stadium Live “Feelin’ Good”〉がすごく好きで、よく映像を観ていますね」
――藤井 風さんのどんなところに惹かれますか?
「自分にはない不思議な魅力がある方で、引き込まれます。ピアノも独創的ですし、R&Bやジャズなどいろいろな音楽の要素が感じられる。全部が好きです」
――ファースト・アルバム『Act. 0』にはインディーズでのデビューから約1年半の足跡が収められました。
「タイトルの『Act. 0』には〈僕はまだ1にもなっていない〉〈ここからがスタートだ〉という想いを込めています。アルバムのテーマカラーが成長過程を意味する青で、アートワークの一部にオレンジを使っているんですが、オレンジは青の補色でお互いを引き立て合う関係なんです。最後に収められた新曲“アルストロメリア”の歌詞に〈オレンジ色の花〉っていうワードが出てきますが、この曲を最後に置くことで良いスタートを切りたいっていう気持ちを込めました」
――“アルストロメリア”はレイニさん自身が作詞作曲したバラードです。
「もともとバンドの音楽が大好きということもあって、バンドで1曲作ってみたいと思って取り組みました。リファレンスは4ノン・ブロンズの“What’s Up?”やソウル・アサイラムの“Runaway Train”。僕がギターを弾きつつバンドのみんなでアレンジしていきました。アルストロメリアの花言葉は友情。それをふまえて旅立ちを歌った卒業ソングになってます」
――終盤のコーラスはバンドのメンバーの方たちですか?
「そうです。この曲の前に入ってる“@the studio”っていうインタールードではバンドのみんなとスタジオでコーラスの練習をしたり、僕が話したりしているやりとりがそのまま入ってます」
――インタールードは“@the studio”を含めて3曲収録されています。
「ディレクターと話したなかで出てきたアイデアでした。ONE OK ROCKさんのアルバムにもインタールードが入ってるものがあって、そのインタールードをライヴで使っていたりするので、〈のちのちそういう使い方もできるといいな〉と考え、入れてみました」
――3曲目として収録されたインタールード“Rainy day”に入っているのはレイニさんの口笛ですか?
「4曲目“ナイトサーカス”のイントロで吹いた口笛を連想してもらいたくて入れました」
――7曲目の“Call me”にはレイニさんの英語のセリフが入っています。
「ちょっと恥ずかしいですね(笑)。8曲目の“I’m in love”のトラックが後ろで流れているのと、6曲目の“Spiral”が男女の葛藤を描いている曲なので“Call me”はその2人が前向きに生きていくことを示すセリフを話してます」
レイニってどんな音楽家?
――曲作りは実体験とフィクション、どちらをベースにすることが多いですか?
「実体験を混ぜることもありますが、僕はいかにもという青春時代を過ごしてないので“アルストロメリア”は完全に想像で作りました。昔はすごく暗かったので、実体験をそのまま歌詞にするとあまりプラスなことが書けないんですよね(笑)。特に“夜のカケラ”は僕がいちばん暗い時期に書いた曲です」
――自己嫌悪や所在のなさが描かれた歌詞ですよね。
「そのときの自分の気持ちをそのまま書きました。アルバムの中にこういう曲があってもいいと思うんですが、全部こういう曲だとすごく暗いアルバムになってしまう(笑)。でも〈“夜のカケラ”がいちばん心に刺さる〉とか〈助けられた〉って言ってくれるファンの方もいらっしゃるので、暗い時期の自分に共感してくれる人がいて良かった。何かしらの理由で暗くなってしまった人に向けての曲を増やしてもいいなとも考えています」
――いまは“夜のカケラ”の時期よりは明るくなったんですか?
「元気になりましたが、人生山あり谷ありなのでまたすぐ落ちるんじゃないかな(笑)。そうなったらまた歌詞にすればいいので、落ちたとしてもマイナスではないと思ってます」
――アーティストという職業はメンタルが落ちても表現に昇華できますもんね。
「だから自分に合ってると思ってます」
――新曲の“I’m in Love”はアップテンポでドライヴ・ソングっぽいですね。
「スロウテンポの曲が多いのでノリのいい曲がほしいと思ってtararebaのお二人と一緒に作りました。シェリル・リンの“Got To Be Real”とか70~80年代のディスコ・サウンドのイメージがあったんですが、アップテンポの曲は歌い慣れてないので最初はめちゃくちゃ大変でしたね。でもライヴでもこういう曲はあったほうがいいと思うし作ってよかったです」
――初めてアルバムを作ったことでレイニというアーティストに対して見えてきたことはありますか?
「うーん……音楽性が定まっているアルバムではないので、いまは〈レイニってどういうアーティストなんだろう?〉って思わせたいですね」
――これから、いろいろな曲が出来てきそうですね。
「唯一なさそうなのはシャウト系ですかね。1回デモ曲で〈ウェー!!〉って叫んでみたんですけどあまりに迫力がなさすぎて止めました(笑)」
――現時点での目標はありますか?
「気持ちは変わっていくので目標もどんどん変わるんですけど、いろんな自分を出して、ワクワクしながら前に進んでいきたいですね」
――音楽活動をすごく楽しんでらっしゃるんですね。
「楽しいですね。ライヴでお客さんの反応を見られるのも素敵なところだなと思います。先日もアルバムのリリース・イヴェントがあったんですが、曲を聴いてくれている方たちと会話ができて、〈自分やチームが人の気持ちを動かせるんだな〉と実感できてすごく楽しかったです」
本文中に登場したアーティストの作品。
左から、ONE OK ROCKの2011年作『残響リファレンス』(A-Sketch)、4ノン・ブロンズの92年作『Bigger, Better, Faster, More!』(Interscope)、シェリル・リンの78年作『Cheryl Lynn』(Columbia)
『Act. 0』を制作したアーティストの関連作。
左から、ハルカトミユキが参加した楠木ともりの2024年のEP『吐露』(SACRA MUSIC)、tararebaの前身にあたるHOWL BE QUIETの2023年作『HOWL BE QUIET』(APARTMENT)、片桐航が在籍するLenny code fictionの2023年作『ハッピーエンドを始めたい』(キューン)
